2024年3月31日日曜日

向笠千恵子               ・心の味に出会うために~フードジャーナリストの道を歩いて~

 向笠千恵子       ・心の味に出会うために~フードジャーナリストの道を歩いて~

向笠さんには2011年から「ラジオ深夜便」に出演頂き、日本各地に根付いた郷土料理やその背景にある歴史、また各地の朝ご飯など興味深いお話をお聞きしてきました。 今年度をもって向笠さんは番組を卒業されます。 改めて向笠さんが歩むフードジャーナリストの道のお話を伺いました。

向笠さんには2017年「ご飯の知恵袋」のコーナーが始まってから7年間お話を伺ってきました。  その前に大人の旅ガイド「おいしい旅」に6年間生出演。 「ラジオ深夜便」とも長くお付き合いいただきました。 

国土が狭い日本と言われがちですが、実際各地を訪ね歩いてきますと、海、山があり、峠一つ越えるだけで食習慣がガラリ変わっていたりして、日本は広くて様々な食文化があります。   それを眼で舌で実際それを確かめ皆様にお伝えしたいという事が、私の背中を押してきたと思います。 歴史的背景まで考察したりすると、興味深い事ばかりです。   様々な食材、野菜、お魚、果物、納豆などの素晴らしい加工品、巧みに食宅に取り入れている郷土料理、など、お伝えしたいとやって来ました。 

東京の下町で、父は食いしん坊で、母も新しい料理にチャレンジするのに熱心でした。  学生時代進路に迷いました。  好きなことを考えたら食と旅する事、歴史も好きでした。 そこで料理の編集の仕事の道に入りました。   大学時代は図書館情報学科を勉強していました。  食材を切り口にしたテーマを担当するようになって、漁港、漁船に乗せていただいたりして、現場の大変さ、空気を目の当たりにしました。 30歳の時に独立して、仕事も継続しているうちにフリーランスの編集者として仕事の幅が広がって、コーディネーター、プロデューサーをしているうちに小さな会社を興して、食品メーカーさんの仕事などもさせてもらうようになりました。  取材するほど知らないことに次ぎ次ぎ出会って、もっと知りたい、もっと食べたいということにつながったと思います。  

無農薬梅作り60年一筋とか、いろいろ出会うたびに食品と生産者の方には感動してきました。 「百聞は一見にしかず」で直接会って、体験しないと判らないです。 伝える言葉が自分の課題になって来ます。  フードジャーナリストというものを名刺に印刷しました。 藩政時代、例えば津軽藩、南部藩での味と言うのは、はっきり違うし現代まで繋がっている。 秋田県とか、他の県でも同様です。 藩のお殿様が培ってきた気質、国替えもあり、そこの食習慣、野菜の種などを持って行って、新しい食文化が生まれたりしています。  それぞれの食材に素晴らしいドラマを秘めていて、わくわくする思いがあります。      

「朝ごはん」 或る時にふっと気付いて、能登半島の珠洲に親子で営む小さな宿があって、そこの朝ご飯が素晴らしいという情報を得てお訪ねしました。 豆腐も前夜から手作りでやって、豆腐を作り上げる。 干物、漬物なども手をかけて作り上げる。 漬物、みそ汁など素晴らしかったです。  日本各地にはそれぞれの風土に育まれた素晴らしい魚、野菜などで作られている朝食があるんだということを気付かせてくれました。 日本の朝ご飯の取材を始めました。  食の職人的な生産者さんを探るテーマに段々移行していきました。

鯖街道に代表されるような食の伝播について関心を持って、「食の街道を行く」と言うテーマに広がって行きました。 「食の街道を行く」の本は世界的にも評価されて、料理本のアカデミー賞とも言われるグルマン世界料理本大賞グランプリを受賞。(2011年)   「塩の道」の中でも、もっとも有名なところを本に書きました。  東京の食、江戸の食も別の視点から関心を持って、自分の下町のことももっと知っておかなければいけないと思いました。 今も江戸前の味、東京の伝統的な食べ物とか、そういったものもテーマにしていますし、大好きです。  紅葉した葉を添えるとか、日本人が育んできた食卓演出法などトータルで和食は構成されている。  流通なども含めて多面的に伝えることで、味だけではなく食の醍醐味をお伝えできたらいいなあと思っています。 

温暖化などで海から取れるものが劇的に変わってきています。 食文化を担ってきた農村、山村、漁村部の女性たちの高齢化によって、姿が消されつつあり、食の職人たちも代替わりしたり、後継者に恵まれなかったところは消滅したりして、20年ぐらい前から今は正念場に直面しているところです。 どうしたら食の明るい未来が展望できるようになるか、励んでいる方々の姿を伝えるとか、応援する仕事が出来ればいいなあと思います。 

取材したことを如何に表現するかという事をもっと努力しなければと思っています。 楽しみながら表現していきたいと思っています。 「一期一会」では無いですが「一食一会」と言う思いでやっています。