山﨑晃司(東京農業大学教授) ・クマをもっと知りたい
58歳、鹿の研究からスタートし、たまたま参加したツキノワグマの生態調査をきっかけに熊の研究に情熱を傾けるようになったそうです。
調査地域は国内にとどまらず、韓国、ロシア沿海州など国外にも広がっています。
山崎さんが熊との出会いがもたらしたもの等について伺います。
大学で鹿の研究をしていて、平成に変わるころアフリカに行ってライオンの研究をするチャンスがありました。
ライオンは一頭一頭全然違う。
日本に帰って来て見て、数が少なくて生態系のピラミッドに立つ動物をやってみたいと思いました。
熊は人くさくて一頭一頭違っていて、日によっても気分が変化したりするような、観ていて飽きない動物です。
日本では農作物被害、人身被害に遭ったりしているので、性格を知ると言う事は求められているんで必要だと思います。
子供の頃千葉県に住んでいましたので、田んぼ、畑、雑木林などがあり虫を取ったり魚を取ったりしていました。
ファーブル、シートンなどの本をむさぼるよう読む様になりました。
中学、高校はテントを持って山歩きをしました。
熊が季節によって年によって食べるものの量が変わりますが、そういうものにどういうふうにしようとしているか、熊を捕獲して人工衛星で追えるような装置を付けたり、心拍計を付けて生理状態をモニタリングしたりとかします。
小指の先ぐらいの小さな装置です。
食べ物が無い年は20、30km移動して木の実がなっている林を見付けたりします。
母親が子供に伝えたり、学習があるのではないかと考えていますが、どうしてそうすることができるのか判らない所があります。
熊は秋に体重を1.5倍位に増やします。
冬眠して、メスは子供を産んで授乳する。
体脂肪を翌年の春、夏も使います。
歳を取って来るに従って、行動に変化が出てきます。
熊は20年ぐらいが寿命で、15,6歳になると皮膚がたるんできたり、筋肉が無くなってきて毛が抜けたりしてきます。
そうなると楽な生活がしたくなり、山の木の実を摂るのではなくて、人里にきて楽に手に入る食べ物を見付けようとします。
最期は人に捕まえられて殺されてしまったりします。
世界に分布している熊は8種類です。
パンダ、ホッキョクグマ、ヒグマ、アメリカクロクマ、ツキノワグマ(アジアクロクマ)
ナマケグマ(夜行性)、マレーグマ、メガネグマ(目の周りに白斑がある アンデスグマ)
日本のツキノワグマはアジアクロクマの亜種になります。
ツキノワグマは1940年代に九州では絶滅しました。
2000万年ぐらい前に熊の祖先が生まれて、果実を食べるグループが出てきてそれがクマになります。
本州、四国にはツキノワグマ、北海道には他にヒグマがいます。
歴史を遡って熊の暮らしを探るのは簡単ではありません。
日本にツキノワグマが入ってくるのは50万年前と言われています。
人間が日本に入ってきたのは5~3万年前と言われている。
中世、近世位から人間は木を使うようになって、200年以上前位には相当山に木が減った時代があります。
熊たちは山の奥とか森とかにいって生活を閉じたのではないかと思います。
1970年代位から人間が山を使わなくなった、(薪、炭、建材)
山、森が回復してきて、動物にとって済みやすい環境が再び作られてきた様です。
50年先には人口が8,9000万になると言われているので、今後さらにこの傾向は加速すると思います。
早めに人の住む場所、動物がすむ場所を考えるとか、動物に譲らなければいけない場所が今後あるかもしれない。
線引きをきちんとする必要があるかもしれない。
初めて熊に遭遇したのは八幡平で目の前ですっくと立ち上がりました。
その後逃げて行きました。
その時は50m位の距離はありました。
普通は人を見ると逃げて行きます。
あらかじめ熊に遭わないようにすることは必要です。
見通しの悪いところでは声を出したり手を叩いたり、鈴を付けたりすると言う事もあります。
人に会うと熊も吃驚します、逃げるべきか、排除するか考えます。
その時に騒ぐと攻撃を誘発してしまう可能性もあります。
熊の方を向いたまま静かに後ろに去って行って、徐々に距離を離してゆく事がいいと思います。(これだと言う方法はなかなかありません)
大分昔ですが、秋に調査で山に入っていった時に、気配を感じて横を見たら、尾根に物凄く大きい熊がいました。
明け方だったので斜めの陽の光に輝いてこちらじーっと見つめていました。
漆黒の熊ですが、朝日にキラキラ輝いていて、その姿が私が描いている熊の姿でした。
美しかったです。
調査をするために熊を追って行くので、怖い思いをした事は何度もあります。
日本のツキノワグマは寒いから冬眠するのではなく、食べ物が無いから冬眠するんです。
冬眠しているところを見に行ったら目が覚めて、逃げたが1,2m位の距離になってしまいました。
同行の一人がクマよけのスプレーをかけて、熊は斜面を転げ落ちたが、近距離だったので私にもかかってしまって2時間位目が開けられなかったです。
熊の生きざまを知りたいと言う根本的なものがあります。
熊に接する研究時間は少ないので論文を書くにも大変です。
一緒に研究する人達は一風変わっていて面白くて、そういう人達と交流することもたのしいです。
国際熊学会が2年に一度ありますが、300人位が集まります。
熊の無い毎日はありえないと思っています。
東京の奥多摩にも熊がいます。
猟師に熊の事を聞きましたが、その方と会わなかったらスムースに奥多摩の熊の調査はスタートできなかったと思います。
山に住む方の動物観、動物への接し方を学ぶ事が出来たのはとても良かったと思います。
熊を研究するようになってやりたいことがどんどん増えているし、付き合っている人も増えています。
大学に籍を置いているのでなかなか熊を研究することができないので、将来時間が出来れば熊について歩くようなゆったりした研究ができればいいなあと思います。