2021年10月15日金曜日

杣田美野里(写真家・エッセイスト)   ・【人生の道しるべ】〝一世(ひとよ)の終りに降るもの″がある

 杣田美野里(写真家・エッセイスト)   ・【人生の道しるべ】〝一世(ひとよ)の終りに降るもの″がある

1955年東京都生まれ。(66歳)  武蔵野美術大学を卒業後編集の仕事をしていましたが、27歳で写真家を目指して独立、平成4年36歳の時に家族で礼文島へ移住しました。   以来、礼文島や北海道北部を写真に撮り、写真集やエッセー集、ガイド本など10冊以上の本を出版しています。    杣田さんが今年8月に出版したのが 「キャンサーギフト礼文の花降る丘へ」です。  キャンサー=癌 ギフト=贈り物  杣田さんは2016年に肺がんと診断され手術を受け闘病してきました。  今年の1月に余命宣告を受け命の期限と向き合いながら作った本でした。   礼文の自然と花々、家族と供に生きてきた人生、写真や短歌に込めた想いについて生き生きとお話しくださいました。 そして先週天国に旅立たれました。(収録 9月中旬)

今年初孫が生まれて、6か月です。   毎日毎日変化してゆくのが楽しみです。  「キャンサーギフト礼文の花降る丘へ」を8月に出版して、今まで生きた来た30年間の写真への想いとエッセーと短歌とを組み合わせてこの本は出来ています。   表紙のキラキラ光る海とエゾスカシユリの対比がいいと思っています。  癌になっていただくものが多いと最近思います。 キャンサーギフトとはこういうものだと感じます。 いつも感じないようなことも、こんなことが私の周りにはあるんだという事を改めて感じます。  

私と夫は喧嘩の多い夫婦でしたが、以後はずいぶん夫も優しくなって、いろんな優しさを私に分けてくれる様になりました。   会社との契約ももう少し頑張ってと延ばしてもらえました。   写真をゆっくり見直すことが出来て、私の人生ってこういうものだったんだなと感じます。   

*「うつつとは死を意識して輝くと母の愛した言葉の一つ」  母は88歳で亡くなっていますが、亡くなる前によく言っていた言葉で、その意味がやっとわかるという感じです。  死を意識した時に一層輝く現実があるんだなと今思います。  

漫画家の内山安二さん(代表作に『コロ助の科学質問箱』など。)に凄く影響を受けています。  「一生懸命遊んで一生懸命生きるんだ、それがいいんだよ」、って私に教えてくれました。  彼から随分いろいろな遊びを教えてもらいました。 一生懸命仕事をすることも教えてもらいました。  ヨットとか、お酒を飲んで銀座とはどんなところかとかいろいろ。   67歳の時に大腸がんで亡くなられてしまいました。  ベッドの上でも漫画を描いていました。   このライフスタイルの貫き方が凄く魅力的でした。  「宇宙は優しいよ」という言葉を言っていましたが、その言葉の意味が今は凄く良く判ります。   

*「宇宙は優しいよと石一つ多感な心におきし人あり」  

27歳で会社を辞めて写真家を志しました。  思ったように仕事が進まず、なかなか一人前にもなれなかったです。  それを乗り越えてゆく力は内山さんから頂いたように思います。   主人との出会いは礼文島でした。  こんな面白い人が世の中にいるんだと思いました。   一旦東京に帰ってきて結婚して娘が生まれました。  東京でまた出会って結婚しようという事になりました。   そして出会った礼文島に住もうという事になりました。 生後3か月の娘を抱っこして礼文島に行きました。   なんとも美しいところだと思いました。   山へ行って朝から晩まで花の写真などを沢山撮りました。  夫は電気関係の仕事をしていましたが、さっさと辞めて収入もないのに移り住んでしまって、でも楽しかったです。  夫は宮本誠一郎(礼文島で写真家、自然ガイド、環境アセスメントの調査などの仕事を行う。)で花、鳥を撮ったり、真冬の礼文島のレポートもしています。  

写真家で一つの花とか、一つの地域でずーっと撮り続ける人って意外と少ないです。   花だけではなくて芽が出て実をつけ土に還ってゆく、生き続ける様子を写真に撮るのがとても好きなんです。  それがライフワークだと思っていて礼文島はそれを撮るのに向いています。  

ツリガネニンジンの紹介

*「秋の花静かに咲けり実を結ぶただそれだけにただひたすらに」

エッセーの紹介

「6月の花のように競って咲かず、のんびりと咲いているから秋の花園は癒される、と思っていました。  でも本当にのんびりと咲いているのでしょうか。  違うのではないかと最近思います。  自ら秋という季節を選んで開花しているのかもしれません。 虫たちも繁殖期の様に活発には活動してはいません。 ・・・秋の花の代表として例えばツリガネニンジン、花の形も色も控えめで群落していても静かなたたずまいです。 ・・・ツリガネニンジンのめしべが棍棒状のものと三つに割れているものとあるのを知っていますか、と聞かれました。・・・ツリガネニンジンは昼間より夜の蛾の仲間によって花粉を運んでもらっているらしいのです。・・・昼間はマルハナバチの仲間など多くの昆虫が訪れますが、主に花粉を運んでくれるのは夜に活動する蛾の仲間でした。夜に開花が始まり蜜の分泌も夜のみに行われるそうです。・・・静かな趣きで咲くこの花にこんな夜の顔が隠されているとは、なんと奥深い世界でしょう。  すごいなあツリガネニンジン。」

一つの花に昼の顔と夜の顔があるという、植物の知らない世界を知ることが出来ました。  ほかにも凄いものがいっぱいあるんだろうなあと思いました。  これは宇宙ですね。  

「約束した明日などないと知らされる閃光走る脳内の闇」

初めての抗癌剤を点滴で受けた時に気を失って、その後目が見えるようになって、いろいろ検査をして一安心という事になる。  この病気にはギフトがあるんですね。  

レブンアツモリソウの写真に添えられた短歌

*「とわとわに咲き継いでゆけアツモリソウ人の歴史は置き去りにして」

レブンアツモリソウは絶滅が心配されるほどでしたが、保護活動されていて、ずーっとこの花が咲き継いでほしいという思いでこの花を見ています。   私も保護活動をしていますが、ずーっと自然に咲いているような花になってほしいと思っています。  

道しるべになったこと、一番は家族の存在だと思います。   娘のこともエッセーにしました。 たくさんの出会いが島にはありました。

*「ただいま島の花たち 抱きしめる ともに吹かれし 風のいたみを 」  

花たちとの息遣いをずーっと残していきたいと思っています。   北の島に生きてゆくということの厳しさ、面白さ、やさしさ、自然そのものが本の中に残して行けたら私は最高です。

*「咲きながら一世の終わりに降るものをキャンサーギフトと私は呼ぼう」  この短歌がこの本の中で一番気に入っています。

*印の短歌は文字、漢字などが違っている可能性があります。