深谷宏冶(料理人) ・地域のために、一皿を
幕末からの歴史を刻む港町は夜景の美しさでも知られ、立ち並ぶ教会や西洋建築の家々など訪れる観光客は年間500万人を越えています。
その街並みの中で毎年春と秋に開かれるイベントが函館西部地区「バル街」です。
美しい景観を見ながら飲食店を回って食事やお酒を楽しむというもので、今や函館を代表するイベントになって、去年地域文化の向上と地域活性化に貢献したとしてサントリー地域文化賞を受賞しました。
16年前このイベントを立ち上げたのが深谷さん(72歳)です。
函館市でスペイン・バスク地方の料理を出すレストランのオーナーシェフです。
食を通して故郷函館のために何かをしたいと活動してきた深谷さんに、これまでの道のりと「バル街」に込めた思いを聞きました。
ここは凄く景観のいい所です。
昨年の秋に32回目となる「バル街」が開催、参加した店が70軒、5000人のお客さんが来ました。
食べて飲む楽しみ、街を歩く,人との会話、景観の中にたたずむ、函館の魅力的な街を知らないうちに感じてくる。
マップがあり殆どの店が選べるようになっています。
私もお客さんといろいろ会話をして楽しめます。
音楽、フラメンコのライブ、津軽三味線、ピエロとかのパーフォーマンスもあります。
ヨーロッパ的な祭りです。
2017年にグットデザイン賞、去年はサントリー地域文化賞を受賞しました。
全国に200は所ぐらいはやっていると思います。
自分の街でもやってみたいという人に対してはノウハウをどんどん教えました。
1975年、27歳でヨーロッパに行きました。
当時料理人は縦社会のような流れがあり、なかなか教えてもらえないような状況でした。
本場の夕食を知ることによって納得するものが得られるのではないかと片道切符で行きました。
伝手は全然なくて行き当たりばったりでした。
フランスで研修させてもらえないかと思って、レストランを片っ端から当たりました。
20,30軒断られて落ち込んで、お客さんとして美味いと言って、調理場まで案内してもらってしゃべって、話を持ち込みましたが、駄目でした。
仲介をしてくれるフランスの友達を作ろうと思いました。
ヒッチハイクをして友達を作り友達を通してレストランを電話紹介してもらいましたが、観光ビザで来ているので、労働許可証を持っていなかったためやはり駄目でした。
このやり方では全部で40、50軒の人と会っています。
併せて70、80軒から断られました。
スペインに行ってサン・セバスティアン(その後美食の街になる)に行きました。
リゾートでも閑散としていました。
ホテルのバーカウンターでそこのマダムとイカの話になり、彼女はイカの墨煮の話をしたので僕はイカの塩辛の話をしたら、食べたいという事で約束してイカを持参したら、その彼女は吃驚して私を信用いてくれて、サン・セバスティアンにはスペインで3本指に入るコックさんがいるからすぐ電話するからそこに行きなさいと言われました。
そのコックさんが僕のシェフ ルイス・イリサールさんです。
16歳の時にマリア・クリスティーナ・ホテルの料理人見習いとなり、フランス・パリのレストラン・ル・ロイヤル・モンソー、イギリス・ロンドンのヒルトン・ホテルなどでも働き、ヒルトン・ホテルでは総料理長を務めた人でした。
ヒルトン・ホテルを辞めて戻ってきて料理学校を立ち上げるんです。
「バスク料理」を再興するその立役者でした。
包容力のある優しい人で人間的に出来た人だと思いました。
彼はその後「バスク料理」の父と呼ばれるようになりました。
みんなで自分たちの知識を教えあって、共有するようになると凄くいい料理の街になるという事で、凄いと思いました。
そういう街にしようという事で我々が担っている料理で世界一のものを作れば、料理人でも街を変えていけるんだと、世界一の美食の街に成れるんだといったんです。
その時には僕は成れるものではないなあと思っていました。
クロケッタ 濃厚な味 うちの店の代表的なものになっています。
2004年 2月 「バル街」第一回目で56歳の時でした。
お金がなくても2,3軒楽しめるバスク地方の食事の楽しみ方を日本人に知ってもらいたいなあと思って、考え出したのが「バル街」でした。
まずは勉強会だと思いました。
函館西部地区にはまだ古い建物が残っているんで、活用して飲食店が入ればもっと良くなると思います。
函館の東部地区に住宅街が広がって行って西部地区はどんどん人が減っているところです。
150年前に函館が開港した時に建物が建ち、昔の建物が残っているわけです。
函館市民が西部地区に来て西部地区を見直してくれる。
「バル街」に見に来てくれた人が私もこういうところで店をやりたいというんです。
15年経ちましたが、楽しくないと続かないです。
去年ルイスさんに会いましたが、「日本でも広めてくれた」という事で凄く嬉しいです。
豪華客船が着く堤防が今まさにつくられています。
2,3年後には豪華客船が着くと思いますし、新しいホテルがどんどんできています。
この海があり、景観があり、レンガ倉庫群があり、豪華客船が着くようになり、旧市街地に美味しい店があると、どんどん価値が出てくるような気がします。
美味しい街にできればと思っています。