2022年5月2日月曜日

穂村弘(歌人)             ・【ほむほむのふむふむ】小島ゆかり

穂村弘(歌人)             ・【ほむほむのふむふむ】小島ゆかり 

小島さんは1956年愛知県生まれ、早稲田大学在学中にコスモス短歌会に入会します。  2006年、『憂春』で第40回迢空賞受賞 2015年、『泥と青葉』で第26回斎藤茂吉短歌文学賞受賞 2017年、『馬上』で第67回芸術選奨文部科学大臣賞受賞 紫綬褒章受章。  去年刊行された最新歌集「雪麻呂」は高い評価を受け、詩人の大岡信さんをたたえる大岡信賞の第3回の受賞者にも選ばれています。

春から初夏の好きな歌を選んでもらいました。  春も初春、中春、晩春があり夏に行く途中のニュアンス、初夏、薄暑とか繊細な季節感は日本の文芸とは切り離せないものです。   

春さればしだり柳のとををにも妹は心に乗りにけるかも」 柿本人麻呂歌集 万葉集巻10の作品

柿本人麻呂歌集は必ずしも人麻呂の歌ではない、人麻呂の歌ではあるかもしれないが、基本的には作者が判らない。  この歌も作者は判らない。

「春がやって来るとしだれ柳に新芽がついてしなって重くなって、それほどに妹は私の心に乗ってしまった。  重い存在になってしまった。」  

「うらうらに照れる春日にひばり上がり心悲しもひとりし思へば」    大伴家持       空に上がってゆくひばりの光を浴びている明るいものを見て、自分は地上にいて物思いをして、心が沈んでいるという、これはコントラストですかね。  天のひばりの明と地上の暗ではっきり分かれている。 

*「早くって言おうとひらく口に花とびこんできて言葉は泡」  くどうれいん     花は桜かなと思います。  早くと彼女は言おうとしたが、開いた口に花びらが飛び込んできて言葉は泡、という情景です。  恋の歌だと思います。  早く何なのか想像するところがいいと思います。   リズムが素晴らしいと思います。  

 まりもちて遊婦こともを毬も多ぬことも見ほるゝ山さくらはな」     北原白秋   まりをもって無心に遊んでいる子供を、子供を見惚れているまりもたない子供がいて、おそらくジェラシ-とかコンプレックスが育つ直前ぐらいで、ただ見惚れている、ここを歌っているのがいいなあと思います。   これからどういう風に二人の人生ドラマがあるのか、と思ったりします。

ほととぎす 空声して 卯の花の 垣根も白く月ぞ出でぬる」  玉葉和歌集 永福門院  初夏と言っていいと思いますが、ほととぎすが中空に声が聞こえてきて、白い卯の花が垣根に咲いていて、夕方の早い時間に月が出てきた。  ほととぎすが来ると夏がやって来るなあと言うような感じです。   ほととぎすを耳で聞き、花が目に見えて、遠くに月が見えて感覚が何重にも重なって来るような歌ですね。

*「春疾風て高速道路入口の門番に美しき娘あれ」       塚本邦雄         春疾風と高速道路の速さが結びついていると思いますが、そこには居ない娘を出してくるというところに塚本さんの新しさを感じます。    自然物でないもので自然を歌うという世界ですね。  

「旅人のからだもいつか海となり五月の雨が降るよ港に」    若山牧水       青春の5年ぐらい、年上の人と苦しい恋をして非常に傷ついて絶望に打ちひしがれて、その後出会った人が奥さんになった太田喜志子さんと言う方で、結婚して信州の海のないところなので、海に行こうと約束していたらしい。   いざ行こうとしたらお金がなくて、じゃあ一人で行ってくるよと。  

あはれしづかな東洋の春ガリレオの望遠鏡にはなびらながれ」  永井陽子          不思議な歌です。  哀れ花びら流れ、で始まる三好達治の詩がありますが、その本歌取りじゃないかと思いますが、東洋の春と言うのも不思議じゃないですか。 西洋からガリレオが望遠鏡で花びらを眺めている、どうしたらこんな歌が出来るんだろうと思います。

*「東山動物園のかばが好き青葉の頃の若い福子が」      坪内 稔典           福子はかばの名前。  重吉の奥さんが福子で、二代目重吉が凄く有名で福子は三代目で凄くたくさんの子供が生まれて、子供たちはいろんな動物園に貰われて行って、次に又生まれてゆく。  

リスナーの作品 

*「笑顔しか思い出せないもういない貰ったシール使えずにいる」   ゆうかりん 

*「雷が落ちぬようにと電気を消してコラだけで見るトムとジェリー」 伊藤弘道 

*「春風にグーでパンチをするように窓から手を出し蜘蛛を放った」 大西瞳

*印は漢字、かな、氏名など間違ってる可能性があります。