橋本孝(ドイツ文学者) ・ドイツ文学に好奇心が動き出す
岡山県生まれ、86歳。 宇都宮大学の教壇に立つ一方でグリム童話をはじめとした多くのドイツ文学の翻訳を手掛けてきました。 10年に渡って日本とドイツの学生の派遣事業を行うなど国際交流などにも尽力しました。 そうした功績がたたえられ今年6月にドイツ連邦共和国功労勲章1等功労十字章を受章、8月には外務大臣賞を受賞しました。 歳を重ねても学び続ける重要性をグリム童話から教えられたという橋本さんにドイツ文学の魅力を伺いました。
グリム童話に死神というものがあります、日本の死神は枕元に立つ事になっていますが、ドイツのグリム童話の死神はベッドの足の方に立つ、死神は足の方から来るんです。 足を鍛えましょうという事で一番いいのは歩くことです。 天気のいい日には散歩(1万歩 約6km)をしています。 歳をとると散歩が面白くなります。 知識を病まないようにする、そのためにはいろんなところに自分を置きましょう。 子供らしくなるといろんなことが疑問になる。 そうすると自分で調べるわけです。
学校は法学部を卒業しましたが、先生がドイツ語をやりましょうという事になって、特別授業をやってくださって原書を読むことになって、当時親からの送金の5000円をほとんどドイツ語の勉強につぎ込みました。 法学部を卒業後文学部独文科に行きました。 周りからは笑われました。 博士課程まで終わりました。 宇都宮大学の教養部が独立して新しい教授が欲しいという事で、留学から帰ったばっかりだったので、応募したら採用されました。 グリム童話を本格的にやろうと思ったのはドイツの大学に行った時に、ドクター、デイネッケさん(図書館長)からグリムをやりませんかと言われたのがきっかけでした。 ドイツにはたくさん行きました。 ベーテルへ泊っていた時に障害のある人たちがみんな働いていることに感動、ショックを受けました。
同じ地元の文学者山本有三の存在が大きかったです。 東大の独文科を卒業して演劇を主としてやられて、ゲーテと似たようなところがあるわけです。 山本は親から丁稚奉公に行かされるが向学心に燃え、紆余曲折しながらも東京帝国大学文科大学独文学科選科に入る。 共産党との関係を疑われて一時逮捕されたりするが、菊池寛に助けられる。 人のつながりは本当に重要だと思います。 日本国憲法の序文の文章は山本有三の文章であるという事、戦争放棄の問題もこれは文化だと、文化は耕すという意味ですから、世界中を耕して日本国憲法を植え付けていきましょう、というわけで文化の日が出来た。 日本人は大きな宿題を山本有三から与えられていると思います。
グリム童話を読むときに一つ気を付けてもらいたいところがあります。 昔話は掘り起こしただけではなく、現代生きている悩みとかいろんな環境の問題とかいろんなものをそこから学び取ることが重要なんだという事です。 いじめがあるが、これは怖い話をしなかったせいです。 グリムは序文に残酷なものが沢山入っています、でも父母、祖父母の愛情をもって話してくだされば、子供に響くはずだと、子供は二度とそのような事はやってはいけないと自分で思う。
この本には全部で201話入っています。 10年かけて翻訳しましたが、難しいのは方言です。 ドイツ人に助けてもらったりしました。 2019年 デイネッケさんの息子さん家族が日本に来て会う事が出来感激しました。
2021年6月にドイツ連邦共和国功労勲章一等功労十字章を受章することになりました。 その後外務省からメールが入って外務大臣賞を頂くことになりました。 日独の理解と若者の交流をやったので表彰しますというような内容でした。 東日本大震災前は日独合わせて800人ぐらいの学生が企業研修とホームステーのプログラムをやってきましたが、震災後は現地の若者を元気づけようとドイツから毎年20人が来ました。 サマースクールをやって植樹をしました。
グリム童話、グリム兄弟は人生の書だと思っています。 或る意味では哲学の書です。 哲学は愛と知の学問で、これがグリム童話の中にはあるんです。 子供に読みなさいと言って渡すのではなく、両親、祖父母がゆっくり読んで聞かせてあげるのが重要です。 ドイツ文化全体を考えていただくとドイツ人のものの考え方、学ぶものがあるのではないかと思います。