高杉良(作家) ・破天荒な生き方を貫いて
1939年東京生まれ、石油化学専門誌の記者の傍ら、1975年「虚構の城」で作家ビューしました。 以後、綿密な取材に基づいた企業小説、経済小説を次々に発表、なかでも 日本銀行の頭取だった中山素平や、ビール会社社長であった樋口廣太郎など財界のーリーダーを取り上げた作品や、会社の中間管理職、ミドル層の葛藤や活躍を描いた作品に定評があります。 これまでに80作以上の作品を刊行され、発行部数は累計およそ500万部、文庫本は出版社を変え2度、3度と文庫化されまして、1500万部を超えています。 最近は自伝的小説に取り組み2017年に発表した「めぐみ園の夏」で小学生のころ預けられた児童養護施設での日々を語り、その続編ともいえる高杉さんの青年期の日々を描いた「破天荒」が今年の春出版されました。 80歳になるころから肝臓がんや眼底出血など相次いで病気に見舞われ、これが最後の小説になるかもしれないとの覚悟で臨んだ作品です。
「破天荒」という作品を今年の春出版、大手の出版社の方から「高杉さんは破天荒ですね」と言われました。 自分のことは自分で作っておこうと思いました。 吉川英治先生にしても山本周五郎先生にしてもなくなった後、家族が大変な思いをされてます。 そういう事はしたくないなあと思いました。 メモとか日記などはありません。 記憶です、昔のことは鮮明に覚えています。 情報は深かったです。 出入り禁止と言われた時もありましたが、そういわれても当時は入れるんです。 牧野 力さんは通商産業省の事務次官で言いたいことは言える、年も同じです。
たまたま幸運な人に出会えたと思います。 いろいろな人と人との出会い、それが本当にラッキーでした。 19歳で業界紙の『石油化学新聞』に入社、その後2足の草鞋をはいて、その時代が長いです。 日本興業銀行の中興の祖といわれた中山素平さんとは深い付き合いがありました。 中間層の悲哀、喜びといったものも書きました。
80冊以上書いてきましたが、題材はその時にパッと気が付きます。 好奇心が普通の人よりも3倍ぐらいあります。 そするうとどうして、どうしてという事になるんです。
「めぐみ園の夏」 児童養護施設での日々を語っていますが、家族、子供にも話してはいませんでした。 やはり一番つらいことでつらいから頭の中から忘れたい排除したんです。やはりあの時の1年半があったからこそ作家になれたんだという思いがあります。 3歳のころのことも明確に言えるんです。 母が離婚することになり施設に預けられることになりました。 小学6年から中学までの1年半めぐみ園に通うわけです。 養護施設の子はつらいし、自分でも思い出したくなかった。 でも動機は家族には迷惑かけたくない、自分のことは自分で始末しておこうと、そんな思いです。
めぐみ園では酷いことがいっぱいありましたが、負けん気の強さはありました。 それは母親譲りだと思います。 母は旧家の生まれで、女学校を出ていて誇り高く、やさしさがありましたね。 作家になりたいという、文才はあったと思います。
「めぐみ園の夏」には方向音痴な母親のこと兄弟のことなども描かれています。 母親は大好きです、何冊も読んでくれました。 文章の良し悪しなど指摘してくれて、今でも母のことを思うと涙が出できます。 「男は強くなければ生きっていけない、優しくなければ生きて行く資格がない。」(文庫本の後書き)
女性はもっともっと世の中に出ていかないとおかしいと思います。 本当は母親は一番強いんですよ。
リーダー不在、つらいですね、政治が痛んでますね。 もっと「あるべき論」があってしかるべきです。 リーダーの素質は人がついてきてくれるかどうか、が一番大きいでしょう。 人間性、人間力、政治家のリーダーはもっと頑張らないといけないと思います。樋口廣太郎さんはみんなに伝えたがった。 鬱陶しいと思われることもあるかもしれない。
一番気にして書いているのがリアリティーです、他人の作品も読みますが、取材していないなあと思う作品があります、もっと取材してもらいたいと思います。 そのためには訪問するしかないです、断られたら次はいつかという風なしつこさがないといけないです。 いじわるされ たこともありますが、それにも負けない。 日本人の寄り添う、寄り合う事はいいことなんで、本当はもっとある筈だと思って居ます。 活字の社会が衰えてきているという事がつらいです。
書きたいことはいっぱいありますが、取材に対して思うようにできないという事のネックがあります。 せっかちなタイプで遅刻するという事はないです。 孫は全部で7人いますが、進路のことについてなどは一切言わないです。 一人ぐらいは作家が出てきてくれればいいなあとは思っています。 あとにつづくものに伝えたいことは、優しさがもっとあってもいいなあとか、もうちょっと頑張ってもいいんじゃないのかなあとか、もう少し前進しようよとか、ですが、足りないところは学ぶしかないんです。 経済小説という分野はもっと出てきてもらいたいんですが。