2019年7月8日月曜日

穂村 弘(歌人)             ・【ほむほむのふむふむ】歌人 東 直子

穂村 弘(歌人)             ・【ほむほむのふむふむ】歌人 東 直子
(ちょっとまとめずらい内容でした。流れが見えにくいかと思います。)
(短歌の文字、漢字は違っているかもしれません)
「回転ドアは順番に」 穂村、東 共著 
東:1990年代の後半ぐらいに穂村さんとのメールでの短歌やり取りを始めました。
穂村:メールでの短歌のやり取りを編集したり、作り直したり足したりしました。
短歌のやり取りの中で物語が見えてくるようにつくりました。
穂村:「月をみながら迷子になったメリーさんの羊を歌う女を連れて」
東:「笑っちゃうくらい天気が良くて笑ちゃうくらい不味いカレーを食べて」
  「笑っちゃうくらい行く当てがなくて笑っちゃうくらい初めての道」
  「ねえどこにつながっているのこの夜は」
  「永遠の迷子でいたいあかねさす月見バーガー二つください」
穂村:書いたときに恋が盛り上がっていく時は割とすんなり書けたのですが、一番最後まで書けなかったのは出会いのシーンで、初々しい出会いを書きたいがそれが結構難しかったような記憶がある。
東:プロポーズのシーンの歌を作るって言われて苦労しました。
穂村:今読んだところは恋に落ちてゆくところ。
東:読むのは恥ずかしいようなところがありますが、作っているときには別人物、自分ではない人ですよね。
穂村:短歌は恥ずかしいという人は一定数常にいて短歌ウエットなジャルンらしい。
そうなったときにノリノリになってゆくような体質の人が短歌をやるイメージ。

穂村:「回転ドアは順番に」という本にタイトルを決めようとしたときに、「二匹」という案を出したら東さんにそれは絶対いやといわれて、順番に歌をやり取りをするという事で、結局いいタイトルにはなったと思いますが。
互選句
東:「自転車のサドルを高く上げるのが夏を迎える準備のすてべ」(穂村さんの句)
 サドルを上げると強く踏むことができて、夏を楽しむぞ、気分を盛り上げて、サドルを上げるという事だけで表現しているのと、文体のリズムの良さ、疾走感があります。
穂村:人工物と季節の組み合わせには自分にはあるのかなあと思うところがあります。
前回の「錆びて行く廃車の山のミラーたち一斉に空映せ十月」での
廃車の山のミラーと空のように。
互選句
穂村:「好きだった世界をみんな連れてゆくあなたのカヌー燃える湖」(東さんの句)
心の中の景色だと思います。
別れの歌だと思いますが、その人が去るだけではなくて、その人が持っていた世界根こそぎ自分の近くから消えてしまう。
それをカヌーによって表現されている。
夕映えみたいなイメージ、その鮮やかさ、燃える湖。
東:心の深いところにある何らかな心象風景を言葉で置き換えてゆく作業もあってこれはその一種ですね。

互選句
穂村:「そうですか綺麗でしたかわたくしは小鳥を売って暮らしています」(東さんの句)
不思議な後味の歌ですが、何が綺麗でしたかはこの短歌だけではわからない。
東:郷ひろみさんと松田聖子さんは昔恋人同士でしたが、聖子さんが先に結婚してひろみさんのところにインタビュアーが行って「聖子ちゃん綺麗でしたよ」と言ったら、郷ひろみがちょっと躊躇して「そうですか綺麗でしたか」というところをTVで見て、「そうかそう言うしかないか」と同情もありました。
穂村:魂が抜けたような感じで、そこが良くて、「わたくしは小鳥を売って暮らしています」とよくこんな風につけるなあと東さんらしい才能だと思います、失恋があまりにも重くてちょっと浮世離れしてしまった。
東さん好みのシチュエーションですかね。
互選句
東:「まだ好きと不意に尋ねる滑り台に積もった雪の色を見つめて」(穂村さんの句)
「まだ好き」とたった4文字のセリフですが、悲しさがあります。
好きか確認せずにはいられないような、関係が冷えてきたような気持が言わせたんじゃないかと思いますが、その時に見たのが滑り台に積もった雪の感じがなんとも言えない。
細部の設定が妙にリアリティーがあって迫ってきて、すぐに溶けてしまいそうな雪で、先の風景も見せてくれて、変わってゆく関係性を投影されていて好きです。
穂村:実体験ではないですね。
雪の積もった滑り台は本来の機能はできなくなっている。
短歌を作るときの癖になっているのかも。
東:切なさがエネルギーになるという事はありますよね。

互選句
穂村:「花子さんがミカンを三つ買いましたおつりは全部砂に埋めます」(東さんの句)
不思議な短歌です。
お金を砂に埋めてしまうというのは、この世界ではない。
花子さんがいる場所はこの世界とは違う価値軸の体験の世界だという感じがして、そこに変な安らぎみたいなものを感じます。
東:この歌は作ったときに明確に覚えています。
おつりなんてそんなめんどくさいことは考えずに砂に埋めとけばいいと、応援歌のつもりで書きました。
互選句
東:「終バスに二人は眠るむらさきの降りますランプに取り囲まれて」
今にも楽しい時間が終わりを告げようとしている瞬間で、もう降りますという紫色に光るイメージがとてもきれいではかなくて、甘美さとはかなさの両面があると思います。
ポイントは紫色を選んでいるという事だと思います、暖色と寒色の両方はいっている、色の感覚が素晴らしい。
穂村:止まりますと書いてあるが止まりますでは短歌にはならない、降りますランプじゃないと。

東:「水中翼船炎上中」は穂村さんが11年ぶりに本を出されて、長い時間のなかで起こったエピソードを恋愛ではない切り口から時間をテーマにまとめられた歌集でテーマ、世界観が変わってきたのかなと思います。
穂村:東さんの作品が変わってきたという以上に東さんの作り出す世界の受け入れられ方のほうが変わったという印象は僕は持っています。
昔、今日読んだような歌を見た先輩たちはふわふわした童話的な世界だというよう言葉を言っていた記憶があるが、童話っぽいところはあるかもしれないが、別のリアリティーを示しているという事が東さんの作品で浸透してきたような気がします。