2018年11月20日火曜日

水口博也(写真家)            ・シャチを追いかけ、世界の海へ

水口博也(写真家)            ・シャチを追いかけ、世界の海へ
昭和28年大阪生まれ、海の生き物に興味をもったのは小学生の頃、東京大学の理学部で動物学科で学び卒業後は、出版社に就職して自然科学系の本の仕事をしながら、海外の研究者とともにクジラやイルカの調査や写真撮影に関わっています。
世界の海へシャチを追いかけて38年、今食物連鎖の頂点にいるシャチは環境汚染などで危機を迎えているそうです。

アルゼンチンのバルデス半島、今のシーズンは南セミクジラの繁殖と子育てに集まっていて、それを観察してきました。
ちょうど日本の裏側になります。
この10年から15年陸上動物も見て来ました。
クジラの進化を考えると陸上動物も知りたくなりました。
シャチは遡ると陸で歩いていました。
6500万年ぐらい前、陸上では恐竜は死に絶えて、海では魚竜とか大型爬虫類が泳ぎまわっていたが全部死に絶えました。
哺乳類が生き残って、かつて爬虫類が占領した区域に入りこむことになる。
あるものは陸から海を目指して、クジラの祖先になったという流れです。
クジラの仲間は一般的には90種類に分類されます。
最も広い分布域を持っているのがシャチなんです。(ほとんどの海に分布)

いまかなりの生き物が危機に瀕している。
シャチは海の生態系の頂点にいるので、プランクトンが小魚を食べ、大きな魚が小魚を食べ、それをイルカとかアザラシが食べ、それをシャチが食べることで、生物濃縮で、人口密集地に近い海に住んでいるシャチの身体の中は、かつてのPCB、DDTとかの汚染物質が相当蓄積して問題になっています。
今後50年でシャチは繁殖できなくなるのではないか、という衝撃的なニュースも出ました。
免疫が落ちて病気にかかり易くなる、繁殖能力がなくなるという問題があります。
人間では精子が弱くなるとか以前報告があったが、動物でも同様な事が起こっている。
一番大きな問題は雌が子供を持った時で、お母さんが持っていた汚染物質をそのまま胎児に渡してしまう。
汚染物質を受け継いだまま生まれてきて、餌を食べた母親の母乳には汚染物質がたまるので更に赤ちゃんには溜まって行く。
海を100%綺麗にできたとしても、溜まり続けているので厳しい。
雌の方が少し寿命が長い。
背びれの形で個体が判り、研究によりほぼ識別されて、親子の関係も判り、家系図が描けるようになって、1970年代以降のものは凄く正確な年齢が判ります。
(主にカナダ、アラスカ当たりのシャチ)

父親の書棚に動物図鑑があり、クジラも含まれていた。
描かれたクジラの不格好な形に疑問を持って、海で泳いでいる状態をみたいと思ったのがきっかけでした。
シャチの獲物には人間は入っていないということで、ちいさなボートで行っても襲われることは100%無いという事が直ぐ判りました。
好奇心の強い動物で向こうからやってきて我々を観察します。
近くに寄ってくるのは子供のシャチで親は遠くで見ています。
世界中のシャチの生態が物凄く良く判ってきました。
それぞれの海に住んでいるシャチが全然違う暮らしをしている。
文化、伝統を持つ動物だという事が、一般に共通して理解されるようになりました。
餌の取り方、遊び方、その場所での過ごし方とか継承されている。
魚を取るシャチとアザラシなどを取るシャチとでは泳ぎ方も違います。
サケ、マスを取るシャチはチームワークで取るので、声を出しても問題ないのでコミュニケーションを取りながら取るので、非常に賑やかにしゃべり合います。
アザラシなどを取るシャチは群れが小さく3~4頭でひっそりとして獲物を取ります。

アルゼンチンのバルデス半島などはそうですが、陸地で獲物を取るシャチはリスクがあるので、母親が子供に練習をさせます。
子供が陸から戻れないと母親が押し戻すという事をします。
広い海でサメ、マグロなど食っているシャチもいます。
DNAの研究ができるようになったので、二つの群れはおよそ何万年前に別れるようになったのかが判るようになってきました。
大昔に別れた群れは別の種にしようという動きはあります。
ニシンを食べる群れもあるが、小さい魚なので効率が悪いので独特な餌取りを編み出して代々受け継いでいます。
狩りに慣れた大人たちが、ニシンの群れを密度が高くなるように追い集めてだんご状にして、海中で尾びれで叩きつけます。
失神したニシンならば子供でも食べられる。
北海道でもシャチが見られる様になりました。
北の方が獲物が集まりやすいので、多く見られやすい。

どういう経緯で群れが別れて行って、個体性を持って行ったのか、その道筋に興味があります。
クジラ、イルカなどの声の研究は、これはどういう意味なのかという事にはまだ至っていない。
群れごとの特徴的な声を持っていることも事実です。
アラスカでタンカーの原油流出事故が有ったが、多くのラッコ、アザラシ、シャチ等が死んでいます。
大きく二つ問題があり、目に見えないPCDとかの汚染物質、プラスチックで、死んで浜に打ちあがったクジラ、オットセイ、アザラシ、イルカ、シャチ等からプラスチックゴミが物凄く出てきます。
海にかかわる大きな問題だと思います。
子供たちへの本などを書いていますが、現実を子供達にどう言うふうに伝えて行くのか、かなり大きな課題だと思います。
最初大人向けの本が多かったが、最近は子供向けが多くなりました。