2020年10月13日火曜日

田所美惠子(針穴写真家)        ・針穴から撮る人生

 田所美惠子(針穴写真家)        ・針穴から撮る人生

針穴写真はレンズの力を借りずにごく小さな穴から光を取り込んで画像として定着させる写真のことでピンホール写真とも呼ばれています。 田所さんは30年前滞在先のフランスで針穴写真に出会いその独特な作品世界に魅了されたと言います。  以来小さな空き缶などで作った自作の針穴カメラで多くの作品を生み出してきました。  帰国後の2005年には日本針穴写真協会を設立、現在は会長を務めています。  針穴写真との出会いやその魅力について伺います。

エッフェル塔の写真、手前の柵の鉄条網も細かいところまで映っていて奥のエッフェル塔も下から上まで見事に映っている。  地面に置いて撮っています。 手前から遠くまでピントが合っていて、これが針穴写真の最大の特徴です。

白菜の写真、30分間針穴を開けっ放しで撮っているが、ライトは近づけないようにして撮っています。  実物では気付かないようなものが針穴を通すと、艶めかしいような不思議な艶を出してくれます。

レンズがない小さな穴で撮る写真で、針穴の場合は全体的にふんわりしているが、シャープではないが一応映ります。  手前から奥まで同じピントですが、写真を撮るのに時間がかかり、何分とか何十分とか時間がかかります。

今手許にある針穴写真のボディーは10cm四方の正方形で高さが4,5cmぐらいでクッキーの入れ物のようなもので缶です。  いろんな形のものがあります。  0.3mmの穴が開いています。(小型ドリルで仕上げます。)  内側は全部黒ペンキで塗っています。

穴の対面に印画紙とかフィルムをセットして、光がもれないように蓋をします。

一個で一枚しか撮れないので20個ぐらい用意してセットしてそれを持ってゆきます。

以前からモノクロ写真が好きでして、夫の仕事の関係でフランスに行っているときに、一台カメラをいただいてパリで写真を撮っていたら針穴写真に出会いました。

1989年にフランスに行ったときに、写真の誕生の年が1839年で150周年記念という事でフランスの展覧会をやっていて、面白い写真集がありそれが針穴写真でした。 ニエプス美術館を見学する機会があり、見終わって出口に今年の夏季講習は針穴写真と書いてありましたので、その場で申し込んで2か月後に5日間の講習を受けました。

一日目はごみの焼却場に行って缶を選んできて、穴のあけ方もやりました。  カメラは何でもいいんだという事がこの時に判りました。

講習が終わって、試しに取ってみましたが、なかなかうまく撮れませんでしたが、面白いものが撮れるということが判りました。

ファインダーがないので構図は頭で考えます。  穴をあける位置も重要ですから、私は5つ穴をあけて、4つは塞いで、いろいろ試したりします。

或る時日刊紙の写真部長から電話があり針穴写真を撮っているという事で興味をもってくれて、特派員としていってほしいと言われて、普段は入れない建物に入ることができました。

他の人達は一般のカメラでしたが、私は20分程度かかるので怪訝に思われましたが、裁判所の建物を撮りました。

カメラを作るところから最後プリントする事が自分ですべてできる事は、自分が表現したいというところに向かって物を作っていけると思うので魅力を感じます。  一枚撮るのにも思い入れがあり記録ではなく記憶として私の中にあります。

凱旋門の写真を20枚撮りたいと思って出かけましたが、シャンゼリゼ辺りを撮っていましたが、最後に何か撮りたいと思っていたら、たまたま雨の後で大きな水たまりがあり、そこに凱旋門が映っていてそれを撮りたいと思って撮りましたが、それが一番よかったです。

針穴写真を介して写真仲間が広がっていき技法などの情報交換もしました。

帰国して2005年に針穴写真協会を立ち上げ、現在は100名ぐらいでやっていますが、始めた当初15年前には500人ぐらいいました。

車とか、人が通り過ぎる分には何も記録はされません。

針穴写真と出会って、針穴写真というものを自分のものにできたかなという達成感があります。  小さいころから根気があるといわれていて、針穴写真と出会う前は編み物が好きで四六時中編んでいました。  針穴写真とは性格上向いていたと思います。

針穴写真でしか撮れないものを撮りたいという事と、古い印画紙(100年前のものから1960年代のものもあるので)を現代を焼いてみたらどうかと思っていて、それをやってみたいです。