長須与佳(尺八・琵琶奏者) ・〔にっぽんの音〕
案内役:能楽師狂言方 大藏基誠
プロの演奏家で尺八と薩摩琵琶の奏者はいないです。
1978年生まれ、茨城県出身。 茨城県那珂市ふるさと大使。 小学4年生まではピアノを習っていましたが、4年生より琴古流尺八と薩摩琵琶を習い始める。 母が小学校の先生をしていて、4年生になった時に母が急に尺八を始めました。 尺八の先生のところに私と弟、妹を連れて通っていました。 それが私が尺八と出会うきっかけでした。 母は音楽と体育を教えていて、自分の国の音楽は一体何なんだろうと思わないように、伝統音楽の一つでもいいから、生音を演奏して子供に伝えたい、それが尺八だったんです。
大藏:海外の人は自分の国の文化に対してリスペクトがある。 お母さんは凄い。
先生が短いものを渡してくれて、吹いてみたら音が鳴ってしまいました。(母はまだ音がでなかった。) 先生から「天才だよ。」と言われ尺八を始めることになり、母と一緒に習いました。 4年生の夏に、祖父母の納戸から白い布に包まれて薩摩琵琶が出てきました。祖父が薩摩琵琶を始めたが、琵琶の師匠が満州にいって、自分も戦争に行きました。 戦争から戻って来て師匠のところに預けておいた琵琶を戻したが、その後忘れていたみたいです。 凄くいい音のする琵琶でした。 現役でずっと使っていましたが、最近痩せてきてしまったので音がかわってきて、実家の方にあります。
*「祇園精舎」 平家物語の冒頭の部分。 奏者:長須与佳
「祇園精舍の鐘の声、諸行無常の響きあり。
娑羅双樹の花の色、盛者必衰の理をあらはす。
おごれる人も久しからず、ただ春の夜の夢のごとし。
猛き者もつひには滅びぬ、ひとへに風の前の塵に同じ。」
小学校6年生の文集には、東京芸大に入ってステージでスポットライトを浴びて演奏する演奏家になりたいと書いていました。 東京藝術大学音楽学部邦楽科尺八専攻しとて、人間国宝である山口五郎先生に師事。 音大ではどこも琵琶をやっているところはありませんでした。 別に琵琶も並行して勉強しました。 2003年には第9回熊本全国邦楽音コンクールにて第一位最優秀賞を琵琶奏者として受賞。 2004年には尺八、琵琶奏者としてCDデビュー。 和楽器ユニットRin'のメンバーTomoca(Vo.、尺八、琵琶)としても活動。 2003年は琵琶を辞めるか、距離を置きたい時期でした。 最後に琵琶をやっていたという証のために第9回熊本全国邦楽音コンクールに参加しました。 最優秀賞になり、或る審査員から「琵琶は絶対やめてはいけない、続けなさい。」と言われました。(辞めることを言ってはいなかったのに)
*「萌風 (きざしかぜ)」 作曲:長須与佳、演奏:長須与佳(尺八、琵琶)
尺八、琵琶の魅力は、人間臭いところが魅力だと思っています。 尺八は虚無僧の方が修行のため、供養のために吹かれて居たり、琵琶も盲僧の方が弾かれていたり、共通している部分は嘘をつかずにさらけ出すと言う部分ではないかと思います。 邪念が入ると必ず違う音を吹いてしまったりするんです。 無の心と言うか、余計なことを考えずに、一つのことに集中しなければ、この楽器たちは駄目なんだと私は思っています。
大蔵:狂言も同じです。 良く見せようとか、かっこよくしようとか、お客さんを笑わそうとか、そういう気持ちで舞台に立っていると、やっぱりいやらしい芸です。 凄く近いですね。
琵琶の弾き語りをしていると、物語の状況を思い浮かべながら弾き語りをしますが、その境地に入った時は、客席が漆黒の海に毎回なるんです。 (夜でピンスポットが月光になる)
日本の音とは、私にとっては尺八、琵琶になってしまいますが、それが素直に出せた音、それが日本の音です。
個人的に学校公演をやっていて、先入観を持たない時期に聞いてもらいたいと感じています。 小学校低学年になればなるほどニュートラルで反応もいいですね。
大蔵:彼らは彼らなりに捉えて何かを感じています。 だから嬉しいんです。 僕が学校公演に行く時には兎に角楽しませる様にしています。
*「三日月」 作曲:長須与佳、演奏:長須与佳(尺八) 歌:長須与佳 編曲:中井智弥(25絃箏奏者)