柳美里(作家) ・原発事故に向き合い高校生と演劇上演
2015年に南相馬市に引っ越し、去年の春自宅で書店をオープンしました。
裏の倉庫を開放して劇場にし、去年秋若いころ主催してい演劇ユニット「青春五月党」を復活させました。
上演したのは柳さんが21歳の時に書き下ろした、高校を舞台にした作品「静物画」で演じたのは福島県立双葉未来学園高校の演劇部です。
震災体験を語るシーンを加えて、高校生は夏休みを返上して稽古をし、9月の公演は大成功でした。
今月3日間東京都北千住で3日間再演することになりました。
初めてこちらに来たのが2011年の4月21日で、8年は短くないです。
私が暮らしているところは南相馬市小高区は駅のそばで、駅の海側が津波の被害の大きかったところです。
その時が過ぎていかないと言う人もいます。
空白のままあるのではないかと思います。
2015年の春に南相馬に引っ越してきました。
人との出会いが大きいです。
たまたま書店を開いたら和合亮一さんの中学校の同級生がいらっしゃってその人の息子さんが双葉未来学園の演劇部の部員で、一度稽古を見に来てほしいと言う事で行きました。
やるんだったら私が21歳の時に書き下ろした、高校を舞台にした作品「静物画」をやりたいと思いました。
5月に行って9月に上演なのでかなり急でした。
福島県立双葉未来学園高校の演劇部の関根颯姫(さつき)さんと鶴飼美桜(みお)さんに来ていただきました。
2015年開校した新しい学校の二期生。
鶴飼:林修先生の授業が印象的でした。
関根:秋元康さんが印象的でした。
鶴飼:3年間過ごす中で地元を元気にさせたいと言う思いがわいて来ました。
関根:有名人が来てもっと楽しい学校なのかと思ったら、復興に対する意識が強すぎて自分はなにもできないと思って、今になって判るのはやっぱり人と繋がることが大事だと思いました。
鶴飼:震災に会った時には凄く悪いこととしてとらえていましたが、8年過ごしてみると出会いがあり、今ここで頑張れているなあとは感じます。
関根:震災当時は離れるのが厭で、避難生活も最悪で人ってこんなにつらいんだなとわかって、このままでは幸せにならないなと思って、他の人には幸せに自分の選んだ道を歩んでもらいたいと言う思いが段々強くなっています。
柳:21歳の時に書いた「静物画」を頭から書き直して行きました。
震災当日の事を生徒に一人ひとりに語ってもらったら、小学校の3,4年生の頃の事が見えてきました。
避難区域になってしまって、非難生活も大変で、子供の時の体験があるんだけれども口に出せなかったことを大事にしたいと思いました。
だからそういったことを盛り込みました。
最初会った時に話せることと、いまだったら話せることはたぶん違うんじゃないかと思います。
生徒:思いだすことは結構しんどかった。 ずーっと封印していました。
声に出してみて良かったなあと思う部分もありますが、傷を掘っていないかなあという不安は最初ありました。
何回かやっているうちに自分でも楽になり、本番では聞いてもらえているんだなあと実感しました。
生徒:思い出は消えてゆくものだと思っているんで、なんでこんなに溢れて来るんだろうと自分の中にはありました。
それまでは言いたかった気持ちがありましたが、そういう場がありませんでした。
柳:演劇部の時間もあり、静物画の稽古もありましたがどうでしたか?
生徒:ハードでしたが充実していました。 公園などでも練習をしていました。
柳:「静物画」は一言で言うと生きることと死ぬ事がテーマになっているんです。
小学校の前半の時には生きることと死ぬことに、直面することはあまりないと思うのですが、直面せざるを得なかったと言う事があり、引き出しを開けてはいけないものもあるだろうし、開けても取りだしてはいけないものもあるだろうし、慎重にやらなければいけないと思いました。
主に話を聞くことと、どんな子何だろうかと思って、信頼関係を築きながら引き出しを一緒にそーっと開けて行く作業だったような気がします。
生徒:本番の舞台に立った時には緊張していましたが、楽しみだったのは大きかったです。
無我夢中でやって、拍手を貰ってもう終るのかと言うような感じでした。
柳:再演を模索したいと思いました。
知らない人に知らせたいと言う気持ちがあり、東京電力原子力発電所の事故と言う事で、頭の東京を抜かせては語れないと思って、東京も当事者として観てほしいと思います。
生徒:1年の時にも震災の事を演じたことがありましたが、東京のメディアが悪い部分しか撮らない処があって、東京公演ってこんなものかと思いました。
柳:今度は役者として観てほしいと思います。
物語の舟に乗っているので、安心して語れるのではないかと思います。
北千住は常磐線なので、昔は集団就職で上野への前の駅なので、東京へ避難した人もいるし、関東の人にも見に来てほしいと思っています。
生徒:前は怖くて人の事を信じられなくて、しかし美里さんはちゃんと聞いてくれて美里さんとは信頼関係が出来て、出会う前とは自分自身変ったなあと思います。
柳:信頼は賭けみたいなもので、相手もいることですが、自分を投じるみたいなところがあると思う。
仮に裏切られてもいいから、信じるみたいなところがあるのではと思います。
ここ南相馬市小高区で暮らすという選択をしたので、2011年3月11日は日々向かい合っている中で書いている、聞いている、話していると言うことです。