2020年1月25日土曜日

上司永照(東大寺僧侶・練行衆)      ・【舌の記憶~あの時、あの味】

上司永照(東大寺僧侶・練行衆)      ・【舌の記憶~あの時、あの味】
お水取り、正式には二月堂修二会の法会と言いますが、その法会の一つ、お経や仏教の言葉を独特の節やリズムで唱える声明(しょうみょう)、今年で27回勤める上司永照さんに伺います。
実際に二月堂に籠って行を行う人は11人の練行衆と言われる僧侶でして、今年上司さんは一昨年に続いてその趣旨や祈願の文章を唱え、行全体のリーダー役とされる大導師という大役を任命されています。
上司さんは東大寺の境内にあります塔中に1962年に生まれました。
その響きある声明を耳にしたいと東京や、関西各地から訪れる人も多いと言います。
今日は天平時代752年から毎年途切れることなく行われてきたお水取り 、その意味や実際にどのような行が行われているかなどを上司さんの舌の記憶と共に伺います。

*一部称名を唱える。
観音様を讃えているお経のなかから今は単純に「南無観世音菩薩」 観音様に帰依します、というところが肝心なところです。
お経というよりは芝居のような旋律とリズムを、どなたかがつくられてそれを観音様に捧げるという芝居をするのかもしれません。
音楽的なものがあるのではないかと思います。
長い時間を掛けてきました。
十一面観音様の前でごめんなさいをするわけです。
罪、何かの命を必ず頂いて私達の体がある事だし、そういったことをごめんなさいをして、それが許されて初めて春を迎えることができる訳です。
修二会でお唱えしているなかに「風雨順時」という言葉がありますが、風や雨が順番通りにやってくる、季節が季節通りにやってくる。

今は生き方が問われていて、生き方をどうしてゆくのかという事が今は大事だと思います。
大仏殿も二度焼けましたが、忠実にやって来たわけです。
お堂に入ってゆく時に靴をだだだだだと鳴らすようなしぐさをします。
称名を唱えてクライマックスがきて、恍惚な状態になってうまい瞬間になってドカンという音が鳴るわけですが、脛を打ち付けると板が床に当たって大きな音がします。
懺悔しているという音です。
法螺貝はいろんなところで使われますが、多くは合図になっています。
神様などを呼ぶ合図であったり、呼び声であったり、いろんな意味があり、東大寺では法螺貝を使うのはこの時期だけです。
称名もいろいろありまして、全国の神様を呼ぶのも称名です。

小さいころ称名に興味を持っている人たちが周りにいたのかもしれません。
師匠が私の父で、声もよかったです。
声も父に似ているといわれて、声を出すことに興味を持って、得度して声明を上げていると気持ちいいなあと思いました。
最初習ったのが明治生まれの長老でした。
私たちは十二音階で育っているのでそこにはまっていないと、何かちょっと違和感がありました。
その通りにやるのがもの凄く難しかった。
27回になりますが、毎年難しくなってきます。
やっているうちに毎年見えてくるものがあって、これはどういうことなのか、どうやればいいのか、仏様、神様教えてくださいという様な感じです。

思い出の食べ物は茶粥でしょうね。
朝は茶粥でした、冷たいご飯に熱い茶粥をかけるんです。
それをかき込みました。
食べる前にまずは茶粥を神様に供えていました。
今も修二会では茶粥を食べます。
修二会は14日間ありますが、その前に練行衆は2月20日から「別火」という前行に入ります。
火打ち石でおこした特別の火だけを利用して生活するのでこのように言われています。
その朝が茶粥です。
自分にとってみては茶粥は好きです。
あっという間にお代わりもしてお漬物は少なくて済みます。
本業になると一日一食で昼に精進を一回だけです。
そこから修二会が始まり夜中の1時ごろまでかかり、その間は水一滴を飲むことは許されません。
遅い時には4時ということがありますが、それから水を飲んだりすることが許されるわけです。

和紙で出来た衣を身に付けているのですが、その時には座るところも決まっていて、宿所も決まっていてほかの部屋に出たらだめなんです。
決められた時間以外に部屋を出たり豊島茣蓙以外に座ってしまったりすると、自分自身が塵になります。
茣蓙に座って宿所の中で食べるのが茶粥なんです。
普段食べている茶粥と違っていて、全部炭火で作って、鍋に大きな茶袋にほうじ茶をいれて昼頃から作って真っ黒になるまで炊いています。
米をといでお粥になって、半分ざるに出しておひつに入れますが、それを下茶と言います。
残りの半分を「ごぼ」と言います。
下茶が入っているおひつを練行衆のいる部屋に運ばれてきて、茶碗に下茶をいれてもらいます。
仲間が「ごぼ」といって隣の部屋にある「ごぼ」が運ばれてきます。
下茶の上に「ごぼ」をいれてくれてそれを食べます。
お吸い物もかつお出汁ではなくてこんぶ出汁です。

行法のことは記録に書いてありますが、童子さんのすることは何も書いてなくて口伝です。
1200年続いて来たことを違ったものにならないようにしたいと思います。
春を向かえる行事だと思っていて、そうしないと春が来ないような気がします。