2018年7月4日水曜日

夢枕 獏(作家)             ・生れ変っても物語を紡ぎたい

夢枕 獏(作家)             ・生れ変っても物語を紡ぎたい
67歳、1977年に作家デビューして40年が過ぎました。
「陰陽師シリーズ」や、柴田錬三郎賞を受賞した「神々の山嶺」、泉鏡花文学賞を受賞した「大江戸釣客伝」など数多くの作品があります。
夢枕さんにその創作方法やデビュー迄の道のり、今後書きたい作品などについて伺います。

昨年までで320冊出している。
今年3月に新聞に全面広告を出す。
「東天の獅子」、「大江戸恐竜伝」この2冊をもっと読んでもらおうと出しました。
「東天の獅子」は前田光代(柔道家)を書こうと思いました。
 前田光代は20代の頃海外に渡って二度と帰ってこないで、プロレス、ボクサー、その他力自慢と戦って他流試合などをしていた。
2000試合して無敗で最後はブラジルに帰化してブラジルで一生を終える。
ブラジリアン柔術は前田光代が広めた柔道がブラジリアン柔術となって残っていた。
前田光代の一生を書こうかと思ったが、全4巻書いたところで前田光代の子供時代が出てきたところでとりあえず完結して、続きはこれから書かなければいけない。
「大江戸恐竜伝」 ゴジラが大好きだったが段々怖く無くなってきたのが不満だった。
黒沢さんがゴジラを撮らないかなあと思っていたが、駄目だと思って、自分で書くしかないと思って江戸時代を設定して人間との対等の戦いをと思いました。
主人公の平賀源内が南の島まで恐竜を取りに行くが、檻から抜けだして大暴れする。
平賀源内が好きな恐竜を色々考えて泣く泣く退治する。
雲南省は恐竜の宝庫で行って調べて来ました。
構想は10~20年、執筆だけで10年かかっています。
書きながらラストが段々に判って来るので3,4年で書き上げるつもりだったが、ああなってしまいました。

長編が多いです。
アイディアはある日突然来ます。
平賀源内まではある程度スムーズに来て、それ以後はとにかく調べまくります。
面白いエピソードは恐竜が乗る船はどのぐらいの大きさなのか、恐竜が暴れたらどうするのか、麻酔で眠らさなければいけない。
ヘロインを使ったらいいのではないかとか考えました。
連れて帰るのに相談したりしたら気道確保が必要だと言うことで、そういったアイデアは沢山あります。
先ず事実関係だけを書く年表を作ります。
その隙間をこうだったことにしようとか考えますが、資料などをいろいろ参考にします。
丸山応挙(写生の大家) 龍を書くためにそれぞれの部分の写生をしている。
平賀源内と丸山応挙が会ったことなどを書いてゆく。
月表を作って最後には日表を作ります。
そこに誰がどうしたなどを書き込んでいきます。
原稿に書き込みます。(手書きが慣れていてパソコンは駄目ですね)
パソコンは変換の問題、漢字の選択が問題だと思います。

朝は7時ぐらいには起きて、8時に朝食、9時以降に始めて、食事をして夕方まで書いて7~8時に食事をして、9時頃から2時ごろまでやります。(日程が詰まっている時)
時間にゆとりがある時は資料を読んだり、映画、釣りに行ったりします。
旅行に行っている時は雑音が無いので出先で相当書きます。
連載は今小説が13本、エッセーが2本、短編とかなどがそのほかにあります。
作家になろうと思ったのは10代、中学生のころ思いました。
幼い頃父親から寝る時に話をして貰って、続きに話を自分で物語を作っていました。
お金がもらえない同人誌に出したりしていました。
デビューが26,7歳だったと思います。
筒井康隆さん、小松左京さん、星新一さんとか、面白い話を書きたくて書いてるのですが、或る人からお前の原風景は何だと、原風景の話をされた時にないということが判って、ちょっと落ち込んで原風景が無いものは書いてはいけないのかなあと思いました。
自分は面白いものを目指していて自分の本は一番面白いと思っていたが、最初の本が店舗に並んだ時に、筒井康隆さん、小松左京さん、星新一さんとかがならんでいる中で自分が一番駄目だと思いました。

現実を見てショックでした。
いつか本気を出そうと思った時に今しかないと思って、カメラなど売り払って、家にお金を払って2~3カ月家にこもりきりで150枚書きました。(「巨人伝」)
あの時本気を出してよかったと思いました。
現在連載しているのが13本あるが、一番早いもので1年半はかかるのではないかと思います。
書きたいものはかなりあります。
やりたいのは縄文小説と俳句小説。
縄文時代は文字資料が無くて、縄文時代に人が何を考えていたかというのは、土器、貝塚、土偶、石器などで、彼らどんな神話を持っていたんだろうと思いました。
彼ら信仰していた神話を作ろうと思いました。
古事記、日本書紀、神社など、長野県の諏訪に残っているのは宝庫です。

思い付いたのはちゃんとした縄文人を主人公にして旅をする話を書こうとしました。
諏訪から糸魚川、姫川沿いにでて、日本海にでて信濃川を遡って縄文の遺跡を伝いながら山内丸山遺跡までヒスイを運んで縄文時代の商人がいた。
ヒスイはほとんどは糸魚川産なんですね。
糸魚川にはヒスイを扱っていた姫がいて沼河比売(ぬなかわひめ)という。
調べてみたらめちゃくちゃ面白くてこれを書きたい。
波乱万丈で縄文という設定でないと書けないというような現代が有るんです。
現代は神様が一人しかいないという人達が一杯いすぎて駄目なんです。(一神教)
一神教は他の神様を悪魔という。
相手の信仰している神を認める土壌はあったと思う。
縄文時代は戦争をしたという痕跡がどうも無さそう。
縄文時代は不思議な1万2000年間で、その後半の話を書こうと思っています。
3,4年先に始めたいと思っていて、3年位で書き上げたいと思っています。

俳句小説はファンタジーの俳句をやろうと思います。
それを300句位並べるとドラマが出来ると思いました。
10年位俳句を作ってきましたが、これは大変な世界であったということが後で判りました。
小説を書いているとこの一行は抜群に素晴らしいと思うことがあり、俳句はその素晴らしい一行を俳句に整えればいいと思っていました。
しかしやってみるとぜんぜん別物で、とんでも無い世界で、いい一行を整えたら俳句になるという世界ではないことに気が付きました。
季語の素晴らしさに気がつきました。
季語によって縄文の香りがして来て、季語は神と同意義語のような気がして来ます。
縄文時代の人があれにも神様が宿っている、これにも神様がと言っていたものが、それが今は季語だと僕は思っています。
季語があることによって俳句の深みが出てくる。
僕が理想としている俳句に近づこうという作業をしていて、見切り発車しかないと思って
来年俳句小説を書き出すことにしました。
手口は「奥の細道」にたどり着きました。