穂村弘(歌人) ・ほむほむのふむふ
ゲスト:笹公人さん
1975年東京都生まれ、17歳のころ寺山修二の短歌を湯んだことがきっかけで、短歌を始める。 1999年未来短歌会に入会。 岡井隆さんに師事。 2003年第一歌集『念力家族』刊行。 後にNHKでドラマ化されました。 その後『念力図鑑』、『念力ろまん』などを発表、最近の歌集は父親の介護を詠んだ『終楽章』です。 去年出版された『新短歌入門』はNHK短歌のテキストの人気連載『念力短歌入門』を書籍化したものです。 現在は「未来」選者、俵万智さんとアイドル歌会の選者も務めています。 大正大学客員准教授でもありミュージシャンであり、作詞家でもあり幅ひろく活躍しています。
笹:念力とか超能力、オカルトとかと言う言葉が好きです。 第一歌集『念力家族』が家族全員が超能力を持っていて、そういったストーリー立ての歌集を出しました。
穂村:僕より一回り以上年下なのに、僕より上の世界観で、念力という言葉も昭和的な言葉ですよね。 付き合っている周りの人も年上が多いですよね。
笹:皆と同じ所へ行きたくないというのは根本的にあるんですね。 それで短歌に行ったんじゃないかと思います。
穂村:歌人はインドアーの人が多くて、繊細でしゃいで、と言った感じですが、笹さんは割とそうではないような。
「少年時友とつくりし秘密基地ふと訪ぬれば友が住みおり」 笹公人 驚きと笑いとノスタルジーがある面白い歌です。 笹:発表したのは20年以上前ですが、社会も時代によって変わってくるんだと思いました。
*「押し入れの主なり大き瓶のなか紅茶きのこはさびしくそびゆ」 笹公人
笹:大きな瓶の中にクラゲのようなものがあり、なんだろうと思って、気持ち悪いなあと思いましたが。 こんなのが流行っていたというのは凄いですね。
穂村:押し入れと言う言葉自体が段々判らなくなってきている人が居ます。 短歌の会で「畳」という題を出した時に、畳体験がない人が大分いました。
*「ブロック塀に書かれた鳥居に手を合わす幼き姉妹に涙溢れる」 笹公人
穂村:この歌、好きだなあ。 小さな神様がここにいると信じて手を合わす幼い姉妹がいて、それを目撃した人が居る。
笹:本当に見ました。 きゅんとしました。
「修学旅行で眼鏡をはずした中村は美少女でした。それで、それだけ」 笹公人
穂村:前半はあるパターンかもしれないが、内心ドキッとしたが物語は起きなくて「それでそれだけ」ということで、思春期はそういった連続で、何も起きない日々をずっとそれでそれだけ」を生きるという。
笹:その時でしか見えない姿と言うものはあります。 告白などできないし、念力に頼るしかなかったですね。 寺山修司青春歌集を読んで、自分でも作りたいなあと思いました。
「体温計くわえて窓に額つけ「ゆひら」だとさわぐ雪のことかよ」 穂村弘
笹:短歌を始めた頃、短歌の例が古いんです。 おしゃれだし、現代を捉えているなあと思いました。 新鮮な驚きを覚えています。
「酔ってるの?あたしが誰かわかってる?」「ブーフーウーのウーじゃないかな」穂村弘
笹:酔って恋太同士のおちゃらけ場面だと思います。
穂村:若い人は「ブーフーウー」を誰も知らなくて。
笹:バンドは高校生のころからやっていました。 なんかの大会で優勝して、CDも出しましたが、全く売れませんでした。 短歌は入選したりして、「未来」に入会し短歌の世界に入りました。
*「戦争で死にたる犬や猫の数も知りたし夏の千切れ雲の下」 笹公人
穂村:笹さんが壇上で泣いていて、ウズラが亡くなったという事でした。
笹:会場に向かう時にウズラがなくなったという事を獣医から電話で聞いて、打ち合わせをしている時から号泣していました。 動物を飼うのは好きです。
*「色彩都市」 歌:大貫妙子 編曲:坂本龍一
「サバンナの象のうんこよ聞いてくれだるいせつないこわいさみしい」 穂村弘
笹:透明な痛みみたいな、戦時中と比べれば天国みたいなところだけれど、それでも悩みが多いという、自問自答している、バブル時代の象徴的な歌だと思います。
*「あぜ道の彼方に灯るコンビニが宇宙母船に見えてふるさと」 笹公人
穂村:ユーホーの母船の様だという、しかしそれが自分の故郷だったという、普遍性のある歌だと思います。
*印はかあん、漢字など違っている可能性があります。