2012年5月19日土曜日

小川さやか(准教授)       ・タンザニアの路上の逞しき商人たち

 小川さやか(立命館大学大学院准教授34歳) タンザニアの路上の逞しき商人たち  
京都大学大学院アジア・アフリカ地域研究研究科アフリカ地域研究専攻
国立民族学博物館の助教  タンザニアでフィールドワークの路上の商人マチンガという人達を調査しました
その際 自分も中に入って合わせて2年半にわたって路上の商売を体験 その仕組みや人間関係を文化人類学的に調査して研究書に纏め
平成23年度のサントリー学芸賞を受賞しました  
路上の商売の面白さにひかれ17人の商人を動かす仲卸人にまでなったという小川さんは
逞しい路上商人に何を見たのか? お聞きしました

先生の個性にひかれてこの学問を選んだ
後に、同じ時代に生きているこの世界にあって、全く違う文化を持っているところがあると言う事、そこに行って彼らと同じ生活をしながら、、内側から新しい生活世界を理解したいと強く思うようになって、選びました
今までに調査したところ タンザニア、ケニア、ウガンダ 南スーダン エチオピア等  に行きました
マチンガ(行進する男) 路上で商売する人   
タンザニアを選んだのは、現地の国に調査許可証をとってからでないと調査できないので タンザニアは調査許可証が取りやすかったのが理由です
タンザニアはアフリカ東部の赤道よりちょっと下に有る いろいろな国と国境を持つ 国境沿いに大きな町がある 行き来が盛ん ダルエサラームはアラブ人がタンザニアに入植したときに発展した都市で
首都をドドナに決めても、首都が発展してこなかった
 
ドドナが内陸にある首都 日本で放送される野生の報告のほとんどはタンザニアで撮影されることが多いのではないかと思う
ウゴロンゴ国立公園、エレンゲキ国立公園、キリマンジェロ山もある 
都市部ではビルもたち並んでいて、大都市ができている
独立以降、社会主義体制を敷いたんですが、1980年代初頭には崩壊して
1980年代半ば 経済自由化され、資本主義体制になっています
世界最貧国リストの下から数えて、早い方の国  
ビクトリア湖の近くムワンザ市で調査 人口は60万人ぐらい、暑いところ 35℃~40℃近くになる
 
アフリカ諸都市は物凄く都市化が進展している
農業が不振で15歳ぐらいになると都市に集まり職を探す  40歳以下が9割を占める
30歳未満が7割弱を占める 若者の街  
インフォーマルセクター(路上で商売 したりする人達) 都市経済の主役 半分を占める    
フォーマルな人達 公務員、サラリーマンは タンザニアでは2割しかいない  
マチンガ 市内の狭いエリアだけで6000人いると言われて どう調査していいか判らず 調査したい旨を言いふらしていた
バス停でバスの呼び込みのお兄さんたちにナンパされるが、そこでマチンガを調査したいと言ったらその人達を呼んできて その中のロバート君(その後親友になり 調査助手になる)が、そんなのやればわかるよと言って50枚ぐらいの古着をはいっと言って渡された  いきなり行商に連れ出された  

段々商売が面白くなって抜け出せなくなった 
言語は行く前はスワヒリ語の教科書で文法だけは勉強していたが、最初は単語を並べるぐらいしかできなかったが、路上で段々覚えて行った 
私は俗語の喋り方になっている 、今風です
タンザニア人は身長は175cmぐらいで手足が長い 
日本人は手足が短いので日本の古着は合わない 
古着はオランダ、アメリカ、カナダからも入ってきている
値段 中国製の新品と古着は同じ値段 
中国製は品質が良くない(縫い雑で、2回くらい洗うと色が落ちてしまう) 古着の方がむしろ良い  
ヨーロッパはリサイクル業者 チャリティー団体に寄付していて 原価はただ 
リサイクルセンターに集まり 古着の種類によって分類される
ブラウスならブラウスに選別されて45kg塊に纏められて梱包されて輸出される    
タンザニアは農業国 綿を使って繊維産業にしたいが古着が多く流通しているために 繊維産業が育たない
 
政府は古着に対する規制をかける様にしている  
善意等で最初は古着が集められてスタートするが、途中で商売に変わってゆく不思議な世界ではある
古着を全部止めてしまうと規制して仕舞うと 貧しい人達が困ってしまう  
農村部は安い衣類を買ってくれることができる (農作業用とか)
屋根のない道路上に品物を並べて、電化製品もある 中国製アイロン 1000円以下
小川さんが並べているのはジーンズを並べて売っている
街中では1着ずつ交渉するが、農村部では叩き売りをする
   
