2024年4月17日水曜日

坂上康博(一橋大学名誉教授)       ・〔スポーツ明日への伝言〕 剣道の未来のために

 坂上康博(一橋大学名誉教授)       ・〔スポーツ明日への伝言〕 剣道の未来のために

コロナ過で中断されていた全国のびのび剣道学校が去年11月、4年振りに再開されました。 1979年(昭和54)年に始まり、41回を数える学校は剣道の愛好者が集まり、互いの技術の向上を目指す研鑽会であり、自由に意見や疑問を交わす研究会でもあります。 この学校の運営委員会の代表を務めたのが坂上康博さんです。 坂上さんの専門は近代スポーツ社会史スポーツ科学で、福島大学助教授、イギリスウオーリック大学客員研究員、一橋大学教授として研究を続けてきました。 2020年にはのびのび剣道学校の講師員などと共著で「剣道の未来」「人口増加と新たな飛躍の為の提案」を上梓しています。

こちらが打とうとすると相手は竹刀でよけたり、身体をよけたりします。 よけるスピードが速いのでなかなか当たらない。 「隙」と言うのはどういった瞬間にできるのか、本当に一瞬なんです。 「隙」が見えたら間に合わない。 「隙」は未来にあると言う言い方をしています。 そこを見越して隙を作って打つ、と言うところが一番醍醐味かなと思います。  単純に「隙」は3つぐらい種類がある。 剣道に場合、面、小手、胴、突きの4つのうち、例えば面をよけようとすると、あとの3つが空いてしまう。 これを①「よけ隙」と呼んでいます。 ②「打ち隙」 打とうとする瞬間から打ち終わるまではキャンセルできない。 ここを仕留める。 ③「ぼけ隙」打ちませんよと相手に思わせながら本当は打つ。 あるいは完全に油断している瞬間。 こういったものを組み合わせる。 それを必殺技つくりと言ってやっています。 

全国のびのび剣道学校は昭和54年に始まり、昭和34年生まれなので第一回からやっています。(20歳) 高知大学で大塚先生が剣道の教室をやっていて、手伝ってほしいと言われて、剣道着に着替えたら、「今日から新しい先生が来ました。」と言われてしまってそれから4年間やる事になってしまって、その延長線上にのびのび剣道学校があるんです。   自分自身は中学1年生から始めました。  高校の先生になりたかったので、剣道の研究は最初から決まっていました。 武道を文部省が奨励したら、軍国主義とか冷たい反応があり、これはどういうことなのかという事で、剣道の歴史を調べてゆくきっかけになりました。 

2020年「剣道の未来」と言う本を共著で書きました。 剣道人口を増やしたいという思いがありました。 現状可成り深刻だと思います。 高校の剣道人口は1985年がピークで半分以下です。 有段者は148万人ぐらいで実際にやっている人は47万7000人。(2007年の調査)  有段者の8割は辞めている。 年齢構成では中学生以下が45%、高校大学生が15%、社会人は40%  深刻なのは中学高校生の若い世代が急激に減っている。(1/3ぐらいになっている。)  子供にとっては面白いサッカーなどが増えている。 剣道の魅了を感じなくなっている。(嫌われている。)  2008年武道を必修化する。 しかし減ってきている。 やり方、中身そのものを考えないといけない。 

300年前に竹刀と防具が発明され、その魅力が300年続いて来た。  痛くないような打ち方をしていて、戦場では使えないというような批判が出て来た。(実践向きではない。)  空手の寸止めに近いような打ち方をしている。 明治以降1945年まで戦争に明け暮れる時代が訪れる。 日本刀で捕虜を切ってしまうようなことが起こる。 戦後6年間GHQによって禁止される。 スポーツとして出発する。 楽しみ、技術の深さを知るという事。 日本の文化として強調するのはいいが、伝統と言うと変えてはいけないという風に受け取ってしまいがちになる。(制約を加えてしまっているのではないか。) マニュアルに従って細かいところまで教えているところが多いのではないか。 やり方を決めつけてしまうと新しいものは生まれてこないのではないか。 

「主破離」、最初は師に習う、次にそれを破って、そののちには離れて新しい流派を打ち立てる。 昔の言葉では免許皆伝になって新しい道場を開ける。 千葉周作とか、年代では30歳中場ぐらいです。  昭和初期になると「離」が無いですね。 「破」と「離」をよみがえらせることだと思います。 今は「主」しかないと思います。  チャレンジ出来るような剣道のやり方だと、子供たちはどんどん入ってきて、「鬼滅の刃」からの入口が、剣道増加につながるようになるんだろうなと思います。  真剣を扱っている人を10年ぐらい観てきましたが、座頭市の刀を逆手に持つやり方はありうると思います。 

剣道を53年続けてきましたが、のびのび剣道学校に関わっていなかったら辞めていたかもしれません。 自分の可能性を知ることが出来た。(今までの自分のやり方が違っていたことがわかった。)   使う筋肉を変えなさいという事で、使い方の設計図を変えることで、一番いいスピードも出るし、大きな筋肉を使うので疲れないし、怪我もいないというそういう世界があるという事を教えてもらいまいた。 40歳過ぎてからも足が速くなりました。 日本の伝統的な武術、身体技法の中に凄いものがあるという事を発見しました。 そういったものを取り入れてゆく。  フランスでは柔道人口は日本よりはるかに多い。(60万人ぐらい) 8割は子供で、子供の教育のための柔道を作り上げていて、海外から学ぶことも多いと思う。  剣道自体の歴史から学ぶことも大事だと思います。 足の運び方が全然違う子を見て吃驚しました。 そういったことを伸ばすようにしていきたいと思います。