穂村弘(歌人) ・〔ほむほむのふむふむ〕
昔ながらの文語から日常の日常に変化していった切り替わりの世代なので、考え深いというか、随分変わったなという感じはあります。
「春」と言うテーマで、副題として「別れと出会いの季節」だなと思いました。 日本の場合には卒業、入学、入社と言ったものが春になるので、そのイメージがわれわれの中にはあると思います。
*「全員がアトムとウランの髪形の入学式よ光るはなびら」 穂村弘
鉄腕アトムと妹のウラン、二人とも不思議な髪形をしている。 今はバリエーションがある。昔はおかっぱ頭、坊主頭だったり均一感がありました。
*「きらきらと自己紹介の女子たちが誕生石に不満をのべる」 穂村弘
自分は何月生まれで誕生石が何とかで、本当はルビーが良かったのに、と言うのを聞いてびっくりしたことがあります。
*「中一コース年間購読予約して万年筆を貰える春よ」 穂村弘
当時万年筆と時計でしたね。 中一コースは小学校からの節目なので、年間購読予約した人には万年筆をプレゼントするというコマーシャルのようなものがありました。 万年筆は高級なイメージがありました。
*「へびっぽい模様の包み入れられた卒業証書は桜の匂い」 穂村弘
わに革の模様らいいですが、重厚なへびと桜。
*「姉ちゃんは着てみていいよと言ったけど見ているだけにしたセーラー服」松田わこ(妹)
着ていいよと言われてるけれど、そこで着ちゃうと、本当に着れる春までなんか自分でも待つみたいな、待つ初々しい感じが凄く伝わってきます。
*「掲示板私の受験番号が私を見つけて飛びついて来る」 松田梨子(姉)
*「受験番号が私を見つけて飛びついて来る」凄くよくわかります。
*「シャボン玉近づくように笑い合う「桃?って呼んで」「梨子?って呼んで」」
「シャボン玉近づくように笑い合う」と言うのは素晴らしく上手な表現です。 楽しそうなんだけれども近づき過ぎると割れてしまう。 初対面の二人ってそういうところがありますよね。
*「妹が私とおなじ制服を着ている不思議新しい春」 松田梨子(姉)
*「新しいセーラー服を着た私家中の鏡に見せに行く」 松田わこ(妹)
この姉妹は短歌が上手ですね。
*「サーティーン少し長めに言ってみる銀色の楽器みたいで素敵」 松田わこ(妹)
サーティーンは中学生でこれが「楽器みたい」というのが凄いですね。 サーティーンは金属的な響きがあります。
この姉妹と対談した事がありますが、物凄く愛されて育っているという感じがします。 彼女たちは5,6歳ぐらいから歌を作っています。
*「どの行事も写ってなくてと近影を卒業アルバム委員に撮られる」 高橋鉄平?
短歌はそういったことも短歌にして残して置ける。
*「愛のこと甘く見ていた春の駅人の気持ちを甘く見ていた」 石川明子?
具体的なシチュエーションは書いて無いが、状況とかではないかなあ。
*「容疑者の写真は卒業アルバムであの日の私とどこか似ていて」 鈴木美津子?
人生がバラバラに変わってゆくのはその後ですね。 幸せになったり逆だったりで、この場合は容疑者に。 でも私と似ている。
*「入学式好きな食べ物レモンだといいしあの子の訃報を聞き」 モカ?
好きな食べ物がレモンだという、特別なアピールだと思う。 そのことが印象に残った。 若いころの訃報だと思う。
リスナーの作品
*「女子徒競争五位の子を五の旗へ男子生徒は触れず導く」 牛尾渚?
下の句に感じが出ています。
*「明日家を離れ行く母前掛けのリボン結びが揺れる台所」 ひらひらひらら?
どうして離れゆくのか判らないが、万感の思いがあるような気がします。
*「たった一ミリの棘だってほっとけば指は腐ると兄の遺言」 みずすぽっと?
怖い遺言だけれど、比喩として象徴的なことを言っているんですかね。 人間関係か?
*「残雪を踏みしめながら唱えてた降りたら絶対桜餅買う」 ぷんすけ?
雪と桜で,色の対比、季節感の対比があって、苦境をぬけたらあれを、みたいな、ご褒美を置いておく。
*「チョコレート貰えなくても平気だがあれだけあって一つもなしか」 平井義彦?
世のなかにあれほどチョコレートが溢れているのに、自分のところには一個も来ない。 口調が面白い。
*「雷が鳴った時だけテレビ消して雷見てる雷見てる」 栗川?
雷ってつい見てしまう。 臨場感があります。
*印は漢字、かな、人名など違っている可能性があります。