穂村弘(歌人) ・〔ほむほむのふむふむ〕
昭和の歌を扱ってみたい。 中村草田男の俳句に「降る雪や明治は遠くなりにけり」という句がありますが昭和6年に作られました。 今は令和で昭和から2回元号が変わって、遠くなったと思いました。
*「五カウントまで反則が許されるプロレスみたいだったな昭和」 パロリズム? プロレスは昭和に熱狂的に始まった。 スポーツであると同時に演劇的なジャンルである。 先生がいても、大学で酒も18歳でも許されたような気風があった。 セクハラ、パワハラなども微妙に横行していた。 反則だとは判っていても5カウントまでは微妙に見逃がさられる。 プロレスに例えられている。
*「取り戻せ和式便所で朝刊を読んでいた時代の活力を」 パロリズム? 和式便所で新聞を読むというのは凄い足腰ですよ。 高度成長期の企業戦士みたいなイメージです。
*「箱の中ひしめくひよこ吊り上げることが遊びの世界からきた」 原田 祭りの夜店で色の付いたひよこを売っていました。 ひよこ的には虐待というようなものだったと思います。 動物に対する意識も今とは違っていた。
*「襟巻きのミンクのガラス玉の目がとろりと冷えてゆく冬の夜」 原多恵子? 狐の襟巻きなどしていました。 今は毛皮そのものが歓迎されない。
*「立ちションをしている人が三人も見たら戻れぬ元の世界に」 木村和夫? 三人も見たらタイムスリップして昭和に戻ってしまったのかなと思います。
*「うっとりと煙草吸いたるいにしえの女優の口紅の色が知りたい」 岡村蛙? これはモノクロのの画面ですね。 銀幕とスクリーンは語感が違いますね。 謎に包まれていた時代の遠い女優さんという感じです。
「太陽にほえろ」の中で若手の刑事役が殉職するんです。 かっこいい死に方をするわけです。 ショーケンが立ちションしていて、終わったところで急に刺される。 そのかっこ悪さがかっこいいという。 松田優作は撃たれて「なんじゃこりゃ」と血を観て驚きながら言って亡くなる。 その時に煙草を加えようとしてぽとりと落とす。 昭和の微妙な反則性、死ぬ間際の最後の反則という感じで、かっこよく見えた。
*「押し入れの主なり多き瓶の中紅茶きのこはさびしくそびゆ」 笹公人? 紅茶きのこがありましたが、ピークはこの時点で過ぎている。 (押し入れに入れられている) 流行りの物が買っては放置される。
*「昭和には寝ているだけで差をつける睡眠学習枕があったっけ」 藤田尚? 魔法気味。 時代の空気感が違う。
*「番台からよう使いすぎと髪洗う母怒られき昭和十九年」 三井和夫? お湯の使いすぎを叱られる。 髪の長い人は料金が違った。 時代によって髪を洗う頻度が違う。
*「小学生が歌ってならぬと派出所の警官諭す黄色いサクランボ」 三井和夫? お色気ソング(ゴールデンハーフ) 今は警官は諭したりはしない。 当時、近所のおじさんおばさんから叱られていました。 共同体の距離感が違った。
*「賞味期限切れは任せろ俺たちは何でも食って生きてきたんだ」 新垣和夫? 戦後のかなりの時までは賞味期限はなかった。
*「金次郎よもう勤勉の荷を下ろし寝むれ昭和の子も老いたれば」 森英人? 勤勉さを称賛する価値観が段々通用しなくなってきた。
リスナーの作品」
*「十二時の時報の長く聞かざるを聞けば祖父母の家の香りす」 ろうそくしゅうごう?
*「夢に見るあなたの姿夢になくなのにあなたの夢と知る夢」 白井義彦?
*印は漢字ひらがな等間違っている可能性があります。