権田和幸(印章彫刻工) ・"信用"を彫り刻む
東京八王子市で親の代から小さなハンコ店を営む権田さんは59歳。
機械彫りが主流になったハンコの業界で、手彫りにこだわってハンコを製作し、東京マイスター、現代の名工などに認定されてこの春黄綬褒章を受章しました。
サインで代用される場面が増える中で銀行印、実印など日本の社会ではまだまだ信用の証としてのハンコが重要な役割をはたしています。
ハンコにまつわる様々な話や手彫りにこだわる熱意、難しさなどを伺いました。
店は私が生まれるちょっと前60年前位、父が店を始めて私が2代目になります。
継ぐことに関しては父は私自身にはあまり態度では示さなかったが、知り合いに対しては喜んでいた様に聞いています。
継ぐことに対して彫る修行だけはするようにと言われました。
10年ぐらいしてからお客様の仕事をする様にはなりました。
1987年に大阪知事賞、東京印章協同組合技術講習会の講師、東京都青年優秀技能者、、労働大臣検定 印章彫刻一級技能士合格、東京都優秀技能者知事賞(東京マイスター)受賞。
平成24年には厚生労働省認定卓越した技能者(現代の名工)に選出される。
ハンコの本体と紙に残った方の二つに分けて、本体の方は印章、ハンコ、とか言われます。
印鑑は実は紙に移った方のことを言います。
ハンコはもともとメソポタミア文明とかのころに粘土で凸凹を作ったのが起源と言われるが中国に渡ってそれが日本に来たと言われています。
明治初期に政府により実印登録制度が出来て、一般の人もハンコを持たなくていけなくなって、普及していきました。
ハンコを使ってる国は韓国、台湾にもあったが制度は無くなったという事を聞いているので現在は日本だけだと思います。
ハンコの使用は日本でも使う場面は減ってきています。
役所に登録した時点で実印となり、それ以外は全部認め印で、その中に銀行印など色々使い道によって分かれます。
家の購入、車などの購入、相続の時などには実印が必要になります。
銀行印も大事ですが、使われ方は少なくなりましたが、カードが無かった時代はお金を下ろすごとに使用していました。
三文判は「二束三文」から来ていると言われています。(出来合いの安い判)
書体は何種類かあるが、実印に使われるのは篆書体が多く、2000~2500年前に中国で発達した文字です。
お札に使わているハンコも篆書体です。
他には古印体とか他の書体も出ます。
篆書、隷書、楷書、行書、草書、古印体の6つがあるが、普段見る文字は隷書、楷書、行書、草書が多いが、ハンコでは篆書、古印体が多い。
女性の実印では名前だけというのが多いです。(結婚すると姓が変わるので)
材質はうちでは手で彫るのである程度限られていて、柘植、黒水牛、牛の角、象牙が多いです。
柘植は均一で手で彫るのに適していて木では柘植だけです。(柘植が一番安い)
黒水牛が一番多いです。
牛の角は白くて女性が好みます。
象牙は材料の値段も高くて硬さも高いので値段も高くなります。
お客さんと打ち合わせをして要望を確認して彫り始めます。
篆書、古印体は文字を逆にして直接書きます。
のみを10種類位用意して先ず粗彫りをして、仕上げで文字を整えていきます。
刃物を作ってくれる方がいたが、今はその職人さんもいなくなってしまいました。
最後に朱肉で押しながら細部の調整をしながらやっています。
文字が簡単な方が簡単かと思われるかもしれないが作るには難しさは同じです。
簡単な文字ほど恰好を取るのが難しい。
荒彫りの空間の多いところぐらいは機械彫りを取り入れて安く提供できるようにしています。
じーっとしての細かい仕事なので身体が固まってしまうので休み休みやっています。
自分で作ったものを直接お客さんから御礼を言ってもらうのは、やり甲斐があるものだと思います。
通常は1~2週間いただいて、1~2日位は余裕を見てもらって作業をしています。
実印は2~3万円が良く出ます、銀行印は1~2万円が多いです。
保管はケースに入れて引き出しに入れておけば問題ないです。
小さいものなので保管場所をしっかり覚えておくことは必要です。
朱肉を付ける時に一回で付けないで回数を多くして付ける、均一に付ける。
お客さんが喜んでくれるのが仕事の励みになっています。