2019年9月21日土曜日

川上浩司(京都大学特定教授)       ・不便だからこそ得られるもの

川上浩司(京都大学特定教授・不便益システム研究所代表)・不便だからこそ得られるもの
川上さんはもともと暮らしを便利にする最先端の人工知能AIの研究をしていましたが、20年ほど前から便利の逆、不便から得られる益、不便益の研究をしています。
不便益の考え方を広めようと、全国の研究者に声をかけ不便益システム研究所を立ち上げ2007年からはウェブページで情報公開をしながら、あえて不便で、あえて便利でないものやサービスを生み出そうとしています。
不便益とは何なのか、なぜこの考え方が大切なのか伺いました。

不便益とは不便だからこそ得られる益、という事であえて手間をかけたり、頭を使ったりすることで得られるいいこと。
インターネットで即座に本は購入できるが、わざわざ本屋さんに行って本を探すのは不便ですが、でも本屋さんに行ったからこそ、全然知りもしなかった違う本が隣にあるかもしれない。
そうすると新しい発見がある。
インネットで地図があり、自分がどこにいるのか即座に見れるが、かなり便利ですが、地図が無い不便さはあるが、昔は道に迷い込んで知らないところに入り込んでしまって、そこで新しい発見がある。
便利なものは最適化されていて、なにかをするというやりたいことが決まっている時には、労力が少なくて済むが、そうではないことにまで目が広がらないという事はよくないことかなと思います。
不便は人のモチベーションを上げてくれる。
制約という不便は人を動機付けてくれる。
制約されたお小遣いのお金でいかに自分の好みのものを見出すかとか。

高齢者施設でバリアアリー(有り)というところがあって、山口県のデイケアセンターから始まったらしいが、バリアフリーにしてしまうと日常の生活でちょっとした筋力を鍛えるチャンスが無くなってよくないだろうと、身体能力の衰えるスピードを緩める。
これも不便益、直ぐ全国に広がるかなあと思ったが、そうはいかなかった。
これ以上ほうっておいたら危ないと手を添える訓練ができたスタッフでないと、バリアーアリー(有り)の意味がないので、スタッフを育てるのが大変でなかなか広がらないという事を聞いたことがあります。
工学は効率を最優先して非効率を嫌う様なイメージがあるが、セル生産方式というものがある。
ベルトコンベアー方式の方が便利であるが、20年前に不便益の事例を集め始めたころに、セル生産方式を導入したメーカーが相次いだ。
いろんな作業を覚えなければいけないし、不便だと思うが、セル生産方式を導入したメーカーが相次いだ。
一人で組み立てられるという事はモチベーションもスキルも上がる。
これも不便益と思います。

人が頭を使ってやっていたことを代わりにコンピューターにやらせる研究を以前はしていました。
人工知能の大学での師匠が新しい研究室を立ち上げ、「これからは不便益だ」と言い出しました。
セル生産方式を調査しているうちに、人と物との関わり合いまで考えると、便利だけ追及しているといい事がないという事に思いあたったらしくて、不便益を整理したら人様の役に立つだろうという事で始めたそうです。
師匠は不便益を哲学としてやっていまして、すきっとした考え方なんですが、僕は工学的な方向に向きました。
最初は不便、便利とは世間はどんな風に思っているのかを調べました。
自身でも不便な体験をしようとして、携帯、スマホを持たない不便を経験するとどうなのかをいまだに実験中です。
連絡したい同僚、学生は不便を感じているようです。
PCでメールだけはやり取りしています。

手間をかけさせるものは発見の余地を与えてくれます。
素数物差し、京都大学の定番お土産になっています。
長さ18cmの竹製で目盛りは素数のところしかふっていない。
2,3,5,7,11,13,17・・・とか自分もしくは1以外で割れない数。
1cmの長さの線を引く時には2と3のとろろを使用する。
3cmは2と5、 4cmはいろいろありパズル性がある。

不便益に基づいた研究プロジェクトを立ち上げて、科学研究費助成金をもらえるようになり、いろんな大学の情報を一か所に集中しようという事でウェブに「不便益システム研究所」を立ち上げました。
ナビゲーションシステム、一度通るとぼやけ、3度通るとほぼ見えなくなるようなナビを作りました。
歩行者ナビを作って、京都市内を歩いてもらい、風景を正しく答えた方はぼやけた方が高かった。
電子レンジのボタン、温め1分ボタンは便利なので、指で時間と温度を自身で曲線を作る。
二次元タッチパネルを作るのが難しいといわれてしまった。
スマホにすればできるということだったが、それは便利すぎるのでやめました。

京都駅でのお土産購入が便利なので、あえて不便にして冊子を持って本店まで行くとプラスアルファー(御朱印とか)がもらえるやり方を考えました。
18店に協力してもらって冊子ができました。
行ってみて初めて判る路地裏の小さな本店に出会うことになったりします。
便利は選択肢をくれない、自分からやらせてくれない。
便利さは発見、工夫がないとか、自分を成長させてくれないなどの害があると思う。
AI囲碁を自分の練習相手にすれば問題はないと思うが、使い方次第だと思います。
サポートロボット、ロボットの社会性、そういった方向に行くのかなあと思います。
一昔前は道具は人間の体の拡張だといわれていたが、情報化社会でのタイミングで、人を代替するものになってしまった。
次の時代はそれではだめだろうという事で考えられていて、不便益の考え方が大事になるだろうと思います。
AI兵器などは有ってはいけない。
ゴミの分別、手間をかけることに意味のあるものにしたい。
手間をかけ分別して生ごみが家庭燃料になるとか。