2020年1月6日月曜日

小島なお(歌人)             ・【ほむほむのふむふむ】

小島なお(歌人)             ・【ほむほむのふむふむ】
小島:新年の0時になるときには我が家では必ずベランダに出て月に祈る儀式が決まっていて、家族4人でそれぞれお祈りします。

小島選 万葉集から市原王(いちはらのおほきみ)
「一つ松 幾代か経ぬる 吹く風の 音の清きは 年深みかも」
小島:市原王(いちはらのおほきみ)が大伴家持と仲間たちが新年の宴を開こうという事になって丘に登って行って、老いた松がたっている。
「一本松よ、あなたはどれほどの時代を経たのであろう。梢をわたって吹く風の音がこれほど清らかなのは、あなたが遥か遠い昔から齢を重ねて来たからなのであろう。」という感慨を詠った歌です。
年を経たものに対する敬意と新しい年を祝う心がこの歌にあるのではないかと思います。

穂村選 石川啄木の歌
「過ぎゆける一年のつかれ出しものか元日といふにうとうと眠し」
穂村:私は会社に行っているころに無理をして年の暮れから新年にかけて必ず体調を崩していました。
本来なら特別な時間なのにうとうと眠い、ここに惹かれました。
小島:現代人は啄木かなあと思います。
穂村:お正月の特別感がどんどん減っています。

穂村選 第二歌集「サリンジャーは死んでしまった」(小島なお)から
「 いもうととどちらが先に死ぬだろう小さな哲学満ちる三 月」 作:小島
穂村:どきっとするような歌ですが、作者と妹が何歳違うのかによって、見え方が全然違ってくると思います。
70,80代の姉妹であればとてもリアルな日常の歌になるが、この場合は若くてふと心の中に思い浮かべる瞬間があって、日常ではなく哲学ですね。
一種の青春歌だと思いました。
(「サリンジャーは死んでしまった」は20歳から24歳までの作品が収まっている。)
小島:妹が2歳年下です。
生まれる順番は私が姉として一生を生き続けるなければならないが、死ぬ順番は決まっていないと思って、2歳差はどちらが先になるかわからない。
死というのは、凄く遠いような気がするが、意外とすぐそばにあるような瞬間があり、妹と一緒にいる時にふっと浮かんでくる、そんなことを思ったことがありました。

小島選 「水中翼船炎上中」から    作:穂村
「サランラップにくるまれたちちははがきらきらきらきらセックスをする」
小島:「水中翼船炎上中」では両親のことが主題になっていて、その中の一首ですが、解釈が難しい歌ですが、サランラップはものをラップすることで新鮮なままであり続けるというとても画期的な商品だったと思いますが、自分の両親がセックスするという事は子どもにとっては絶望的な場面だと思いますが、でもその行為があったからこそ自分がここにいるわけで、その不思議、そして今父母は老いてしまっている。
時間のとりとめのなさがサランラップでラップすることによって、永久保存されている様な切なさというものがあるのかなあと思って、最初読んだ時にはショックでしたが段々読んでいるうちに涙ぐんでしまう歌だと思いました。
穂村:セックスどころか日常生活も困難な老夫婦で、このまま時間が進むと二人はいなくなってしまうだろうと、その時間を止めることはできないが、サランラップは少し時間を止めてくれる。
二人の時間を保護するようなイメージです。
母は死んでしまいましたが。

穂村選
「きみとの恋終わりプールに泳ぎおり十メートル地点で悲しみがくる」 作:小島
ユニークな歌だと思います。
十メートル地点というデジタル感が妙に新鮮な感じがします。

小島選
「舌の裏に置いたり脇に挟んだり肛門に挿したりのミサイル 」 作:穂村
小島:好きな歌ですが説明しろと言われると難しい。
舌の裏に置くというのは錠剤を思わせて、脇に挟むというのは体温計、肛門に挿したりは座薬とかを思わせて、でもそうではなくてミサイルだという風に結句で言っている。
ミサイルは何十年も前よりも今の方がずーっと我々の生活のすぐそばにあるような感覚があり、鋭く構え過ぎずにとらえた歌だと思いました。
穂村:ミサイルはある時まではTVや本の中でしたが、急に現実にいつ飛んできてもおかしくないという風に日々いわれるようになって感覚が変わって身近な感覚になった。
体温計のイメージで書いています。
ミサイルが急に現実に近くなったこととくっつけて歌っています。

穂村選
「無人なるエレベーターの開くとき誰のものでもない光あり」  作:小島
穂村:誰のものでもない光あり、現実の用途とは違う哲学のようなものが出現するような気がします。
小島:誰かのものになってしまうとか、何か目的を持ったものになってしまうと、本当ではなくなってしまうようなものが自分の中にあり、数秒間だけは聖なる空間のような気がしたなあと思いました。

小島選
「 スカートをまくって波のなか に立ち「ふるいことばでいえばたましい」」 作:穂村
小島:「ふるいことばでいえばたましい」を今の言葉でいえば何なんだろうなあと思って、彼女も頭の中の彼女ですか?
穂村:これはちゃんと耳に聞いた言葉で、言ったのは女性ではなくて高野公彦さんで小島さんの先生です。
あるパーティーで高野さんの話の中で出てきた言葉で面白いなあと思いました。

穂村選
「夢で恋をしてたと母に告白をされし朝に飛び交う黄砂」  作:小島
穂村:家族のスケッチですが、とても意外な切り口があって魅力があるなあと思います。
小島:母はTVでのスポーツ観戦が好きで、お気に入りの選手がいたりして、夢に訪れてきたりして、母も若返っていてリアルな会話をしては端端まで伝えてきてへーっと思いました。

リスナー(水野雅弘?さん)からの作品
「また一羽出てくる鳥を千羽まで数えて空の裂け目が閉じる」
穂村:心の中の風景だけれども生々しい思いがここにはあるような感じがします。
小島:作者の祈りとか心の投影が空に見えたという様な読み方をしても面白いのかなあと不思議な歌です。

*短歌の文字が違っているところがあるかもしれません。