岩出雅之(前・帝京大学ラグビー部監督) ・【特集インタビュー】 人との向き合い方の極意とは
岩出さんはラグビー日本一を決める大学選手権で9連覇、さらに今年10回目の優勝を果たしました。 3年前のラグビーワールドカップでは教え子7人が日本代表として活躍しました。 毎年選手が入れ替わるなかで、学生一人一人とどう向き合い、常に勝ち続けるチームを作るために大切なことは何か、岩出さんの母校和歌山県立新宮高校と東京にある帝京大学ラグビー部で伺いました。
一番に来て、そういった姿勢を教えてもらった高校の部室です。 僕は一度挫折しています。 1年生で一度クラブから離れることになって、2年生の夏に教育実習の先生に声を掛けていただいて、高校時代は本気でやったのは1年間だけでした。 その声掛けが一生の財産になりました。 基本的なプレーをよく言われました。 タックルについても先輩たちのタックルではなく正しいタックルの方法を教えてもらってうまくできて褒められました。 先輩たちのタックルは正しいと思って真似ていたがそうではなかった。 先輩たちは沁みついていてなかなかうまくできなかった。 正しいことを見極めてゆく、思考のスタートになりました。 大学でも、社会人でも、指導者としても、一番正しい事は何かという事をいつも考えています。 1年間で練習試合が1回で、自分たちで練習をやっている事が多くて、生徒同士で話し合って、何もかも自分たちでやってゆくそういう経験が後々自分のものになって大きな支えになっています。
高校卒業後、日本体育大学に進学、ラグビーを続けます。 3年生のときには大学選手権で優勝、主力として活躍しました。 卒業後は指導者になり、高校ラグビーの全国大会に7年連続出場し、岩出さんの名が知られるようになります。 実績が買われて、1996年に帝京大学の監督に就任、2010年に大学選手権初優勝を果たし、そこから全人未到の9連覇を成し遂げます。
振り返ると未熟であったと思います。 例としては勝ちたいと思うのが僕には強すぎる。 生徒たちも勝ちたいとは思うが、強要すると乗っては来ない。 勝たせてあげたいと思うことでも勝てない。 幸せにさせてあげたい、そのために学生生活のいい経験をさせてあげたいという風に、考え方を変えてゆくと急に勝てるようになりました。 10年間は勝てないという結果があり、指導者としての不甲斐なさを感じていました。 ベスト4になったことが一回あり、その試合で1年生たちが「負ければいいのに」と言っていたのを僕に知り合いが聞いていて、とても寂しいチーム事情だったと思いました。 ここを変えていかないといけないと思いました。 少しずつ変えていこうと思いました。 めんどくさいことを上級生がやるようになって来て、自立する考え方が芽生えて、直接ではないけれども粘り強さ、集中力などにも影響してきたと思います。 どんどん下級生と上級生の親しみやすさ、チーム愛とか、活動上の絆になりやすい状況に変って行きました。
チーム全体の文化に変っていって、より顕在化したのが連覇の途中からでした。 責任感を持たせることは大事かと思います。 それは自分を大切にすることでもあり他人を大切にするという風に、目線が変わって来る。 グラウンド以外でも大切なことはたくさんあると思います。 人間観察はたくさんあり過ぎるぐらいだと思います。 性格、その日の状態とか。 性格も急には変わらないが、少しづつ成長してゆくので、成長している姿も観察、記憶していかないといけない、決めつけてしまうと成長を見極められない。 沢山見てゆくポイントはあるんじゃないかと思います。 回りの情報なども得ながら自分の思いとのすり合わせなども行います。 正しい情報が大事です。 事実をちゃんと受け入れてフィードバックと内省も大事で自分自身に気づいて、再構築してゆく、その繰り返しかと思います。
9連覇後、3年間優勝から遠ざかります。 その敗戦も無駄にはしませんでした。 逆境の中チームを再びまとめ上げ、大学選手権4年ぶりの優勝を掴み取りました。 これを機に監督を退任しました。
連覇によって何処かすき、ほころびが出来たと思います。 下級生が感謝しない、当たり前のことになってしまって居たりして、余裕の時間を前向きにという事が弱まってしまったという事があったと思います。 上級生と下級生の関わり方をもう少し、より上級生が下級生を巻き込んでゆくような方向にしてゆきました。 優勝できて、プロセスをやってきて結果を出せたことがいい体験だと思います。