原田尚美(第60次南極観測隊副隊長) ・両極を究める
海洋研究開発機構の地球環境観測研究開発センターの研究員でセンター長代理も務めています。
専門は生物地球化学、もう一つが古海洋学。
学生時代にも南極観測隊の一員として南極に行ったことがあります。
南極、北極が原田さんの研究対象です。
日本の南極観測隊で女性が副隊長以上を努めるのは、原田さんが初めて。
今年の秋に出発する第60次南極観測隊の副隊長、夏隊の隊長を兼務する原田さんに伺いました。
地学、生物学、雪氷学とか専門分野ごとに分科会をして、次にどんな研究をするかを毎日のように開始されていて、そこに出席してどんな観測を計画しているかと勉強している段階です。
副隊長としては隊長を支える仕事になりますが、夏隊長と副隊長の区別はないような気がします。
輸送、建築、観測とか多くの仕事を二人で役割分担をしながらこなしています。
6月の中旬には隊員が決まります。
越冬隊は1年半分の計画を立てないといけない。
専門は生物地球化学、もう一つが古海洋学。
生物地球化学は地球上で生物が存在している場所における生き物を介した循環、流れと環境と生物の間の相互作用、さまざまなそこに存在しているプロセスを明らかにする学問で、私の場合は海洋に生息している植物や動物のプランクトン、そういった生物が作り出す物質、炭素、水素とかを材料にした有機化合物の存在量とか、化合物同士の濃度比を環境の指標にして、海洋の環境の変化を調べると言う研究をしてきました。
そういった海洋の環境を古くまでさかのぼる学問が古海洋学ということになります。
両者は密接に関係しています。
地球温暖化という深刻な状況におかれていて、海洋でも起きていて、海洋の中における温暖化を主体とした様々な変化が起きている。
そこに生息している微小プランクトンがどのように応答して変化しているのか、そういうことを調査するグループで研究しています。
北極海については海氷がどんどん溶解してしまって、2030年には夏場はほとんど海氷は無くなってしまうのではないかと予想されている。(環境が激変している地域の一つ)
生息生物が減ってしまったり、他の生物に置き替わるのではないかと調査研究をしています。
北極海は海洋酸性化にしても常に先取りして起きているが、亜寒帯域の我々の所にもやがてやって来るかも知れない環境の変化なので、将来起こりうるかも知れない環境の変化と生物の応答を先取りして調査することのできる、海域の一つでもある訳です。
海洋酸性化は大気中の二酸化炭素が海洋の表層に溶け込んでいって、現在海洋は弱アルカリ性ですが、二酸化炭素が溶け込むことによって中性あるいは酸性の側に傾いていく、それを海洋酸性化と呼んでいます。
炭酸カルシウムを甲殻に持つ生物(貝とか)が海洋酸性化の環境にさらされると殻が作りにくくなるとか、溶けてしまうそんな状況が来るのではないかと懸念されています。
防ぐと言うことはもうできない。
排出の量を最大限に抑制して行くと言うことが出来れば最悪の状況は免れることができるかもしれないが、二酸化炭素が吸収される場所は海で、海洋酸性化は確実に悪化するという事象です。
かつて二酸化炭素濃度が高かった時代の海の深い生物の一部は絶滅しているということが報告されている。
種類が大きく入れ替わる可能性もあり、食物網にも影響を及ぼす可能性があります。
北海道帯広で生まれました。
運動はあまり好きではなかったので家の中で遊んでいました。
理科系は嫌いでした。
本は良く読んでいたので国語が好きでした。
国語の学校の先生になりたいと思っていました。
高校に入って専門的になり、系統だてることに理解して、特に興味を引くことになったのが化学の授業でしたが、自分で参考書を買ったりして勉強してたら面白いことに気づきました。
3年生の時に地球化学の弘前大学の先生から地球化学があると言うことを聞いて、非常に興味を持ちました。
地球温暖化という言葉を雑誌を通して知ることになり、名古屋大学の半田暢彦先生の記事でした。
弘前大学に進んで地球化学の研究室に入りました。
卒業論文が大気化学で、指導してくれた先生が南極に行かれた経験のある先生でした。
名古屋大学の大学院に進みました。
半田先生から海洋学の面白さも教えていただきました。
修士課程の2年間厳しく指導されました。
せっかくフィールドワークの研究室に来たので、一度海に出たいと半田先生に頼みこみました。
修士論文の目途を付けて、東京大学の海洋研究所の白鳳丸という研究船に乗せてもらいました。
非常に楽しくて、色んなサンプルを採取して、サンプルの貴重さに感動して虜になりました。
すでに就職は決まっていたが、「分析は君の後輩やるから大丈夫だから」と言われて、その瞬間「私がやります」と言っていました。
博士課程の進学を決めました。
南極で海水中の生物が作りだす粒子(セジメントトラップ(Sediment trap)係留系)を定期的に取って、季節変化、海洋環境との関係性などを調べる観測をする。
南極でそれをやることになり派遣して欲しいと半田先生の所に話が来て、男性の先輩は厭だと言うことで私が行きますと立候補しました。
先生からは大反対でしたが、なんとか説得しました。
博士論文はどうするんだと言うことだったが、既定の論文を仕上げて且、南極の論文を仕上げるといって了解してもらいました。(1991年 27年前)
当時女性としては2人目でした。
南極は景色はほぼ想像通りでしたが、風が無いとシーンとして音がしなくて本当に凄く驚き感動でした。
海洋観測をしながら昭和基地に向かいました。
復路で設置したあった係留系を回収することにしていました。
2カ月位生物が作り出す粒子を取り続けるという観測でした。
回収しようと地点にいったら無くなっていました。(原因不明)
2010年ごろから北極に携わるようになりました。
北極は温暖化が顕著に現れているところで、南極では兆候が無いです。(非常に大きな大陸の上に大きな氷があるので、ひとたび兆候が現れた時にはインパクトは計り知れないと思います。
先ずは自分が動く、そうありたいと思っています。
夫と共通な趣味を持ちたいと思っていて、それが山登りでした。
年間7~8つ昇っています。
大雪山は花が見事で思い出に残っています。
今回は役割も大きくて、冷静に一歩引いて心の中は第一回目よりも落ち着いた感じでいけそうだと思っています。