白石豊(福島大学名誉教授) ・【スポーツ明日への伝言】 本番に強い心をつくる
昭和29年生まれ、筑波大学大学院体育研究科修了後、筑波大学大学、福島大学、朝日大学で教壇に立ちながらスポーツとメンタルの関係について研究を続け、実際に学生だけではなく、オリンピック代表選手やプロ野球選手などへの指導をしてきました。 42年間の大学教員生活を終えられて、現在は岐阜に白石塾を開校し、トップアスリートやコーチに指導してきたメンタルトレーニングの内容などを一般の人たちへも伝える活動をしています。
私がメンタルの勉強を始めたのが1972年なので、丁度今年で50年になります。 当時東京教育大学(現在の筑波大学)の1年生でした。 ミュンヘンのオリンピックで男子体操は15個のメダルを取りました。(金=5、銀=5、銅=5) そのうちの半分が私の先輩たちでした。 喜び勇んで練習を始めたら故障して腰が動かなくなり、大学の図書館に行っていろんな本を読んでいました。 ソ連のスポーツ科学者が書いた本を読んでいたら、ラリサ・ラチニナというソビエトの女子体操のローマオリンピックチャンピオンで、マイケル・フェルプスが出てくるまでオリンピックの総メダル数ギネスだった方です。 「私は体育館だけで練習するのではなく、頭でも練習する。」と書いてありました。 今風に言うとイメージトレーニングだったんです。 この一行をきっかけにいろんな本を当たって行きました。
いいイメージトレーニングをするには2つ条件がある。 ①肉体はリラックスしていなくてはいけない。(スポーツだけではなくてあらゆる学習活動、仕事も全く同じ。) ②肉体はリラックスしつつ精神は集中していなくてはならない。
リラックス、集中という言葉は聞いていたが、どうやってやるのかは聞いたことがなかった。 そこから追及するようになりました。 私は8つのメンタルスキルを30数年前から教えるようになって、①意欲、②自信、③感情コントロール、④リラックス、⑤集中、⑥イメージコントロール、⑦コミュニケーションスキル、⑧セルフコミュニケーションスキル です。
ドイツのシュルツという人が100年前以上に開発して自律訓練法がいいというのが判って、大野清志先生という教育心理学の先生がいまして、学科目の紹介に自律訓練法がありました。 シュルツさんはリラックスすると重くなるという事と、温かくなるという事を見つけた方なんです。 緊張するとふわふわして軽い、手足が冷たくなったりする。 大野先生に教えを請いに行きました。 重くなるように唱えて、自律訓練法記録用紙を渡されて、どんな感じなのか書いてくるように言われました。 1週目が右手、2週目が両手、3週目両手と右足、4週目両手両足、5週目全身、6週目が右手が重く温かいになるんです。 順次10週目になります。 11週目は鍛錬と言われるへその下の気力がみなぎると言われるそこがふわっと温かくなって、額は逆に涼しいという感覚になると、イメージ凄く出るよと言われました。 11週目を終えて、イメージトレーニングに入ろうかと言われました。 金メダルをとってきた選手の体操の動きを穴が開くほど見て、頭に焼き付けて、帰って下宿で自律訓練法でリラックスして集中して額に意識して、今日見てきた最高のものを頭で再現しなさい、と言われました。 これで人生変わりました。
体操のチームドクターで日本の腰痛の権威の矢橋健一先生が横浜にいるから紹介状を書いてあげると或るオリンピック選手の先輩から言われました。 週一でひと月来れば痛みをとってあげると言われて実際痛みが取れました。 次の一か月は当時の巨人のチーフトレーナーの井上良太さんを紹介してもらい治療を受けて復帰できてしまいました。 その後筑波大学に残って体操のコーチをやるように言われました。 練習量を増やしたりして13年間勝てなかったが、最終種目で大逆転して全日本で優勝が出来ました。 当時はメンタルのことを聞いてくる人は誰もいませんでした。 川上監督が辞めて翌年書いた「座禅とスポーツ」を読んで衝撃を受けて、自分も心を磨かないと駄目だと思って盛岡の東顕寺?の座禅の強化合宿に行きました。
体操、野球、バスケットボール、新体操、スピードスケート、サッカー、ゴルフ、エアレースなどの選手、舞台もワールドカップ、オリンピックなどいろんな舞台のスポーツを見てきました。 1985年の大阪大学の先生にヨガを教えていただきました。 駒澤大学の野球部の太田監督とお会いしてうちの野球部に教えて欲しいと言われました。 その時のキャプテンが広島にドラフトNO1で入った野村謙二郎君でした。 一流選手を見られるようになりました。 どんないい選手でも必ず浮き沈みがあります。 困っている時に私のところに来るのでみんな暗い顔をしてきます。 具体的に何していいかわかるので2時間もすると明るい顔をして帰ります。
女子バスケットの萩原美樹子さんは4年連続得点王でしたが、2年連続得点王の時に決勝戦。国際マッチで5年間連続5点以下という本番に弱いという烙印を貼られてしまいました。 夜も眠れないという事で私の話を聞いて尋ねてきました。 18歳の時の決勝戦でのミスがトラウマになっていたようです。 3か月ぐらいで自信を6点ぐらいにする方法は持っているよと言いました。 4か月後のアジア予選では大活躍をして日本を20年振りのオリンピックに導いた立役者になりました。
ドイツのハイデルベルク大学のメンタルトレーニングの草分け的存在のエバー・シュッピッヒャー?という教授が奈良女子大学に来ていました。 ⑧セルフコミュニケーションスキル、選手は自分のなかで心でつぶやいて自分をつぶすんだよねといって、ネガティブセルフトーク、これは駄目なんです。 ⑦コミュニケーションスキル ここも磨かなければいけない。
アメリカのメジャーの野球のコーチは選手が求めているものに即座に対応できる準備はするし、一番先に来て一番遅く帰る、怒鳴るなんてことは絶対ない、と言うんです。 日本は指示、命令、恫喝。 私も最初はそうやっていました。 中にいいものを持っていて、それを外に出す手助けをするのが教育者というんだよと、引き出すんだよと、言われました。 それから勉強しました。 引き出すような教育方法をとっている人はいませんでした。 アメリカのビジネス書で、上司が部下にどのようにかかわり、言葉かけをするかで、生産性が全然違うと、部下が自信をもってやる気をもって集中して楽しくやってくれるようにするのは上司の役割だ、という事が書いてありました。 私も怒鳴るのを辞めて、上手に聞いてあげる、褒めてあげる、と言ったことをやって行ったら、こっちのストレスはなくなって行って、結果は凄いわけです。 これはあらゆる指導、リーダーシップとかに使えるので沢山利用しました。
遥か前から心技体という事は言われてきましたが、まず技術、駆使するための体力に割かざるを得なかった。 私のところに相談に来たトップアスリートは心の使い方を誰からも習っていなかった。 ホッと負けてしまった瞬間にどうするのこれ、ということが起こり、そういう人たちのサポートをしてきたと言うだけです。 阪神タイガースの下柳君などは32歳の時に会って二桁づつ勝って42歳まで投げたいと言ってきて、37歳の時に最多勝を取りたいと言ってきて、目標は15勝という事で、15勝に向けて生活スタイルも変えなければという事で、結局15勝して広島の黒田君と最多勝をわけました。
どうせ死ぬので死ぬまでは生きたい、出来れば生き生きと生きたいという風には思っています。