堺屋太一(作家) ・【対談】平成三十年(2)
又吉直樹(お笑いタレント・小説家)
小説「花火」をヒントに、平成の若者が何を感じてきたのか、ポスト平成の日本について語り合います。
(*内容を上手く纏めることが難しく、うまく伝わらないかもしれません。)
堺屋:小説「火花」売れない芸人の話を読んで感激しました。
売れない芸人がいかにのたうち回る様な苦しみをして、大成はしないけれども生きていく姿が実に良く描かれていました。
又吉:小説を書くことになってテーマも自分で決めて良いということだったので、人と人との関係性みたいなところを描いていって、その後何か見えてくるのかなあと思ったのが一番最初に思い付いた部分で、芸人の先輩後輩の関係性を書いてみようと思いました。
「火花」は主人公である後輩の徳永、先輩が神谷。
*漫才師として弟子入りする場面が語られる。
又吉:お笑い芸人として19歳からやってきて辞めて行った後輩があるが、辞めて行ったことに恥ずかしがることはないと思いますが。
辞めた後輩が来た時に、恥ずかしがることはないといったが、何故恥ずかしがる必要が無いと言う事を、具体的に恥ずかしがることが無いという事を話せなかった。
判らないまま書き始めました。
堺屋:成功しなかった芸人の話はこれほど感動的なものだとは思わなかった。
成功した芸人の話は感動的だとは思ったが、成功しなかった芸人の話をこんなに奥深い人間観察で描かれたものは面白かったですね。
昭和は高度経済成長があったが平成になると大きな事が無い、どういうように平成を小説化すると言うと非常に難しい時代です。
小説の最後の神谷さんには芸人魂みたいなものを感じました。
大きな夢が実現しなくなった世の中に、自分にも可能性がある夢を実現しようとすると、TVに出ること、そのためには運動選手、芸能人になるか。
それに向かって実現することは大変ですが、TVに出て人気者になりたいという人がワーッと増えてきているのは平成末期の特徴だと思います。
又吉:ブラジル、アルゼンチンではプロサッカー選手になるのに貧困から脱出するためにハングリー精神でやってきたが、かつて芸人もそういう役割があったのではないかと思います。
堺屋:芸人を目指すことは非凡な人生でないと、平凡に生きていたのでは芸人にはなれない。
予想外の人生を出来るだけ、それを或る選択枝として子供達が選べるようなジャンルにしたいと思います。
小、中学校から、君は大学を出て大企業に勤めて、役所に勤めて定年まで行って、というような教育が多い。
平凡な人生を求められる、それを実現しているのが今の日本だと思います。
又吉:僕がそういうことを判ったうえで、勇気を出して芸人になったかというとそうではなくて、僕は多分最初からその枠組みからこぼれおちていて守るものが無かったから、チャレンジし易かった部分があると思います。
大学を出た後、大企業に就職できるというような条件があったらどうだったんでしょうね。
僕は将来何もないからチャレンジできた部分もあると思います。
堺屋:自分で起業した人、10人ほど組織して「だるま会」を作って、(1989年)数十億円位の売り上げだった。
皆さんに「一部上場会社になりましょうね」と言ったら8人とも一部上場会社になって今は日本の稼ぎ頭になっている。
そういう人を見ていると七転びハ起きで、昭和の時代はあったが、今は非常に少ないですね。
起業を起こす人は非常に限られてきている。
起業を起こす起業率は日本は世界で一番低い、というのは安全志向になってきている。
*辞めて行く徳永に対して先輩の神谷が伝えるシーン、言葉。
又吉:書いてゆく中で神谷がどういう考え方をしているのかということは僕の考えがあると思うが、辞めて行った後輩が別の仕事をしている事に対する後ろめたさがあるという
発言に対して、直ぐに何も言ってあげられなかったことに対して掘り下げて行った時に、僕と神谷という人物の考えは近いと思います。
堺屋:一つの職業を目指して途中で挫折して辞めて行った人、そういう人の積み上げの上に頂点が立っている。
これが世間ではなかなか見えないけれど貴重なものだと思います。
又吉:大きな夢を持てない、ということに対して内に秘めている人はあると思うが、言って行った方が周りに協力者が出てくるので、自分もチャレンジしやすくなる。
言うと周りから言われたりしやすい時代でもあり、なので内に秘めている人もいると思います。
