黒川勇人(缶詰博士) ・〔美味しい仕事人〕 缶詰に魅せられて
黒川さんはこれまで世界53か国、数万個の缶詰を食べて来た缶詰通です。 世界の缶詰にはそれぞれの国の食文化が現れていて、実に多様です。日本の缶詰もグルメ志向にこたえる品そろえが増えてきていて、日常の食卓だけでなくアウトドア―の場面で人気を呼んでいる様です。 一方非常食の役割を持つ缶詰です。 防災食の観点から缶詰をさらにおいしく活用する考え方や方法についても黒川さんにお話を伺いました。
ブログで缶詰のことを発信してもう20年ぐらいになります。 海外に赴任した友だちに送ってもらったりとか、旅行に行ってその国の缶詰を送ってもらったりとか、それらを足すと今までに53か国の缶詰を食べていたことになります。 約2万缶になります。 ポルトガルでぜひ買って来てほしいのは干しだらのパテの缶詰です。 干したたらを一度塩抜きしながら水に浸して戻して、柔らかくなったらオリーブオイルとかニンニクを混ぜるパテがありますが、ポルトガルに行くとこれがちゃんと缶詰になっているんです。 とてもおいしいです。 首都のリスボンに行くと缶詰をメインにおつまみとして出す缶詰バーが沢山有ります。 缶詰が主役のレストランもあります。 世界で唯一と言う缶詰専門料理レストランには世界中から旅行客が来ます。 缶詰協会がありその直営店では20社ぐらいのメーカーで300種類ぐらいの缶詰が並んでいて、それを買いに行く観光客もいっぱいいます。 日本でも真似してほしいと思っています。
フランスは缶詰のもとになった食べ物は瓶詰ですが、瓶詰を発明したのがフランスです。(1804年) ナポレオンがいろんな国と戦争をしていて、兵隊の食料として便利なものはないかと国民にアイディアを出してもらった。 保存食の研究をしていた方が、煮沸消毒した瓶の中に熱々の料理を詰めて、それを鍋に入れて加熱した後でコルクで蓋をして密封したんです。 何故か半年、1年経っても腐らない、という事に気付いて、政府にお見せしたところそれが採用されました。 瓶詰が出来た最初でした。 6年後にその技術がイギリスに渡って、ブリキで缶を作ったんです。 缶詰が誕生したのはイギリスと言うことになります。(1810年) フランスには鯖缶があって、ソースに漬けてあり、ソースが非常に凝っていて、蜂蜜味のカレーソース味とか、バジル風味のホワイトソース味とかいろいろあります。
イギリスではベークドビーンズというのがあり、甘めのケチャップに浸った柔らかい豆料理なんです。 焼き豆と言うより煮豆です。 朝、食パンをカリカリに焼いて、バターをたっぷり塗ってその上にベークドビーンズをかけて、ナイフとフォークで食べるらしいです。 ぼーっとした味ですが、365日欠かさず食べる人が居るそうです。 ほうれん草の缶詰は味付けされていなくて、くたくたになっています。 くたくたになっているほうれん草をミキサーで粉々に砕いて、カレーで味付けをするために使うものだとわかりました。
アメリカで一番衝撃を受けたのは、スパゲッティーの缶詰です。 茹でたスパゲッティーが味付けされた状態で入っています。 おおきめの缶に入っています。 麺は伸びちゃっていて、ふにゃふにゃになっています。 旨いとは思わないが売れています。 コンビーフが誕生したのはシカゴです。
日本ではツナ缶が売り上げのトップになっています。 モルディブ共和国ではマグロとカツオが良く獲れます。 1980年代水産加工ができる工場を建てて、日本のメーカーが支援して、缶詰を売れば外貨が稼げるという事でツナの缶詰をヨーロッパに売りました。 2011年の東日本大震災の時に、モルディブの政府が恩返しをしようという事で、8万6000缶日本の被災地に送ると発表して、一般市民もツナ缶を持ち寄ったそうです。 合計で60万缶被災地に送られたというエピソードがあります。 被災地では缶切りが無いだろうという事で、缶切りがなくても大丈夫なように缶を開け直して、熱湯消毒をして、作り直した缶を送ったそうです。 感謝の気持ちを伝えたいと思って2013年にモルディブに行きました。
最初缶詰を認識したのは4歳の時でした。 父親のキャンプに同行して翌朝、鍋に缶詰を入れて温めていました。 缶詰とは知らなっかった。 ごもくご飯の缶詰で感動しました。以後缶詰に興味を持ち始めました。 2000年ごろに仕事がうまくいかない時期があり、鯖缶での節約生活をしました。(数年) 自分で缶詰が好きなことに気付きました。 缶詰を真剣に見なおそうと思いました。 2004年に缶詰のブログをだしました。 研究しているうちに缶詰が仕事になってしまいました。
アヒージョの缶詰、アヒージョはスペインの料理で、ニンニクを利かせたオリーブオイルでぐつぐつと肉とか魚を煮た料理です。 キャンプなどで鉄なべに中身を入れて一緒に野菜などを煮込むと美味しいです。 脂が残るが具の旨味が溶け出ているので、パンに脂を吸わせて食べます。
缶詰は非常食に向いていると思います。 東日本大震災の時に、宮城県の沿岸の缶詰工場はストックしてあった缶詰がヘドロまみれになりました。 石巻では丸2日ぐらい食べるものがなくて、缶詰工場の人たちがヘドロまみれの缶詰を取り出して、缶詰でしのいだという事でした。 防災食審査委員を務めて5回目になります。 防災安全協会が年に一度あり、僕は缶詰を審査しています。 毎年新しい商品が出てきています。 非常食も普段食べているものに近いものへと変わってきていて、ローリングストックが推奨されてきています。 或る時にまとめ買いをしておいて、普段使って、減った分を購入する。 ご飯、パンの缶詰もあります。 肉、魚のほかに煮物などの副菜があります。 食後のデザート、スイーツ缶があり,美味しいです。 (精神的ショックを受けているときには甘いものが大事です。)