石津ちひろ(絵本作家・詩人) ・〔人生のみちしるべ〕 ことばの魔術で人生を楽しく
昭和28年愛媛県生まれ、早稲田大学文学部仏文科卒業、3年間のフランス滞在を経て帰国後、独自の言葉の世界で翻訳、絵本、詩の本を手掛けてきて来ました。 軽やかで楽しい言葉を生み出し言葉の魔術師と言われる人気作家です。 絵本「なぞなぞの旅」でボリョーニャ児童図書展絵本賞、『あしたうちにねこがくるの』で日本絵本賞、初めての詩集『あしたのあたしはあたらしいあたし』で三越左千夫少年詩賞を受賞。 2019年には石津さんの言葉の全体が評価されて、やなせたかし文化賞を受賞しました。 石津ちひろさんの言葉の世界はどのようにはぐくまれて来たのか、楽しく軽やかな言葉に込める思いについて伺います。
早起きでラジオ深夜便の最後のコーナーを行くことが多くて、アイディアをそこから思いつくこともあります。 落語などを聞いたりして、寝る時もラジオを聞きながら寝ます。 ラジオから一日中言葉に触れているという感じです。 最初に出した本が1989年の「まさかさかさま動物回文集」という絵は長 新太さんです。 回文は上から読んでも下から読んでも同じ言葉です。 この絵本は60個以上の回文で出来ています。 編集者の方には感謝しています。 回文は130個ぐらい作りました。
「ぞうくんぱんくうぞ」、「きりんねていてねんりき」、「ちんぱんじいからかいじんぱんち」など、意味があるようなないような。 回文、なぞなぞ、早口言葉など、ストーリーだけではなくて、言葉そのもので楽しく軽やかに表現しするという、プラスの楽しさが沢山入っています。 2022年12月に出版した「ねことワルツを」という絵本があります。 絵はピアニストのフジ子・ヘミングさんです。 12年かかってやっと完成した本です。 週2回以上コンサートをしている方で、世界中を飛び回っているので、なかなか描く暇がない。 コロナ過では描けるかもしれないという事で絵が次々にできてきました。 絵とマッチングしないように感じたので、ほとんど書き直しました。 15編の詩が入っています。
「ねことワルツを」の絵は少女がお父さんと一緒に踊っているシーンで、横にはレコードプレーヤーがあって、猫たちもいるというものです。 お父さんとは離れて暮らすことになって最後に踊る、本当にこういうシーンがあったらしいです。 それを絵に描いたものです。
愛媛県で生まれて、高校まで地元で暮らしました。 本が自分の砦みたいなところはありました。 言葉の影響は父親かも知れません。 なんか言っては、周りを笑わせようとしていました。 子守歌も作ってくれたりしました。 中学2年生の時に一ケ月間入院していました。(腎臓) 叔母が新川和江さんの「世界の詩のアンソロジー」(タイトルは定かでない)を貰って、その詩集に浸っていました。 そういう時期が持てたことは良かったと思います。 中学3年生の時に学校新聞に俳句と短歌のコーナーがあって、両方掲載されました。 俳句では「息のつぶわが掌で水となる」 「水となり」と作ったが先生が「水となる」に直してくれました。 「水となり」では水がこぼれてゆく感じですが、「水となる」では水がちゃんと掌に収まっている感じで、一文字で印象が変わることが心に染みました。
大学で仏文科を出て、フランス語をもっと勉強したいと思ってフランスに行きました。 行って価値観の違いを経験し、世界が広がりました。 その経験があるから動じなくなりました。 「まさかさかさま動物回文集」を出して、「なぞなぞの旅」1998年、『あしたうちにねこがくるの』で日本絵本賞を受賞。 詩は自分で書いてみたいという気持ちはありませんでした。 編集者の方から今度詩集を出しませんかと言われて、書き始めました。 『あしたのあたしはあたらしいあたし』を出版し、三越左千夫少年詩賞を受賞する事になりました。 2007年に「ラヴソング」2014年に「ほんとうのじぶん」を出版。
「シリウス」が高校の教科書に載りました。 *「誰もいない原っぱで風に吹かれていると 心も体も風の中に消えていって 私はいつしか何ものでもなくなる。 するとあなたへの思いのたけだけが まるで冬の夜空で輝くようなシリウスの様に際立って来る」
「言葉を大切にすることは、人生を大切にすること。」 あるクラスではいじめなどがあったが、『あしたのあたしはあたらしいあたし』の詩を掲示して、毎日朗読をしているうちに、いじめとかなくなり、良いクラスになったという事をその先生から伺ったことがあります。 言葉を大切にすることは、自分のことも友達のことも大切にすることになるんですね、と言っていただきました。
詩「あした」
*「明日の私は新しい私 私らしい私 私の明日は新しい明日 私らしい明日」 言葉にはもしかしたら計り知れない力があるのかもしれない。 「言霊」
東日本大震災の後にいきましたが、言葉遊びを純粋に楽しんでくれました。 詩の言葉を真っすぐ受け止めてくれました。 「あした」の言葉が身体に浸み込んでいったんだと思います。
去年出した「ねこのこね」という詩の絵本を93歳になる母が読んでくれて、その後、外には出なかったが、手押し車を押して外に出歩くようになり、食事も行ってくれるようになりました。 声を出して読むことは、人の心を解き放つ力があるのかもしれないです。 私は言葉の種まきをしていると思いますが、芽を出し花を咲かせるのは皆さん次第です、と願っています。
*印は漢字、ひらがな等が違っている可能性があります。