夢はそれぞれあると思います。
ピースというコンビで二人で活動しているが、合い方が昨年拠点をアメリカに移したが、色々言われていました。
合い方のチャレンジ自体は凄く面白いと思う。
世の中をなめ過ぎているのではないかという様な声もあったりします。
本人が背負うリスクなので、恐怖はあると思うが、僕は応援したい。
今は芸人を目指しているのは減ってきていると思います。
自分で動画を撮って作品化する職業などが出てきて、平成の芸人のあり方とは違う新しい段階に突入し始めていて、小中学生に聞くと自分で動画を撮ってというようなことに興味を持って夢を感じている人がかなり増えています。
堺屋:多種多様な夢を持つ人が世の中に増えてほしい。
チャレンジをするということ自体が社会の多様性を作って、意外性を生み出すだろうと思います。
日本は意外性がほとんどない、多様性がなくなってきている。
この30年間、日本で行ったことは良くない、(一方でいえば平等で生きられるということだが)便利だが、面白くない社会になったと思う。
多少不便でも面白い社会になった方がいいと思う。
又吉:型にはまりやすい社会にはなってると思う。
僕がアパートを借りる時にアルバイトをして対応しますという芸人を目指そうとしている人に対して、良くないという社会の人はそれなりにまっとうなことを言っていると思うが、そこに閉じ込められてしまいやすいというか、夜に働く人に対しては迷惑だとか、だとすると夜間の店は成り立たなくなるので、そういったっことを伝えたら、考えを改めてはくれました。
でもそういった考え方は社会全体にあるので難しい。
堺屋:多様性のある世の中を作らないといけないと思っていて、国会でそういったことを論議してもらいたいと思っているが、日本の国を今後をどうするか、国会で議論してほしい。
小説「平成三十年」には新しい政治家 織田信介が登場して政府や社会の仕組みを根本的に替えていこうと言うことを提案している。
この織田信介に一番似ているのがトランプさんです。
トランプさんは既存の政党に乗らずに自分で支持者を集めて、織田信介が日本に登場したらちょうどトランプさんになるんですね。
組織されていない、恵まれない人に訴えて支持を集める政治家、既存の官僚と違うやり方をされるとメディアから批判されるが、それでもやり抜く強力な政治家が出てきたらいいなあと思っています。
又吉:どうなんですかね、刺激的な政策を持ち出す。
堺屋:危険は物凄くある、もしかしたら大失敗するかもしれない。
そういう刺激が一回あった方が平成30年眠れるような日本を打ち破れるかもしれない。
貧しい人の味方になれるような人はだれかということは非常に難しい。
小説の中でも既存の政党では出来ないことをやろうとしている。
又吉:日本人の終身雇用型の働き方とか、大人とはこういうことだというなんとなく持っているイメージにとらわれないようにそれぞれが考える。
刺激的な人が現れた時に手放しで乗るのではなく、それぞれが咀嚼して、それぞれが自分の頭で考える、人任せにしない時代になって行くと、自分が幸せになると言うことを含めて、もうちょっと安全な環境があるなかでも、自分が考えると言うことになっていけば面白くなるのではないかと思う。
堺屋:役人の引いたレールをエスカレーターのごとく動く社会は危険だと思う。
その社会をやったのが昭和10年代、戦争に向かったのは官僚と軍人が全部レールを引いてそこに日本人を乗せた。
選べる社会にしないといけないと思います。
芸能界で成功する人は一握りで、遥かにリスキーな生活だと思うが、日本にこれだけいると言うことが多様性であり、意外性だと思うので、そういう人を絶やしてはいけないと思う。
又吉:難しいのはそれが駄目だった時に絶望しない、終わりではないということが社会全体に広がったらいいですね。
堺屋:失敗、一つの目標を諦めた時に救済の方法として生活保護、福祉を充実しないといけない、底辺に安全ネットを引くことは必要だと思う。
又吉:上の世代の正義が日本全体の正義になっていて、僕らなりに大変だと言うことを言っても届きにくいし、甘えているのではないかといってつぶされることが多い中で、みんなやっている人もいてもうちょっとそれぞれ世代ごとに隔絶があってはいけないと思っています。
根本には愛みたいなものを持っていてもらいたいと思います。
堺屋:もっともっと又吉さんの職業の様な方が色々チャレンジしてほしいと思います。