柏耕一(警備員・ライター) ・交通誘導員卒業
今年の4月から改正高年齢者雇用安定法が施行され、希望者に70歳までは働ける機会を確保する事が企業の努力義務になりました。 とはいうものの65歳を過ぎてからの仕事は極めて少ないのが現状です。 そんな中70歳以上の就労が増え続けている職種があります。 それは警備員です。 道路工事などで車両や通行人の安全に気を配りながら案内する交通誘導が代表的な仕事となっています。 柏さんは75歳、交通誘導警備員の体験を本にまとめて2年前に出版、今も版を重ねています。
交通誘導員を去年の7月まで出ていましたが、その前に出した「交通誘導員ヨレヨレ日記」という本が少し売れて余裕が出来たので、本業だった出版、編集の仕事に戻って頑張ってみたいなあと思っていて、完全にやめるというわけではなくて、休業中という事にしています。 外での仕事なので顔が黒くなるのはしょうがないところですね。
交通誘導員が1号から4号まであり、1号は市役所、大きな商業ビル、空港などで施設警備というのをやっている業務を言います。 3号などは現金輸送の車で現金をもらったり運んだりする業務についている人たちです。(若い警備員が多い) 4号警備は要人(首相、皇族など)のボディーガードの業務を言います。 2号警備は、交通誘導警備や雑踏警備を総称した区分です。 警備員は2019年度では約57万人、交通誘導員は40%ぐらいを占めます。
現場に出る前に3日間研修を受けます。 67歳で警備員になりましたが、ハローワークでの仕事はあまりなく警備員が手っ取り早いと思いました。 交通誘導員の場合は主として道路工事、水道、ガス、電気など屋外の仕事が大部分なのでコロナの影響はないよと言われたことはあります。 今所属している警備員会社は規模は小さくて250名ぐらい登録していますが、8割は70代以上と言っていました。 大手の警備会社は別として多くの警備会社はどうしても年齢が高くなります。 85歳という人もいました。
元映画監督、元医者という方もいましたし、鉄鋼プロデューサーをやって銀座でバブルのころ交際費を1億円使っていたという人もいましたし、先ほど話した85歳の人は20年前は左官をやっていて250万円は稼いでいて、60人ぐらいの部下を使っていたという事でした。 矢張りそれぞれ理由があり、その85歳の人は同業者2人の3億円の連帯保証人になって一人は自殺、一人はパンクして債務が全部その方にかぶさってきて、豪邸を売却したり相当苦労してお金を返済したと聞いています。
中高年の女性も2割ぐらいいます。 ホステスがどうも合わないのでという若い女性も居ました。 夫婦で警備員という方々もいました。
工事個所の片側相互通行をスムースに車を誘導したり、歩行者の安全確保、誘導などを行います。 判断の悪い人がいると工事もスムースにいかないので、警備会社にもう来ないでくれとかクレームを入れるわけです。 9時間働く中で1時間は休憩をとることができますので、コンビニで弁当を買って食べたりしています。 台風の中で業務をこなしたことがありましたが、それが一番きつかったですね。 猛暑の中での業務も疲れてしまって大変でした。 寒さも大変です。 私は一日9000円でした。 早く終わっても同額出してくれます。
なかには自販機から冷たいものを買ってきてくれて、感じのいい業者さんがいたりすると一日ストレスなく仕事ができますし、周りの方から「大変ですね、お疲れ様でした」と言われると気持ちが違います。 文句をつける人もいます。
30歳ぐらいの時に出版社に入社することになり、親会社がゴルフ場経営で失敗して、あおりを食って倒産してしまいました。 仲間と出版プロダクションを始め25年以上やってきました。 いい時期もあり酒を飲んだりギャンブルに相当お金もつぎ込んで、どうしようもなくなりました。 浪費とギャンブルで税務署に差し押さえられるようになりました。そこで警備員になって稼ぐことにしました。 警備員で稼いだお金は差し押さえすることがなかった。
出版の仕事は30年以上やっていたので300冊ぐらいは出しました。 エッセーとかハウツーの本が多かったです。 ベストセラーの本を扱ったこともあります。 小説などは大手出版会社以外は無理だと思います。
2年前に会社は清算しました。 私は4回警備会社が変わっています。 トータルで4年警備員をしました。 ちょっと余裕ができると出版のほうの仕事に戻って、お金が無くなると警備会社に入ってという風に繰り返していました。 やめて10か月ぐらいですが、いろいろ企画も増えてきていて、1年後には大分状況が変わると思っています。 自分で書いたもので「14歳の武士道」というテーマで書きおろしたもので、武士道は新渡戸稲造が明治32年に英文で欧米向けに書いた武士道の本ですが、私は武士道を解説しつつそこに女子中学3年生の剣道部副主将という主人公を立てて物語風にして武士道を解説するスタイルをとりました。
どんな仕事でもどんな経験でも全く無駄という事はあり得ないので、警備員のいろいろな方と付き合って来たなかで合わせ鏡のように自分のことを判ってくる部分もあるわけです。 いろいろ考えさせられてちょっとやそっとではへこたれないという、そういう気持ちにはなりました。