新実徳英(作曲家) ・歌い継がれる“つぶて”ソング
東京大学工学部を卒業した後、東京芸術大学に入り直したと云う経歴の作曲家です。
ピアノ曲や管弦楽、合唱曲などの作品が有ります。
NHKの全国学校音楽コンクールの課題曲でも、平成25年の高校の課題曲「ここにいる」を作曲したり、平成19年の小学校の課題曲「手をのばす」などの作曲もしています。
東日本大震災の直後新実さんはかつてから親交のあった福島の詩人和合亮一さんがツイッターで発信していた「詩の礫(つぶて)」の作品に曲を付けました。
悲しみが風化されないようにとつぶてソング12曲を作りました。
つぶてソング、東日本大震災は僕が生まれてから最大の惨事でした。
TVで津波が押し寄せる光景を見て物凄くショックを受けまいた。
大震災に対して何か共有できる歌を作りたいと思いました。
4月に友人が和合亮一さんが「詩の礫(つぶて)」と言うのをツイッターでやっていると云うことを教えてくれました。
「宇宙になる」という混声合唱曲で和合さんの詩で僕が書いているんで旧知の中でした。
ゲラ刷りを(40枚位)送ってもらいました。
是非歌にしたいと云うものがいくつもありました。
歌を作ることにしました。
3曲づつ作りました。
「あなたはどこに」と言うのが最初でした。
1ヶ月ちょっとで12曲を作りました。
*「あなたはどこに」(つぶてソング1) 作詩 和合亮一 作曲・編曲 新実徳英
あなたはどこに居ますか。
あなたの心は風に吹かれていますか。
あなたの心は壊れていませんか。
あなたの心は行き場を失ってはいませんか。
命を賭けるということ。
私たちの故郷に、
命を賭けるということ。
あなたの命も私の命も。
決して奪われるためにあるのではないということ。
人の事を思いやる心は凄く大事だと思います。
和合さんは自分の言葉に翼が付いて飛んでゆくようだと言っていました。
「詩の礫(つぶて)」と云うタイトルです。
僕は「つぶてソング」と名付けました。
2005年位に和合さんの詩の本を手に取っていました。
福島から作曲の依頼が来て作詞担当が和合亮一さんでした。
2009年に混声四部合唱曲を書いています。
その後大震災が起こって、「詩の礫(つぶて)」を知って和合さんに電話して、そして作曲に入って行きました。
7月3,4,5日あたりに、古河に知人がいて、石巻、気仙沼などに連れて行ってもらいました。
福島音楽堂でつぶてソングを歌いました。
放射能と言う歌もあり、福島音楽堂にも降っていて、この歌は歌えませんでした。
屋外から戻ったら髪と手と顔を洗いなさいと教えられたが、わたしたちにはそれを洗う水が無いのです、ということです。
メディアはニュースを求める、オールドを求めて居ない。
豊かな自然の中で暮らしていた方々が、そこから離れて劣悪な環境で暮らさなければいけないと云うことは本当につらいと思います。
つぶてソングとかを介して心がつながってくれれば本当にうれしいと思います。
作ったときは独唱版で2011年の年末に合唱版を作って皆に歌ってもらおうと思いました。
女声合唱、混成合唱、男声合唱の3つのバージョンを作りました。
忘れられないように、歌い継がれてゆくと云うことは意味があると思います。
東海大地震が起こらない保証は無いので明日は我が身と思わなければいけないと思っています。
合唱では心を一つにして歌うので熱い共感と言うものはあると思います。
その後和合さんの詩で「決意」(男声合唱曲)とか、「ふと口ずさむ」(女声合唱曲)
「黙礼する」(「黙礼」と云う詩集から)第一番、第二番 50分を越える曲です。
重い体験を共有する時に合唱という表現手段はとてもいいんじゃないかと思います。
「阿修羅」弦楽四重奏第二番 大震災の映像を見、怒りながら書いた曲です。
金管五重奏 「神はどこに」、「荒ぶる神・鎮める神」弦楽合奏と打楽器と尺八とソプラノが入っている。
音楽の役割は人間が一番辛いところへ向かって、何かを荷なって行く役割があるのではないかと感じていました。
震災後どうやって生きていくのか、どうやって作曲してゆくのか、自分の心の中に重いものがぶら下がっているような感じがしていて、重しをどうかしたいと思ったが、「つぶてソング」を作って心の重しは取れたかと言われると、一向に取れません。
いつもそのことを思うしかないと思います。
忘れないために震災後作曲した作品に通し番号AE(After The Earthquake )を付けています。
番号が72番になります。
ニューヨークで行われるピアノクインテッド 「魂の形」(ピアノ五重奏曲)、震災、理不尽な死を迎えざるを得なかった魂を思いながら書きました。
杜若(かきつばた)謡曲(在原業平にちなんだ話)を女声合唱にして欲しいという話が有り、
和合さんにおねがいしました。
他にも和合さんにお願いしています。(『筒井筒』ほか)
*「重なり合う手と手」(つぶてソング12)作詩 和合亮一 作曲・編曲 新実徳英
重なり合う手と手
重なり合う葉と葉
風にふかれている
木とわたしとあなた
ふるさとはあなたにとって
どんなものですか
もしもまよっているのなら
こうこたえるとよい
ふるさとは夕暮れ