一柳みどり(出版物編集者) ・〔年末特集〕 ことばが映す2023 前編
年末恒例となった言葉からこの一年を振り返る特集番組、今年は 「言葉が映す2023脱コロナイヤー」と題して、二日間に渡ってお送りします。
2020年から新型コロナウイルス関連の言葉が多く出て、2022年まで3年間続きました。 緊急事態宣言、濃厚接触、三密など言葉を思い出すとあの頃の緊張感が蘇って来ます。 2023年のコロナ関連の言葉は一つ、五類です。 五類は感染症の分類の一つで、感染症法と言う法律で定められています。 感染症にはいろいろな病気があります。 風疹、季節性インフルエンザなどです。 8つに分類されています。 一類感染症、二類感染症、・・・五類感染症、この中で一類が一番危険性が高い、他に新型インフルエンザ等感染症、指定感染症、新感染症があります。
新型コロナウイルスは最初のうちは指定感染症と位置づけられていました。 一類から三類と同じ程度危険性があるというものです。 新型コロナの指定感染症は2022年1月まで続きました。 それ以降は新型インフルエンザ等感染症に変更されていました。 新型インフルエンザ等感染症は自粛要請もできるような内容で、いわゆる二類相当と言われるものです。 2023年5月、五類感染症に移行しました。 外出自粛は求められないけれども、発症したら外出は控えるとか、マスクは個人の判断でとか、治療費の自己負担になったりします。 夏からはマスクを外す人が多くなったような気がします。 医療、福祉の現場では常備となっているようです。 小学校でも2~3割着用していると聞きます。 給食事は給食マスクをして、基本前を向いて黙食も続いているようです。
今年のビックフレーズは「憧れるのは辞めましょう。」 野球のWBCが今年3月に開催されました。 日本は優勝して世界一になりました。 決勝の相手はアメリカでした。 アメリカの大リーガーのスター選手がずらりと並ぶアメリカ相手に勝利しました。 大谷翔平選手が栗山監督の指名を受けて選手たちを前に話したのが、「憧れるのは辞めましょう。」でした。 「ペッパーミルパフォーマンス」と言う言葉も席巻しました。 日本初のアメリカ人大リーガーのヌートバー選手から生まれた言葉です。 両手をグーにして上下で合わせて左右逆に回す、ペッパーミルで胡椒をひく動作で、ヒットを打った時にお祝いの合図に選手らが一斉に行うものです。 ヌートバー選手が所属する大リーグのカージナルスでやっていたそうです。 父母のどちらかがその国の国籍を持っていると、その国の代表になることが出来るという項目があって、今回栗山監督が招集しました。 ヌートバー選手は一躍大人気になりました。
栗山監督の「信じる力」と言う言葉も注目されました。 兎に角いつも選手を信じるとおっしゃっていました。 村上選手はWBCの期間は不調が続いていました。 メキシコとの試合で9回の裏1点差で負けていました。 ランナーが2人出たところで村上選手の打順が来ました。 バント、代打も考えられましたが「任せた、思いっきり行ってこい」でした。 村上選手のさよならヒットで勝利に導いたのです。
大谷選手も大活躍でした。 ホームラン44本、投げては10勝、史上初の2年連続二けた勝利、二けたホームランを達成、日本人初のホームラン王に輝きました。 今年もアメリカンリーグのMVPに満票で選ばれました。 二度の満票MVPは大リーグ初です。 フリーエージェントでの移籍先はドジャースと決まりました。 契約金は10年総額7億ドル(1015億円)でプロスポーツ史上最高額となりました。
マイナ保険証でいろいろな混乱がありました。 マイナンバーカードに健康保険の機能を持たせたものです。 (2021年10月から) 2024年には健康保険証は原則廃止となります。 国民から不満、疑問の声が上がりました。 保険証を持たない人には資格確認証を発行するという政策を発表したが、カード型、紙などという事で、もともとの保険証でよかったのではないかと言う状況になりました。 他にいろいろミスが発生しました。 この時に「紐付け」と言う言葉が注目されました。 「紐付け」はデータベースを扱う場合の基本中の基本の作業で、これが不正確だったことが原因でした。
「闇バイト」 犯罪行為を行うアルバイトと言う意味です。 「闇バイト」として一般人が特殊詐欺や強盗殺人を実行する事件が目立ちました。 一般の人と犯罪を繋ぐのがSNSや求人サイト、インターネットの掲示板などです。 「闇バイト」の特徴は犯罪首謀者は一切現場に出る事はないという事です。 自分は安全なところにいて遠隔操作で犯罪を実行させる。
「アイドル」 日本の音楽ユニットYOASOBI(ヨアソビ)が作詞作曲演奏する曲で、テレビアニメ「「推しの子」の主題歌です。 ユーチューブの世界楽曲チャートで7月に世界第一位を獲得しました。 日本の曲が世界一位になる事は異例のことです。 少年漫画誌で連載されていたものが今年テレビアニメとなって放送され人気です。
若者の間で今年よく使われたのは、「蛙化現象」で、好意を持っている相手のちょっとした行動で急に冷めてしまう現象です。 食べ方が汚いとか、車の運転が下手とか、店員に横柄な態度をとるとか、です。 元になっているのはグリム童話の蛙の王子様です。 蛙化現象はこの反対の現象です。 2016年ごろから話題になっていましたが、今年流行したのはコロナ禍を数年過ごしたことが関係するかも知れません。
若者の間でフィルムカメラが売れたのが話題になっています。(使い捨てカメラ) 数年前からアナログレコードがブームになってきています。 面倒なわけですが、手触り感、手間暇がこだわりに繋がって、自分から能動的に音楽を聴くというスタイルを味わっているようです。 若者にとってはこれまでに触れていない新しいものであるという事です。
「グローバルサウス」 世界政治の中でよくで聞かれた言葉です。 発展途上国と新興国を指します。 ロシアに味方する中国と、ウクライナに味方するヨーロッパ、アメリカ、日本などが対立するようなり、「グローバルサウス」の国々を味方に引き入れようとする動きが活発になっています。 最近南に対して支援するのにロシア、中国が加わって来て、外交合戦が繰り広げっれています。 新興国も経済発展が著しくなって発言力が強まってきているという事もあり、「グローバルサウス」が注目されています。
「戦闘休止」 パレスチナ自治区ガザでのハマスとイスラエルの軍事衝突に関する言葉です。 今年10月7日にハマスがイスラエルに越境攻撃しました。 収まらない中使われたのが「戦闘休止」です。 休止は一時的に短い時間停止するとです。 人道的な目的で一日数時間だけ攻撃を止める、「人道的休止」と言う言葉が用いられ採択に至りました。 30年前にイスラエルとパレスチナは和平合意を結びました。 合意は無視され続けて来ました。
テレビ界での言葉としては、「すえこざさ」 NHK朝の連続テレビ小説「らんまん」からの言葉です。 万太郎の妻すえこさんは原因不明の病気で55歳で亡くなってしまいます。 万太郎は新種の笹を携えて帰ってきます。 その笹に「すえこざさ」と名付けて執筆した植物図鑑の最後に掲載します。(このことはフィクションだそうです)
牧野記念庭園には石碑があって、博士がすえこさんに感謝を込めて詠んだ二つの句が刻まれています。
「家守りし妻の恵みやわが学び」
「世の中のあらん限りやスエコ笹」