上田勝彦(東京海洋大学客員教授) ・【美味しい仕事人】魚食文化を伝える
四方を海に囲まれたた日本、魚を食べる習慣は多彩な調理法や保存方法を生み魚食文化を育んで来ました。 しかし10年余り前から魚の消費は落ち込んできているといわれています。 魚の臭みや調理の手間などがネックになっているようです。 そんな魚を取り巻く厳しい状況を打開しようと活動している人がいます。 東京海洋大学客員教授の上田さん(55歳)は50歳の時に水産庁を退職するまで官僚として水産資源を管理する仕事をしていました。 日本の豊かな魚を食べる、魚食文化を守ってゆくためには消費者の理解を得る事こそが必要と在職中から魚をめぐる食育や調理法の講習を引き受けて全国各地を飛び回ってきました。 そして現在は自らを魚食文化復興伝道師として魚食文化の復興を本業に据えて日本の風土に根差した食の形を再構築していきたいと活動しています。
物心ついたころから魚が好きで、友達よりも飯よりも魚でした。 川の中とか海の中で見ると陸上動物とは違う生命の躍動感があるわけです。
幼稚園は仙台、小学校時代は千葉の松戸、中学校時代はオーストラリア、高校時代は品川区の小山台高校、大学が長崎大学の水産学部に行きました。
オーストラリアでは海の近くに住んでいてパラダイスでした。
長崎は離島あり、海岸線もいろんなタイプの海岸線があり海の標本箱のようなところでした。 魚種もたくさんあります。 漁師の家で働きながら大学に行きました。
バイクにテントを積んで回って漁師の家に泊めていただいて働いて、又次に行っていろんな漁業を体験しました。
卒業後9.6トンの船に乗っていましたが、高齢化で乗組員が少なくなっていって、仕事にならなくなり船長と2.5トンにしましたが食っていけなくなり、周りから中央に行けと言われ、水産庁に入りましたが、自分の中では出稼ぎというような感じでした。
最初漁業保険の仕事をしました。 その後漁礁を入れる仕事をして、その後瀬戸内海方面で密猟を取り締まるとかやっていましたが、神戸大震災に遇い復興支援などをしました。 その後捕鯨担当、海洋資源開発センターでマグロ漁場の開拓などして、鳥取県漁業調整事務所で5年半いましたが、本庁に帰って加工流通の仕事をしました。 25年務めて辞めることになりました。
資源管理というところにいましたが、資源管理というところは獲りたくてもやせ我慢をするわけですが、心折れるところがあり、そこを支えてくれるのが消費の力なんです。
現場にいて考える中で国としてどうしたらいいのかなと考えて、「魚を伝えて国興す」という思いが湧いてきました。
要望に合わせてお世話できることをお世話する、伝えられることは伝えるという事をやっているうちにその割合が増えてゆき役所の仕事が滞るようになり、選択して、水産庁を50歳で退職して、会社を立ち上げればという助言があり会社を立ち上げることになりました。
島国の国民がご飯を食べて健康でいられるかを考えると、魚、米、野菜の基本路線は外せないが、何故か日本はそれらをないがしろにして他の物を育てようとしている。
魚食の復興を何とかしようと思いました。 日本は7000の島で出来ていていますが、山が深くて飲める水が潤沢にあります。 しかしその基盤が大分崩れてきてしまっている。
魚を食べない文化が育っていて、消費者サイドをどうにかしないといけないと考えました。会社を立ち上げて5本の柱を立てて活動をしています。
①生産者、(漁師) ②市場など(加工流通業者) ③小売り(魚屋、スーパー) ④飲食店、料理人 ⑤家庭の食卓(主婦)
連動して育成していってつなげるという方向にこの数年間でならざるを得なかった。
活〆の技術、鮮度保持技術も地域、魚種などによって色々変わりますので、継続的にお世話できるようにする事です。
獲ってきた魚を休ませてリラックスさせたところで一発で殺して、元気に心臓が動いているうちに注文をいただく。 血は全部抜かないとか冷やし方も重要で5段階の技術が必要です。
市場の仲買も漁師と一体となって頑張っているところもあります。 僕の仕事は調整をする役割でもあります。
魚屋は過去のデータでは3年間で1万軒ぐらい減ってしまいました。 大手量販店が増えてしまって在庫を抱えてもリスクが少ない冷凍品が増えてしまいます。 昔の魚屋さんは判りにくいものなのでお客さんを育てながらやってきた。
理解あるスーパーもあり、スーパーの育成は重点事項の一つです。
日本調理師会の人の言うには若い人たちの魚を扱うレベルが低くなってきている。 おろした身だけ納入されたり、1/4欲しいとかと言ったりするために基礎的な修行する場がなくなる。 そして決まり切った魚しか扱わないようになる。
長野県でも4軒教えていますが、4年目になりますがメキメキと育ちました。
人間の第4の欲求は教わる欲求だそうで、第5の欲求は伝える欲求だそうです。 一般の方に料理講習初めて6年目になりますが、伝えるときに最初は野菜とのバランスとかで美味しく食べられることを教え、それができると自信ができて、そうすると自分でもさばきたくなります。
薄塩をあてる、日本酒は臭み成分を無くしてくるので加えて、ぐらぐら煮る、この3つが基本で、これは網走の郷土料理です。 魚は種類も多い、大きさも違い、季節によって味が違ってややこしいが、湯煮という一つの工程を踏めばどんな魚でも美味しくなる。
役所時代にやってきたことと今やっていることと中身の本質は変わらないです。 コロナでいろんなことを考えさせられました。 以前から通販をしていた人はうまくいっています。応援したいという漁師、応援したいという魚屋、料理屋は共通していますね。