石川美枝子(ボタニカルアーチスト) ・【心に花を咲かせて】描いているのは植物のエネルギー
ボタニカルアート 植物画と言いますが、単に植物を描けばいいというものではないそうです。 桜のボタニカルアートで世界でも知られている石川さんですが、石川さんはなぜ桜を描くことになったんでしょうか。 そして今はボルネオの植物に夢中で、12回もボルネオを訪れ、ラフレシアや食中植物のウツボカズラを描いているそうです。 なんでボルネオ植物なんでしょうか。 描いているのは植物のエネルギー、ボタニカルアーチストの石川さんに伺いました。
植物学的に描くという事が大前提にあります。 花、葉など特徴的な要素を盛り込むことがとても大事です。 描く前に特徴を調べて描きます。 花の大きさとか測って実物大で描きます。 ボタニカルアーチストとして35年になります。 アマチュアとプロとの境があまりない世界です。
高校の頃デザイナーになりたくて美大に入ってデザインの勉強をしましたが、学生運動の激しい時代であまりデザインの勉強をしないまま卒業してしまいました。 コツコツ絵を描くのが楽しくて、印刷会社でアルバイトをしながら絵を描いたりしていました。 図鑑も好きでした。 イラスト画を描く部署を紹介されました。 昆虫とかも描きましたが、自分には植物があっているのかなあと思いました。 植物に関すことを博物館などに行ったりいろいろ勉強しました。 それから植物が面白いと思うようになりました。 地域によっての違い、植物のサイクル、樹木の芽から落葉までとか、生命の流れが判って生物のエネルギー―の凄さが判りました。
桜を描くようになったのは図鑑の仕事でした。 30種前後描きました。 開花の時期もあるので、花に関しては全部がいい状態で描くことはできませんでした。 その後自分で桜の絵を描いてみたいと思いました。 桜は500種類あると言われました。 それぞれどっかが微妙に違うわけです。 枝を頂いて詳しく観察して描きます。 オオヤマザクラを描くことにして枝を頂いて、1年目は鉛筆デッサンで終わってしまいました。 変化してしまうのでせいぜい2,3日ですが、その間にも成長してしまいます。 ベストの時期を見つけて描くのが大変むずかしいです。 いい経験になりました。 写真にもとりますが、写真では微妙に歪みます。 基本的には人間の目で見て描きます。 ボタニカルアートは写真のない時代に始まりました。
植物と向かい合った時に上手に描こうというよりも、真摯に描きたいと思います。 構図も考えます。 葉っぱを少なくしたり少しずらしたりすることによってスッキリ見やすくなるという事はあります。 花の儚さと、一杯咲いている豪華さの両方表せたらいいなあと思いますが、なかなか難しいことです。 桜の花の温かさと冷たさみたいなものを感じたりもします。
ボルネオの植物にも目覚めてしまいました。 熱帯雨林には前から興味がありました。 夫が若いころから南米が好きで、或る時にボルネオに主人が行く機会があり、1994年に初めて観光旅行のつもりで行きました。 奥地にリゾート施設があり、そこに向かうのに小さな飛行機でいろいろ森林を案内してくれました。 知らない植物にすっかり魅了されてしまいました。 ひしひしと生物のエネルギーを感じました。 ラフレシアは蕾から1年かかって花が開花しますが、ラフレシアを描いてみたいと思いました。 しかし一番いい状態に出会う事がなかなか難しい。 1999年にはどうしても見るぞと、行ったら咲いているという情報が入って、山を1時間半ぐらい歩いて行ってスケッチをして、翌日も山に行きました。 写真も沢山撮りました。 苔、落ち葉などの環境も描きたいと思いました。 アリノトリデという植物がありますが、人間の握りこぶし2,3個の大きさの瘤を作ってそこに蟻が住めるような迷路を植物が自ら作るんです。 ところどころに穴が開いていて蟻が入れるようになっていて、なんてすごい植物だと思いました。 10年後に同じ場所に行ったら本当に少なくなっていました。 観光客も増え、森も荒れていました。 アリノトリデを捜しましたが、見つかりませんでした。 気候問題も各国が取り組んではいますが、進んでいないですね。 熱帯雨林を開拓して油ヤシのプランテーションがあり、インドネシアやマレーシアで穫れた油ヤシはポテトチップとかの食品とかに使われ、化粧品、洗剤など身近に使われています。 熱帯雨林の破壊に日本人も気が付かないところで加担しています。 私が描いたものがなんらかのきっかけになってもらえれば嬉しいと思います。