井上由美子(脚本家) ・物語が人を助ける
NHK連続TV小説「ひまわり」、大河ドラマ「北条時宗」、「白い巨塔」などといったTVドラマの脚本家として数々のヒット作を手がけてこられましたけれど、去年初めて小説を発表しました。
タイトルは「ハラスメントゲーム」、大手スーパーマーケットに勤める主人公が社内で起こるハラスメント事件を次々に解決してゆくという話です。
井上さんが小説という新境地を切り開くことになった理由、脚本と小説との違い、物語の魅力等について伺います。
「ハラスメントゲーム」、地方から東京の本社のコンプライアンス室長として呼び戻され、53歳の主人公が社内で起こるハラスメント事件を次々に解決してゆくという話です。
ハラスメントが世の中で色々取り上げられている中で、働くこととはどういう事かを表現できればいいと思いました。
日本では上下関係で悩んでいる人が多くて、セクハラの後にパワハラという言葉が入った途端に理解が深まったという事があるようです。
反面、恐れるあまり職場でのコミュニケーションをあまりとらなくなっているというのも、働く者としてさびしい時代になってきていると思います。
みんなが窮屈なところに生きていると思います。
ハラスメントに関する小説で、普段口にできないことを話せるきっかけになって貰えればいいなあと思いました。
主人公が53歳でまた本社に戻されるが、失敗が許されない時代だなあと思っていて、元気になる為には失敗を経て頑張っている主人公を描いてみるのが一番伝わると思いました。
出版社の方から一度小説を書いてみないかと言われて、それがきっかっけになりました。
実際に書きだす為には5年ぐらいかかりました。
脚本では時間が制限されていることと、悲しいとかを口に出しては言わないが、全体を観終わった時に判ってもらえるような形、小説では悲しいという事を延々と30ページ書いてもいいということもあります、バランスも苦労しました。
小説の方が沢山の材料を扱えるのですが、何処まで描写をして読者に想像してもらう事などになれないのでそこも苦労しました。
自分で脚本を書いてドラマを見て、これは違うと驚くこともあります。
逆にこんな風に表現してくれたんだと感謝することもあります。
脚本ではあまり書き過ぎないないようにしているが、小説では人物がどんな顔をしているとか服装はどうかなど詳細に書く必要があったりして、目からうろこでした。
子供のころから身体は丈夫ではなかったので、家の中で本を読むのが好きでした。
ドラマを作りたいと思ってこの世界に入りましたが、入院していた子供時代にTVをみるのが楽しみで、毎週やっていてこういうドラマの仕事に就きたいと思いました。
人が生きている中で悩み、苦しみがあると思いますが、1時間、2時間夢中になってドラマを見たりするひとときは、色んな事を忘れる事が出来て、主人公の人生を感じることで自分が抱えていることが大したことではないかもしれないし、大変な不幸を抱えながら頑張っている主人公を見て、僕もできるかなと思えるという事も物語の力なのかなあと思います。
中学高校ではドラマの脚本家になろうと言う思いはありませんでした。
大学卒業後TV局に入って営業の事務の仕事をしました。
つくる事がやりたいと思って退職をして、脚本は何処でもできるし書くことも好きだったのでやってみようかなと思いました。
シナリオの学校に行って基礎を学びました。
最初に書いたものがコンクールに入選しましたが、仕事の話が飛び込んでくると思っていましたが、全然電話は入って来ませんでした。
降板する人がいるので書いてもらえないかという話があり、プロットというあらすじみたいなものを書いてOKかどうかをするのですが、それがなかなか難しくて何十回となく書き直す作業がありました。
最初の作品をみて、凄く嬉しさと恐ろしさというか、気軽に書いた一言を考え、かみ砕いて表現してくれているんだと思って不用意に台詞はかけないと思いました。
段々声を掛けていただいて、NHKのドラマ新銀河で初めて連続ドラマを書かせていただきました。
或る脚本の仕事で今回の仕事は貴方にはに合わないと言われて、仕事を下ろされたこともありがっかりして落ち込んだこともありました。
後でじっくり見るための深いものか、気楽なものと二極化されてきていると思って、題材が狭くなってきていて実験みたいなものがしにくくなってきている。
ジャンルがはっきりしてきているので、ジャンルがはっきりしないものは作りにくくなってきていると思います。
単純なものの方が見やすいので、好まれるようになってきています。
喜劇であれ悲劇であれみている人が、生きていてよかった、生れて来てよかったと思える作品にしたいと言う事は根底にあります。