2019年4月4日木曜日

津野海太郎(エッセイスト)        ・我が人生は"読書"とともに(2)

津野海太郎(エッセイスト)        ・我が人生は"読書"とともに(2)
老いと読書について。
老人になると何かの為に読むと言う事は無くなってくる。
より自由になってくる。
知ることは楽しい。
「ドンキホーテと老人」、もうすぐ亡くなってしまう方が、スペイン語を勉強したいたいと言う事で原書を持って言ったら、枕元にはスペイン語講座のテキストがあった。
でも直ぐ亡くなってしまう。
読んでいる自分、読もうとする自分で良いんですよね。
読書は通過点、目的が無くても通過して行く、その楽しみがある。
70歳代になると老人でしかないと理解する。
僕の場合は大きく変わりました。
本を読む能力が失われている、目が悪くなり、物忘れの度合いも進んで来る。
一つの本をずーっと読み続けることが難しくなる。
或る程度読むと眠くなる、そうすると違う本を読んだりするが、なおさら忘れてしまう。
本に線を引きます、ここでこの人が初めて出てきたところだとか、話の筋がきりかわるとか、短期記憶用の印で、戻ってきたら大体の事がつかめるように本に細工しておきます。

以前は額に山登り用の照明をつけて、夜歩きながら読んでいた時もありました。
人を驚かすのでやめました。
老いの読書の最初の発見は、座って読むと難解だった本とか肌に合わない本だとかも読めて、その発見ですね。
老いは進行するので段々読み続けることが苦しくなります。
結局ベッドに入って本を読む訳ですが、眠くなって眠ってしまう訳で、夢で本の続きが出てきたりするわけです。
書く仕事があるのでそのために読むと言う事もあります。
書店に行って5,6冊買っていたのが、今は買わない方が多いですね。
行くところは近所の図書館にいって借りてくることが多いですね。
住んでいるさいたま市の蔵書の全てがパソコンで検索できるので大体の事はそれで済みます。
新しい直木賞をとった本などは2000人位予約が入っていて借りられないが県立図書館では硬い本が多いので借りれられる時もあります。

図書館が本を買う内容は、このしばらくの間で経済のグローバル化が進むと同時に、売れる本がいい本だと言う事でそういう本が増えて来ました。
堅い本は物凄く数が減りました、すごい勢いで変わってきました。
公立図書館も図書館員の採用が無くなってきて派遣員で構成されるようになってきて、ちょっと辛いところもあります。
読むべき本がそこにはないと言う事もあります。
他の図書館から取り寄せるとが出来るようになった点は良いと思います。
新しい本と昔読んだ古い本を読むのが半々ぐらいだと思います。
昔わくわくして読んだ本もエ―ッこんなのがと言うふうに思う事があります。
又別の見方もしたりするので昔の本も面白いです。
それぞれの年代のそれぞれ過去があるが、80歳になると様々な経験をしているので、本から色んな事を思い出して、本と関係ないことも思いだして、膨大な過去を老人になると抱えながら一冊の本を読むことになるで若いころとは読み方が違ってくる。

一冊の本を読むと関連した本も読みたくなります。
蔵書の整理は自分自身で悩んではいます。
減らしてきて今は4000から5000冊位かと思いますが、1000冊位にはしたいとは思いますが。
残すと家族の負担にはなるし、60歳代に決断して、いるものを最小限にして一気に整理してしまう、その間にやってしまわないと体力が無くなってくるので整理ができなくなるのではないかと思います。
本を読まない人達が増えてきて、危機だと思います。
美智子皇后に「橋を掛ける」という本があり、最期に書かれているところがあるが
「そして最後にもう一つ、本への感謝をこめて付け加えます。
読書は人生のすべてが決して単純ではないことを教えてくれました。
人と人との関係においても、国と国との関係においても」と書かれている。
そういう事なんだと思います。
複雑な関係、環境の中で生き抜いてゆくためには、それを支えるものが必要で、一番役に立つのは皇后にとっては本だったと書いていらっしゃいますが、あれがつまり本の役割だと思うし、紙の本の形が一番提供できると思うし、しっかりそれと付き合わなくてはいけない。
本と著者と自分とが一対一できちっと付き合う仕方をして、複雑な環境の上で頑張って生きている仕方、方法とかを書いている、それを読者として読むと言うようなその関係の中で整理してくる読書がどういう素晴らしいことかという事を書いていらっしゃるが。
世の中の複雑さを複雑さとして感じるためには、単純ではないと言うふうな世の中だと感じて、それに耐えると言う気持ちがあれば本は読まれるだろう。
そういう気持ちが大多数の人が消えてしまったら、もっともっと単純に割り切れるようになってしまったら本は続かないでしょう、電子であれ、紙であれ。