2020年1月29日水曜日

大石善隆(福井県立大学准教授)      ・【心に花を咲かせて】苔は語る

大石善隆(福井県立大学准教授)      ・【心に花を咲かせて】苔は語る
大石さんは苔の生態や苔の魅力を多くの本で発信している方です。
京都の苔庭は海外からも多くの人が訪れ美しい庭として注目を集めていますし、苔玉とかいろいろな苔の寄せ植えなど最近は苔がブームだそうです。
自然界にも苔はあちこちで生息しています。
何気なく存在している様に見える苔なんですが、人にとって大事な役割を担っているし、私たちにいろいろなことを発信しているという事です。
苔から何が判るのかどんな役割を担っているのか、何故苔にそんなに夢中になったのかお聞きしました。

苔はいろんなことを教えてくれます。
環境のことやその他身の回りに起こっているあらゆることが苔から判ります。
京都の苔庭では苔が減ってるんです。
苔は非常に環境の変化に敏感で、京都で起こっているヒートアイランド現象の影響を強く受けてしまってます。
京都は1960年代には年間30回ぐらい霧が発生したんですが、近年では霧が無くなってしまって、年間ゼロの時もおおくて、苔はじわじわと生育が悪くなっています。
苔は葉の表面から直接水を吸収しています。
ほかの植物のように根から吸収しているわけではないんです。
水をまいても効果がないわけではないが、空気中の湿度が苔にとっては重要なんです。
葉の表面から水や栄養分を吸収しているので、大気からやってくる汚染物質も苔を見るとわかります。
苔が大気汚染物質を体の中に蓄積しているんです。
PM2,5も苔の中に吸収されてしまって、大陸からやってくる汚染の状況が判ってしまう。

いろんなところで調べ分析しましたが、意外ですが高山帯でも大陸からの物質がやってきています。
思っている以上に苔は汚染物質を吸収していました。
分析をすると、発がん性物質のあるもの、環境ホルモン作用などいろんな有害物質が苔から出ているので注目しています。
レベル的には海外の話もあるので東アジアレベルで考えていかなければいけない話です。
街のいくつかのところで苔を取り分析してマップを作って、街のどのあたりが汚染されているか、どのあたりが綺麗なのか、公園を作ることで街は綺麗になったのか、何年か続けることによって苔から判ってきます。
日本は苔好きが多くて苔の標本がいっぱいあり、古くは1800年代から今にかけてあり、各地の博物館に眠っていて、その標本を使って苔の中に含まれている物質が年代ごとにどう変化しているのか私が今分析しています。
最近興味を持っているのがヒートアイランドで、苔にとっては一大事です。
昔は昼間は暑くても朝は涼しくてその温度差で朝露ができて苔を潤していましたが、一日だらだら暑くなると、朝露は降りないし朝霧は発生しなくなり苔にとっては一大事です。

海外にも苔がありますが、苔を庭に使う文化は日本独特です。
西芳寺(苔寺)は室町時代にできましたが、記録を見ると当時は白砂の庭でした。
応仁の乱の後には西芳寺は荒れてしまって、江戸時代になって苔が一面にむしていたという記録があります。
西芳寺は山裾にあり近くに小さな川があり湿度がたまりやすい環境でした。
西芳寺は約130種類あります、日本全体では1700種類前後あります。
西芳寺の独特の静かな雰囲気は実は苔が一部作り出しています。
一面に小さな凸凹ができていてそれが音を吸収しています。
鹿は何でも食べますが、苔は食べないが鹿が増えると苔が減ります。
鹿は森の草木を食べて草木が枯れて、森が乾燥して苔が減っていきます。
苔は森のゆりかごになっています。
苔には適度の湿度があり木の種を乾燥から守ってあげる。
苔は抗菌作用があり細菌から種を守ってあげる。
苔は虫も食べないし人間も食べない。
苔のマットの上に落ちた種はすくすく育ちます。

クラマゴケ(鞍馬苔)はシダ類で、クラマゴケモドキは苔なんです。
昔は木に毛と書いて「コケ」でした。
皆さんが一番見ていると思われるのが銀苔だと思います。
日向のコンクリート壁、アスファルトの隙間などぽつぽつ生えています。
屋の上の赤苔、灰苔などは駐車場の隅などに最近はあります。
灰苔は杉苔を覆ってしまいます。
銭苔は特殊な根を持っていて地面からも窒素をどんどん吸い取ることができます。
苔は空気の清浄度に敏感に反応します。
空気の清浄度が綺麗になるほど苔の種類が増えていきます。
1970年代東京は着生砂漠と呼ばれている状況でした。
大気が汚れて木の幹から苔が消えました。
最近は東京の中心部でも空気が綺麗になってきて苔が戻ってきました。
苔は暑さが嫌いな生物です。
苔を通して日本の文化をいろいろ学びました。
和歌にも多く詠まれていますし、国歌にも詠まれています。
平安時代の苔色は着物の表が紫がかった色、裏が茶色がかった色のことを苔色と言われています。

最近は苔玉も売っていますし、苔をガラスの中で育てて愛でるという事も盛んになってきました。
京都にいて苔に接することがおおくて、京都大学では都市の生物を研究したいと思って苔は誰もやっていなかったので苔を研究対象にしました。
苔を守ろうと思いましした。
珍しい苔との出会いが京都の小さな緑地にありました。
昔は広い緑地だったと思われそれが僅かに残っていたという事で、歴史まで語ってくれます。
苔には保持機能があり、水をよく貯える種は自分の体重の20~30倍の水を吸収します。
第一次世界大戦の時にはヨーロッパでは脱脂綿の代わりにそういった苔を使って血を吸収させてあげるという事、抗菌作用もあるので利用されたという事です。
種によっては水が無くても10年持つという事も聞いています。
苔がメインになる湿原には、空気中にある二酸化炭素の量と同程度の炭素が蓄えられています。
それが仮に全部放出されたら空気中の二酸化炭素は2倍になってしまいます。
地球レベルで考えても人類にとって大事なのは苔なんですね。