2018年6月1日金曜日

谷川俊太郎(詩人)            ・【対談】2人の詩人から“ことばの贈り物”

谷川俊太郎(詩人)      ・【対談】2人の詩人から“ことばの贈り物”
工藤直子(詩人)
共に80歳を越えても元気なお二人、パワフルで楽しいお話が繰り広げられました。
谷川さんは1931年生まれ、86歳。 工藤さんは1935年生まれの82歳。

工藤:私が40歳の後半に富士山麓の村で初めてお会いしました。
谷川:旦那さんとくっついたり別れたりしている人で、一度も嫉妬という感情を経験したことのない女性だと言うことで、凄く興味があって会いに行きました。
工藤:20代のころから、いまでもそうですが、焼き餅を焼くというのが余りはっきり判らない、女友達に総スカンを喰らっています。
50歳になっても元気でストレスを押さえ付けた影響が無いので良いんじゃないですかといったが、谷川さんが80歳になったら溜めておいた焼き餅が噴出するかもしれないと言ったんです。
谷川:でも噴出していないですね、人間的な特徴が無くて虫、魚、草とかの命とおんなじなんだ、多分。
工藤:「ふわふわ」というタイトルに決まった時は嬉しかった。
対談が何回かあり、それを纏めて、何十年かに渡っての谷川さんとの対談なんです。
焼き餅問題が何回かにも渡って出てきています。
私は本当に私に似た若い人が出てきているんじゃないかと思っているんです。

谷川:4時台は安眠しています、6時ごろに起きだしています。
眠れないということはほとんどないです。
工藤:いつ起きていつ寝るかはその時次第です。
会社務めを26歳で辞めて、それ以後は糸の切れた凧のようにしています。
それが出来ない時、子供がいたり相方がいたりして出来ない時、自分勝手ができないがでもしちゃうんです。
その代わり、「ごめんなさい」と本気で謝ります。
「お母さんだって都合があるのよ」といったことはないです。(言い訳はしない)
谷川:この人は武士の心意気だね、いざとなったらこの人は切腹する人だね。(笑い)
夫婦喧嘩はしたことないの。?
工藤:夫婦喧嘩はしたことないです。
谷川:それも不思議でしょう。
工藤:身ごもったら母の感覚になると聞いていたが、親友の佐野洋子さんと二人で似たような時期に子供生んでいるが、彼女の場合は生まれた瞬間母性が出てきたと言っています。

谷川:父と母は仲が良すぎて子供なんか要らないと思っていたんですが、祖父(母の父)が絶対孫が欲しいということで中絶せずに僕が命拾いしたんです。
生まれた途端に母性がでて、12月に生まれたのにあせもを作っていました。
工藤:動いた時には誰かがいるんだと思って、物凄く奇妙に思いました。
その時の詩を書いています。(「逆さに眠る無遠慮な怪物」というタイトル)
生まれた瞬間を楽しみにしていたが、生まれた瞬間にこんなちっちゃな友達ができたと思いました。
盟友(命の友達)という感じでした。
なんで母親にならなかったんだろうと思いました。
子供には丁寧語で喋っていてそれが一番自然でした、だから友達なの。
谷川:僕も似ているところがあります。
子供の教育を問われた時に教育したという意識がない。
初めて抱いた瞬間は絶対命を掛けてもこれを守るぞと、感動がわいたんです。
少し大きくなったら子供というより完全に友達になっちゃいましたね。
しつけるという意識がないから親として失格だったと思うが、言葉で言わなくても子供は行動を見ているからそれでいいんだと思っていました。
母親が叱っていました。

工藤:子供は駄々をこねなかった、駄々こねてもおやつを貰える訳でもないし、自然に自分のペースでやっていました。
命にかかわる事以外は基本的に見守るという感じです。
「あんたのために言っているのよ」と云わないようにした。
年長さんの頃、お小遣いはどうするのかと思っていたが、「お母さん、しつけとおこづかいは発作的にするからね」と子供に言いました。(笑い)
子供からは「発作的ってなに」と言われました。(笑い)
しつけも「こうしなさい」と言ったり言わなかったりするよと言いました。
谷川:子供はよく育っているよ。
工藤:子供は子供で大変だったと思う。誰のせいにもできない。

「さようなら」 谷川さんの詩
ぼくもういかなきゃなんない
すぐいかなきゃなんない
どこへいくのかわからないけど
さくらなみきのしたをとおって
おおどおりをしんごうでわたって
いつもながめてるやまをめじるしに
ひとりでいかなきゃなんない
どうしてなのかしらないけど
おかあさんごめんなさい
おとうさんにやさしくしてあげて
ぼくすききらいいわずになんでもたべる
ほんもいまよりたくさんよむとおもう
よるになったらほしをみる
ひるはいろんなひととはなしをする
そしてきっといちばんすきなものをみつける
みつけたらたいせつにしてしぬまでいきる
だからとおくにいてもさびしくないよ
ぼくもういかなきゃなんない

工藤:詩の中の一行、二行が物凄く心にしみることがあるが「さようなら」という詩の中で 「ぼくもういかなきゃなんない」というのがそうなんです。
「さようなら」というタイトルの詩であるのに「さようなら」という言葉は詩の中には入っていない。
一行一行が少年の色んな思いのつぶやきがそっと並べられている感じがする。
谷川:何の計画も無く書き始めたら出来た詩でこれは最たるものです。
母親が死ぬのが凄く怖くて、自分が死ぬよりも愛する人が死ぬのが怖かった。
母親に対する気持ちが底にあると思います。
この詩には色んな見方がある。
工藤:詩というものは作者のものでもあるけれど、一旦手を離れて文字になってみんなの前に現れたら読者のものだと、谷川さんは繰り返しおっしゃる、それが嬉しい。
谷川:紙の上の活字には詩なんかない、それを受け取ってくれて感動、反応があって初めて詩が立ちあがるという感じです。
時が経ってから感動する詩がある。

*「おまじない」作詩 工藤直子 作曲 新沢としひこ

谷川:魅かれる言葉は無い、言葉は平等。 
メディアで流通している嫌いな言葉はいっぱいある。
工藤:タイトルになった「ふわふわ」とか、花が咲いて近づいてゆく時の「すりすり」とか、「ほろほろ」とか割合好きです。

*「しーん」 作詞 谷川俊太郎 作曲 小室 等