須藤亜佐子(相馬子どもオーケストラ弦楽器指導者 )・共に奏でる復興の調べ
東日本大震災、原発事故と2度の大災害に見舞われた福島県相馬市で震災後演奏活動をしているのが相馬子どもオーケストラです。
子供達の弦楽器の指導に当たっているのが須藤さん62歳です。
須藤さんは南相馬市で教室を開き、子供達にヴァイオリンを教えていましたが、震災で教室が半壊、加えて原発事故で住んでいた地域が避難指示区域と成ったために生徒たちは散り散りになって音楽への情熱が失せる日々が続いていました。
そんな中で震災からの復興に向けて、相馬市で子供オーケストラを結成しようと云う話が持ちあがり、須藤さんが弦楽器の指導をすることをひきうける事になりました。
オーケストラは全て子供が無償で音楽教育を受けられる、エル・システマのシステムで運営されています。
オーケストラを通じて子供達の心の再生をはかろうと言う須藤さんたちの活動はどのようにして繰り広げてきたのか伺いました。
7年間あっという間に過ぎました。
当日、自宅で12,3人個人レッスンをしていました。
ヴァイオリンを始めたのは相馬の小学校で器楽クラブが有りそれがきっかけでした。
宮城県の音大に行きました。
午前中に相馬にはいり音楽教室をまさに始めようとした時に、今まで経験したことのない凄い揺れでした。
その時は大人の生徒でしたが、立ち尽くすだけで建物がつぶれると思いました。
揺れが収まって、チェロ、ヴァイオリンなど外に持ち出しました。
実家に帰ってからTVでみて、津波が10mとかで間違いじゃないのと思いました。
家は海から4km離れていました。
海の近辺の方が気の毒でなりませんでした。
原発事故では息子からメールが有りました。
避難指示が出てそのまま入れなくなりました。
もう終わりだなと言うような感じでした。
実家が相馬なのでそちらに母が一人でいたので、そちらに移りましした。
教室では生徒たちは散り散りになりしばらく連絡がつきませんでした。
ヴァイオリンケースを開けたのは1ヶ月後でした。
音楽をやろうと云う気持ちにはなりませんでした。
その頃は生きるのに精いっぱいでした。
訪問演奏が有りましたがそれさえ聞く気になりませんでした、なんかいやでした。
避難生活が1年ぐらい過ぎて、市役所から電話がありました。
子供オーケストラが出来るらしいと、そうなった場合は手伝ってもらえるか、楽器店から電話が有りました。
光がさして来たような感じでした。
エル・システマ(ヴェネズエラ発祥と言われる)と云うシステムで運営しようと云うものでした。
ドイツからの呼びかけでした。
エル・システマが相馬市と提携したので、運営資金は相馬市と国から60%、応援してくれる企業個人からが40%です。
相馬市教育委員会から校長さんに説明が有り、募集中のプリントを配付、楽器は無償で貸出します、お金はかからない、世界中から指導者が来る、誰でも入れます、と云うことで
70人ぐらいの子供たちが来ました。
二つのグループに分けてグループレッスンを開始しました。
最初、ヴェネズエラから指導者が来てくれて、やり方を教えてもらいました。
先ずはリズムから覚えさせて、弓を動かすところから初めて、「四匹のひつじ」の短いフレーズから弾き始めました。(4本の弦の番号で弾いてゆく)
リズムは体育の授業のように膝を曲げ伸ばしをします。
体を使ったものなので、子供達は楽しく始められました。
楽器を持ち始めてから一グループ15人にしました。
週1回ですが、家に持ち帰るようになり、メキメキ上手くなりまして、クリスマスには記念の演奏会をやる事が出来ました。
アントニオ・ヴィヴァルディの「調和の霊感 第8番」を一楽章やりました。
時間が足りないと云うことで、それまで私の自宅まで来て猛練習しました。
子供達の心の栄養にもなりました。
海外からも演奏に来てくれましたが、音楽って、言葉はいらないんですね。
指導を受けて子供達もどんどん乗って行きました。
ベルリンのほうからドイツに来て演奏してほしいとの連絡がありました。
会場も決まって、ベルリンフィルの方々と合同演奏ができることになりました。
ヴェートーベン 交響曲5番 「運命」を演奏することになりました。
一楽章は人生の悲しを表している。
四楽章になるとそれが喜びに変わって行く。
「運命」が私達の人生そのものかなと思って、その曲を勉強する事によってつかめると思いました。
「運命」の曲は正直1年早いと思いました。
ヴェートーベンの長のスケール(基礎練習)から勉強を始めました。
繰り返し繰り返し練習することによって弾けるようになっていきました。
一楽章通った時は涙が出ました。
管楽器が出来ていなくて高校のブラスバンドにも希望を募って混ざってもらいました。
合同練習の時間が取れなくて大変でした。
オーケストラになるとボリュームが違うので感動しました。
ドイツに行き、向こうのプロの方の指導で一回やるごとにレベルが上がって行きました。
夜だったので小さい子の眠気に心配しましたが、ベルリンフィルの方も加わりみんな見事に演奏しました。
お客さんは総立ちで拍手してくれて感動してくれました。
突っ走ってきたなあと思いますが、このペースで来たからヴェートーベンも弾けるようになったのかなあと思います。
なんとかクリアしてきて、あきらめない心が確実に育ってきていて、普通の生活にも活かせているんじゃなっかと思います。
歩みを止めないでずーっと歩み続けてほしいと云うのが願いです。