2018年11月17日土曜日

本出ますみ(ウール格付け人、羊の原毛屋経営)・ヒトとヒツジの1万年 私とヒツジの35年

本出ますみ(ウール格付け人、羊の原毛屋経営)・ヒトとヒツジの1万年 私とヒツジの35年
60歳、京都の美術織物の会社に勤めてきた本出さんは、24歳の時に羊毛に出会います。
羊と羊毛に強く惹かれ、羊毛を通信販売する原毛屋を開業、そのかたわら羊と羊毛、羊と人とのかかわりについて調べ年に3回情報誌を発行、33年間で100号に達したのを記念して 一冊に纏めました。
題して「羊の本」、海外にまで足を延ばして取材した羊の百科事典のような本です。
羊と羊毛の何が本出さんをひきつけるのか聞きました。

1頭分の毛刈り仕立ての毛をフリースと言います。
ラノリン、口紅とかお化粧品の原料になる羊の毛に付いている油です。
この原毛は茶色に近い毛の色、シェットランドという種類で、ふくらみのある毛です。
一枚のコートの様に羊の毛刈りは出来ますのでひとつながりの敷物の様になっています。
1年間で延びる毛の長さは10~13cm位です。
一房つまみつだして、ほぐしてから繊維を伸ばしながらよじって行くと、単糸が出来上がってきます。
それを合わせて1本にすると撚りがかかってより強い糸になります。
軸の駒の処に種糸を結びつけて軸を回転させると、繊維に撚りが掛かってくるので、駒を使うとより効率的に糸が作り続けられます。
一つの駒で20~30gずつ糸をつむぐことができます。
羊毛は雨風を防いでくれます。(体を守る繊維になっています。)
フェルトは羊の毛を均一にほぐして、石鹸水で摩擦すると、織らない状態のフェルトになります。(モンゴルとか遊牧民はこのフェルトをテントに使います。)
羊の恩恵としては、羊毛、乳製品、肉として食用にする、糞も乾かして燃料にします。
羊は家畜化して1万年と言われています。

24,5歳の時にオーストラリアで羊を飼っている女性と出会って、毛刈り仕立ての羊毛から糸を紡いでいるのを見て、こうやって糸を作るのかと衝撃を覚えたのが最初です。
帰ってきてから日本には糸を紡いで織っている方々がたくさんいてびっくりしました。
母が着物を着て過ごしていて、親戚が西陣の織りもの屋さんとかやっていて、着物の仕事がしたいとずーっと思っていました。
京都、糸、原毛を仕事にしたいと思いました。
原点である羊に興味を持ちました。
会社を辞めて羊毛を輸入するということから始めました。(1984年)
説明をするのに、年に3回「スピナッツ」(スピンは紡ぐ、ナッツは夢中になるという事で、紡ぎに夢中になるという意味です。)という雑誌を作って、それを定期購読をして貰って読者が増えてきて、材料を扱う通信販売をする店で羊毛を供給する、ワークショップをしながら糸をつむぐ経験をして貰う場をつくる、というのでやりはじめました。
私自身夢中で紡いで編んでいって、1週間で一着セーターを作って非常に満足したことを覚えています。

羊を飼う現場の人と接するうちに、肉がメインの家畜という事を知る様になります。
段々羊への理解が深まりました。
モンゴルのフェルトのテントを作りたいと思って、月に一回20人集まって2年がかりで作りました。
出会った人々から得た情報を「スピナッツ」に掲載してゆきました。
33年間100号になったのを機に「羊の本」に纏めました。(今年5月 336ページ)

羊の家畜化は1万年前に中東メソポタミアあたりから始まったと言われています。
インド、中国、アフリカ、ヨーロッパ各地に羊が広がって行ったと言われます。
品種もスペインで品種改良されて、細い毛を産する羊にされて、今現在羊では一番有名なメリノ種のオリジンになっています。
日本では7,8世紀位からですが、正倉院に花氈(かせん)というフェルトの敷物があります。
戦国武将も陣羽織としてとても好みました。
明治政府になって初めて本格的に飼い始めようということになりました。(殖産興業)
祇園祭の懸装品(けんそうひん)にもたっぷり世界中から集まって毛織物を目にする事が出来ます。

雨風を凌げるので軍服として最適だったので明治政府はとてもほしかったが、当初なかなか飼育がうまくいかなかった。
羊毛をオーストラリアから輸入するということで、毛織物産業が爆発的に成功して行く。
毛織物産業は明治大正期にはほぼ世界一になっていたのではないかと思います。
戦後昭和20年代に100万頭になる。

世界を回って衝撃的だったのはモンゴルの遊牧民の原点に近い暮らし方を見たことでした。
一つのゲルの中に家族が4,5人暮らしています。
ソーラーパネルで電気を供給しているので、液晶TV、携帯電話があり、パラボラアンテナで世界の情報はキャッチしていますので、私達と変わりない居住空間です。
羊、らくだ、牛、山羊などを飼って家畜で暮らしているので夏は乳製品、冬は肉を干し肉にして食べている、自立した生き方をしています。
赤ちゃんのおむつを持ち帰りましたが、、羊毛の白いフェルトで帽子の様な形になっていて、真ん中が開いていて、羊の糞の灰になったものを入れて、その上にラクダの固い毛を上に置いてその上に肌ざわりの良い綿の布を置きます。  これがおむつになります。 
おしっこをすると綿などを通過して灰がおしっこを吸い取って固まって、それを捨てるようにしています。
綿の布はその都度洗って再度使います。
廃棄物が無い、あるいは循環する生活スタイルになっています。

ウール格付け人という資格を持っています。
ニューージーランドの農業大学で学んで、羊毛の品質を管理することを学んできました。
品質に合わせて格付けする、又用途に合わせて細番手、太番手をクラス分けしていくという仕事です。
品質を判断できる技術が無いと駄目だと思って、大学に入って勉強しました。
肩とか横腹とかのいい品質のところと、お腹とかおしりとかゴミがたくさんついたところがあるので汚いところ、ダメージにあるところは分けて、いい品質のものを糸にしてゆく。
羊毛は天然のたんぱく質なので品質の悪いところは肥料にしたりします。

2011年から日本国産羊毛コンテストを開催しています。
日本には1万7000頭しかいませんが、(北海道中心)ほとんど刈ったものを廃棄しています。   分けるのが面倒なのと一つの牧場で数十頭とかで量が少なくて、纏めてゆくルートが難しい。
いい羊毛を牧場に方に知ってもらって、用途に分けて加工してゆく道を模索したいと思って始めました。
趣味としてやっている方とか、個人経営の紡績とかが対象になっています。
糸を紡ぐように暮らしを自分で作ってゆくことができる知恵を持っている人たちではないかなあと思います。
大量生産大量消費してゆく経済に限界が来ているのではないかと薄々感じています。
羊はそういう意味で羊との1万年の衣食住の暮らしは、非常に良い先生だと思っています。