若い女性が一人でゆくのは危険ではないか?→基本的には一見怖そうなお兄ちゃんですが、仲良くなってしまうと、現地に入りこんでしまうと危険は余り無かった 
彼らはボスから買っているんですが、仲卸人がいて 古着の塊45kgに200枚~500枚入っているがそれを輸入しているのがインド系 パキスタン系の商人たち そこからアフリカ系のお金を持っている商人たちがその塊を買う   
其れを開いて路上商人たちに数十枚ずつ売る  掛け売りが成り立っている 
(農村から来た人たちはお金が無いので例えば1000円の衣類を渡し1200円で売って
1000円は元売りに渡して自分は200円の儲けにする) 
  
返せない場合には仕入れ代金を踏み倒して、逃げてしまう事があるが 農村に帰っても仕事が無い為にまた戻ってきて ボスにいろいろ事情を説明して取り入って和解をする 
なんで仲卸人達は素性のわからない人たちに、駆け売りしているのだと言う事が興味深くてはまってしまった  
初めは行商人をしていたが、自分も棚卸人になる  逃げるのも駆け引きの一環なんだと解った
ボスの商売も、仲卸人の商売も、路上商人の商売も基本的には同じシステムですが、彼らは同じ値段で同じものを平等に販売しない
ボスから1枚1000円だよと言って、買った服があるとすると
マチンガにもいろいろな人がいて可なりお金に困っている人には1000円の品物を例えば500円で売ってあげて、余裕の有りそうな人に対しては2000円で売る 
 代金の返済はそれぞれが合計すると平均的な利益として受け取れる 帳尻はあう

 旅行者には吹っかけて売る   
小売り商(マチンガ)が逃げてしまうのもボスの才覚のポイントであり 困っているマチンガを逃げないで済むように安く売ってあげたり、売れなかった場合は ぼろ儲けしている様な仲間から安い品物を高値で売って売れなかった人を助ける様な事をしている  
マチンガとお客さんとの交渉は?→困った合戦(お互いの生活の困った様子を話して売る方は高く、買う方は安く購入するように掛け合う)する   お互いが納得した値段が決まる
リジキ(その日を生きるために必要なもの、食いぶち と言うような意味)
物の値段は交渉の過程でこの人は、どれくらい必要性があるかと 判断しながら決まるんだと言う事をいう  私の必要性とお客さんの必要性と、天秤にかけて丁度いい価格が値段なんです

奨学金がふんだんにある社会ではないので、いくら自分が努力しても、お金と言う物理的な限界で、そこから先に進めない人たちが沢山いる
タンザニアは生活保障とか生活保護とかは無いし、税が福祉に還元されていることは無い
税金代わりにお金持ちの人からもらって、生活保護代わりに、貧しい人に買えるお金で売って、帳尻があっているんだからいいんじゃないかというような、感覚がどこかにあると思う
彼らもそれなりに誇りを持ってやっている 
それをウジャンジャエコノミーと私は言っている  ウジャンジャ(狡猾さ ずる賢さ)   
彼らは、モラルを持っていて貧しい人達を助けねばならないとは思っていなくて、皆が必死に知恵を働かして生きている  
 
自分の窮状を訴えて、訴えられた方が 嘘っぽいけどまあいいやと言う風に成り立っている  
誰も助けた、助けられた と言う感覚は無いのだけれども 物がちゃんと人のところに廻って行って 助けられたほうも又助けられた負い目も感じず、自分の才覚で生きているんだと思って廻っている
ウジャンジャとは何だろうと考えたが普段自分たちでやっていることだと思う  
社会の潤滑油だと思う  
どうやって機転を利かすか と言う時にルールにがんじがらめになってしまっていると動きずらいが、隙間だらけであると柔軟さを持って行動できる いきずまっているときにもウジャンジャを使えば機知を働かせれば、やっていけるんじゃないかと言う事につながっている    
其れが面白いと思った  
何もかも無碍に駄目とか、いいとかをはっきり決めないで、その時々で柔軟さを持って交渉したり、気転を利かせたりしながら、物やサービスが回る様な商成果を作っているのが面白いと思った
日本ではルールが細かく張り巡らされている様に思う 張り巡らされているからこそウジャンジャが発揮できなくなってきているように思う
ウジャンジャの知恵をもう一度見直したらいいのではないかと思う 

強く思うのは、ルール、制度 社会や経済を動かしているのは一人一人の人間力だと思うんですね知識が沢山あるだけと言うのではなくて 共感力とか、自分を信じられるかとか
機転を利かせられるかとか、ずる賢さとか、旨く人に騙されてあげられるかとか、融通がきくのは いつも騙されないようにと身構えていると駄目で、時には人に旨く騙されてやるかと、ポイントでは騙されてやるものかと 思わないくらいにならないと駄目で 状況にも応じて自分では出来ないかもしれないけど、自分自身にも騙されて思い切ってやってみるとかですね
こまごまとした日常的なルール、制度は、もうちょっと緩やかに考えてもいいと思います
国境を超える商売を観察している(東アフリカの諸国間の越境交易)  
しなやかな柔らかい感じで行くと上手くいくように思う