松村真宏(大阪大学大学院 経済学研究科 教授)・おもわず行動してしまう! <仕掛学>が社会を動かす
世の中には人の心にスイッチを入れる仕掛けがあちらこちらにあるといいます。 みんなが思わず行動してそれが社会をよくすることに繋がればそんないいことはありません。 松村さんが提唱する仕掛け学とはどんなものなんでしょうか。
実験室にはいろいろなものがありますが、映画「ローマの休日」に出てくる「真実の口」のレプリカもあります。 手を突っ込んで嘘をついた人は噛まれるという伝説のあるものです。 実験に使ったものですが、これを見ると多くの人が口に手を入れたくなるんです。 入れると消毒液がかかるようになっています。 面白がってつい手を入れたくなる。
男子トイレの的、そこに入るとつい狙いたくなる習性があるので、一番跳ね返りの少ないポイントに的が貼られています。 トイレをきれいに使うという行動と一緒になるわけです。 阪神電車の駅にあるものは的が炎になっていて、的に当たると炎が消えるんですね。(温度に反応する。) 正論を言っても人の行動はそんなに変わらない。 正論ではない方法として仕掛け学が使えるんじゃないかと思います。
廊下に扇形の絵が描いてあって、扉が開くという事を暗示しているマーキングがありますが、仕掛けというよりも情報提供をしているだけですね。 仕掛け学では客観的な証拠がないと説得力もないし、本当かどうかわからないので、実験をしてデータを取って検証をして何倍の効果があるとか、効果がなかったというような時には条件を変えたら効果が出たとか、行うわけです。 小さな鳥居を塀の下などに設置することで、ゴミ除け、立小便禁止などに効果があるという事でよく使われています。 実際にゴミが捨てられることが多い場所に鳥居を設置して確認したら、効果がある場所とない場所がありました。 管理している人がいるんだという事を知らせるために、その横に日捲りカレンダーを付けました。 その人が見に来ているという事を暗に伝えるようにしました。 そうするとすごい効果がありました。
パン屋さんが新作を作るがなかなか試食してもらえないので、試食をすると買わなければいけないような暗黙のプレシャーがあって、遠慮する人が多いのかなあと思いました。 使った爪楊枝をおいしかったもののほうに投票してもらうということにして、ただ食べたという事ではなくて、情報提供するという事で罪悪感みたいなものが払しょくできるのではないかと思いました。 仕掛けがない時には来店者の11%が試食をしていましたが、仕掛けを設置すると20%に上がりました。
仕掛けの定義としては、①公平性(人をだまさない) ②誘因性(興味ある切りくちで) ③目的の二重性(仕掛ける側と仕掛けられる側で目的が違う)
仕掛けもどきは、立って待って行ってくださいという足のマークがありますが、綺麗な手書きであるために悪いと思っていてよけて立っていた。 そういった例がありました。
人工知能の研究をしてドクターまできましたが、限界があるなあと感じ始めて、2006年ごろに仕掛け学の研究テーマを思いつきました。 人工知能はデータをもとにしているのでデータのないところにはアプローチできない。 将来性のある分野は自動運転だとか、医療分野とかはあるが、研究する人たちは一杯いるので違う分野を考えました。 ほとんどは人間の行動が創り出しているなと思いました。 それを解決するためには装置とかを作り出すことはなくて、それを解決するためには各自の行動をちょっと変えるだけでも解決することが多い。 仕掛けの価値もあると思いました。
或る時、遊びに行った動物園で筒があり、覗くと象のフンがみえるという単なる筒でした。これがブレークスルーとなりました。 行動を変えさせることによって発見を導いてあげるという、大きなヒントになりました。 一般の人たちに興味を持ってもらえるように仕掛け学という風にしました。
3年前に大阪駅で行った実験では、エスカレーターは混み過ぎては危ないので、階段のほうに分散させるという仕掛けをやったことがあります。 階段に行く先の自分の好きなほうに上ってもらうようにしました。 階段が7%増えました。 密回避に成功しました。いい方向へのきっかけも悪い方向へのきっかけも両方あると思いますが、いい方向へのきっかけを増やしていければすごくいいなあとは思います。
空いているスペースに住民が花壇を作るという活動をしているところがありますが、街に花があふれるようになるので景観がよくなり気持ちがよくなるという事がありますが、交流が生まれて地域つくりにもなります。 見知らぬ人が入ってくるとどんな人だろうかと思われたりして、そうなると泥棒が入りずらくなり、治安が良くなるといわれています。
最近、中高生からの問い合わせも増えています。 皆さんにどんどんやってもらったらいいなあと思います。