宮丸直子(雅楽演奏家) ・〔にっぽんの音〕
「越天楽」 雅楽の曲の中では最も有名な曲です。 民謡の「黒田節」も「越天楽」の旋律から来ています。 曲は平調(ひょうじょう)という旋律で演奏されるのが普通だが、盤渉調(ばんしきちょう)、黄鐘調(おうしきちょう)の旋律でも演奏される。 雅楽には音に季節がとか色があると言われていて、秋にやるんだったら平調(ひょうじょう)の曲、冬になったら盤渉調(ばんしきちょう)にしましょうとか、平安時代の人は雅な遊びをしていた。
いまでも宮中でやっている『御神楽(みかぐら)』という、歌と琴、笛を伴奏にして一晩中神様に奉げる歌を歌っているとか、そういった芸能がありました。 5世紀ぐらいから大陸との交流が盛んになって来て、大陸の文化が入って来るに伴って、音楽や舞いも沢山はいってきました。 各国の音楽、楽器がはいってきてそれが、もともと日本にあったものと融合して、日本の雅楽が出来たと言われています。
大蔵:能楽は元々猿楽で、猿楽は散楽が最初です。 散楽は庶民の間で流行って行ったもので、雅楽は平安貴族の中で遊ばれていたようですね。
宮丸:平安貴族の中で遊びでもありましたが、大きな寺院とかで大きいな法要、イベントがある時にも、儀式の音楽として、あるいはイベントの出し物として奉納されていたということがあります。 一番有名なのは東大寺の大仏様ができたとき(天平勝宝4年 752年)、いろんな国の舞とか音楽が披露されたと言われます。 雅楽の中には伎楽があり、伎楽はもっと簡単な伴奏とかで、滑稽味のあるストーリーがあって、無言の仮面劇で、田楽とも繋がっているのかもしれません。 その後日本では雅楽は長い間凄く荘重な儀式の音楽という歴史を担わなくてはいけなくなって、平安、奈良時代に渡ってきた当時の姿が随分変わってしまった、という風に思われます。 雅楽の源流を捜して、という試みも私たちはいろいろやっています。
大蔵:宮丸さん福岡県出身、東京芸術大学音楽学部に入学、日本や海外の音楽について学びました。 大学に授業で宮内庁の楽師であった芝 祐靖(しば すけやす)さんに出会い、雅楽に触れあうようになりました。
宮丸:大学に入るまでが雅楽などは聞いたことがなかったです。 バッハ、モーツアルトを聞いたり西洋音楽を勉強したりしていました。 東京芸術大学に入って、アジアの音楽、実技も体験しました。 芝 祐靖さんが来て熱心に指導してくれました。 7,8人が受講しました。 日本の楽器、長唄なども勉強しその論文も書きました。 芝 祐靖さんに傾倒していって、国立劇場で雅楽公演をするようになって、西洋楽器の人たちも動員して演奏会に臨んでいました。 普段から五線譜を読める団体を作りたいという事になりました。 練習会を始めて今日に至ることになりました。
大蔵:日本の音、楽器を世界に発信するためには五線譜にしないといけない。 太鼓、尺八もみんな五線譜やっていますね。
宮丸:でも本当はそれは問題だと思いますが。 1オクターブは12個だと思っていましたが、その間の音が沢山あるという事が判りました。 それを音符にしてしまうと生命が消えてしまう、というんですかね。 衝撃でした。
唱歌(しょうが 一定の規則に従って、楽器が演奏する旋律を、奏法の情報を含めて、声に出して歌うための体系を言う。唱歌の歴史は雅楽で始まり、能楽、長唄でも用いられるようになり、近世音楽にも広まった。)は笛の音とかを全部カタカナで書いてある。 最初は楽器ではなく歌ばっかり教わります。
大蔵:僕らも三番叟とかを舞うときは、その唱歌を口ずさみながら稽古します。
宮丸:雅楽で現行の楽器は11あります。 一番基本になるのは管楽器です。 枇杷、お琴なども入ります。 笏拍子(しゃくびょうし 二枚の木片を強く打ち鳴らし拍子をとります。)もあります。
*「呼韓邪単于(こかんやぜんう」 笛:芝 祐靖
雅楽は指揮者がいないので、誰がリードを取るというのがなかなか難しい。 演奏中にいろいろ駆け引きがあります。 今では5分ぐらいしかかからない曲でも、全部を通すと30,40分になると言うような曲がざらにあります。 前の部分のゆっくりしたところは明治以降廃絶してしまって、短い軽やかな部分だけやるというのがいくつもあります。
楽器、排簫(はいしょう)、簫(しょう)とだけ言われたりもします。 正倉院に壊れた形で残っていたものを復元しました。 竹が18本横に繋がっている。 和紙で調律する。平等院の雲中供養菩薩が排簫を持っている。 正倉院に残っている楽器を復元する活動があり、完成した時に何の音楽をやりましょうか、と言った時に、敦煌の莫高窟に巻物があり、フランス人が楽譜を買って持ち帰ったが、どんな曲か音か判らなかった。 日本の雅楽の琵琶の楽譜と同じじゃないかという事が判りました。 そして音にすることが出来ました。(1000年以上かけて復元できた。) 芝 祐靖さんがそれぞれの楽器に合うようにオーケストレーションしたらどうなるだろうと復元しました。
*「急胡相問」 から一部 音が華やか。
*笙と雅楽器のための合奏曲「招韻~いかるがの幻想~」 作曲:芝 祐靖
平城京朱雀大路の賑わいや古の奈良の風情が抒情的に綴られた絵巻物のような大作です。
日本の音とは、祭りの音 と言った感じです。
子供達も楽しめる勇気と調和の雅楽をずっとやって行きたいと思います。