岡 まゆみ(大阪大学大学院 人間科学研究科 )・「川で溺れた人を助けようとして 亡くなった夫から学んだこと」
大阪府に住む岡まゆみさん(40歳)、夫の孝さんは2012年自宅近くの河川敷でジョギング中に小学生と中学生がおぼれているのを見つけて川に入りました。 小学生は助かりましたが中学2年生の男の子と助けようとした孝さんが命を落としました。 子供たちは川を横断するように転々と置かれていたコンクリートブロックの上で遊んでいて川に落ちたと見られています。 当時岡まゆみさんは小学校1年生の男の子と3歳の女の子の子育ての真っ最中でした。 突然夫を亡くし自分を見失いそうになった岡さんでしたが、やがて大阪大学の大学院に進学して安全行動学を学ぼうと決意しました。 岡さんはそこで何を学び社会に何を伝えようとしているのか伺いました。
2012年4月21日(土)午後のことでした。 主人は時間があるとジョギングするような人でした。 その日も2時ぐらいに走ってくると言って出ていきました。 4時に息子がスイミングに行く日なのでどんなに遅くてもその時間には帰ってきていましたが、4時になっても帰ってきませんでした。 熱中症とか、けがで搬送されているのではないかと胸騒ぎがして、消防署に電話で問い合わせました。 救急センターにつながって、そういった方は運ばれているが既に亡くなっていますと言われて、意味が判らなかった。 「川で子供さんを助けてなくなりました」と言われました。 浅い安全な川だと思っていたのでどうしてという思いでした。
警察の人が遺体の確認にご自宅に行きますと言われて、えっ誰のと思いながら、主人の実家に電話をしたら、お母さんが出て「亡くなったかもしれない」といわれました。
警察官が2人家に来て、「写真を確認してください」と言われて、見たくなくて「嫌です」といったんですが、見たら夫でした。 子供2人(5歳と2歳)と一緒にパトカーに乗って警察に行きました。 マスコミが来ているので裏からはいることになりました。
遺体の確認という事でめくったら夫が寝ていました。 夫は当時大手電気メーカーの半導体の開発をやっていました。 野球をやったり走ったり泳げる子煩悩な夫でした。(美化されているようなところの書き方もありましたが)
安威川は憩いの場というような存在です。 転々とブロックコンクリートが川を渡るように置いてあり、そのうえで遊んでいた4人のうち中学生と小学生が川に転落して助けようとしたという事です。
夫が最初に見つけたらしくて走ってゆくのを観た人がいます。 護床ブロックは流れをせき止めるが、下流に行くときに勢いを増すそうでそこに滝のようなくぼみができて、当時では2~4mの深さがあったと聞いています。(後日測定)
過去にも子供がおぼれたことがあるそうですが、その時には助かったようでした。
柵もなくてどうぞ入ってくださいというような形状で、納得がいかなくて、行政とやり取りをしました。 茨城土木事務所に行って、柵を立てるとか、ロープを張るとかやってほしいといったんですが、「河川の使用は自己責任のなかでの自由使用という原則がある」といわれました。 事故現場は全く改善されないまま終わってしまった時に、茨城市長と話をする機会を得て説明したら、水深を測ろうという事で2mの水深以上は看板が立てられました。 8年経っているので看板は景色の一部のようになってしまっている。
夫が亡くなることによって私は自分半分が死んだと思いました。 自分の生きている意味とは何なんだろうと思って、これから生きるのは子供の為しかないと思いました。
並行して行政に話をしに行っているなかで、「又言っている」というように感じました。
大学院に行って知識を身に付ければ、話をちゃんと聞いてくれるのではないかと思って大学院に行こうと決めました。 大阪大学の人間科学部の中に安全行動学研究分野というところがありここだと思いました。
事故が発生するメカニズムが必ずあるが、事故が起こるときにはストップをかけるセーフティーネットがあるが、偶然突き抜けてしまい事故が発生するという事、これかと思いました。
私は文学部出なので心理学分野は全く素人なので、1年目は普通の授業を受け、3年かけて修士論文を終了しました。
入ったときには高校の講師も続けていて午前中は講師、午後は大学に行き、5時ぐらいには子どもの面倒をする毎日1年続けていましたが、そこで切れてしまって、よくないと思って2年目からは仕事を辞めました。 修士論文の年末以降あたりからの期間は子供を実家に預けて取り組みました。 「小学生対象の安全教育の実践と効果測定」という事で安全教育プログラムを考えました。 子供たちと一緒に回って危険個所を子供目線で見つけて、どうしたらいいのか、いけないのかを考えて標識、ポスターを許可を得られたところに貼って、その実践と効果を論文にしました。 情報の共有もでき危険の感受性が強くなりました。
大学院修了後、教員に戻ろうかと思っていた時に教授から特任研究員として残って今のことをやらないかと言われ、今も大学に残っています。
講演をする機会も増えてきて、自分で情報を提供する勉強会も開催したりしています。
現場の一人一人の先生方にどうやったら事故が防げるのかとか、どんな事故がおこっているのかとかを知っていただきたい。
クラウドファンディング、いろんな人に読んでもらおうといろんなシーンごとにイラストを付けて本にしようと思っていて、お陰さまで403万円集まり本にできると思います。
行政のかたは原則論を掲げて、柵はつくらないと言っていましたが、夫の父親がその担当者に「あなたの子供が同様なことになっても原則論をたてに柵を作ろうとしませんか」と、声を震わせながら言いましたが、行政のかたはもう一歩踏み込んでもらって身内だったらと考えて対策を打ちたてていってほしいと思います。
夫の事故現場は前回の事故の通報しても市には記録が残っていなくて、事故が起きなかったと同じ事になってしまう。
ボランティアで夜の見回りだとか安全行動しているが、善意だけでは限界があり、みんなで協力でき、報酬があるような形でみんなが参加できればずーっと継続できると思います。 もう少し大きな組織として広げて行けたらなあと思います。