宮坂力(桐蔭横浜大学 医用工学部特任教授)・次世代太陽電池でエネルギーの自給を
宮坂さんは69歳、日本初の技術として世界へ実用化に向けて開発競争が続く画期的なペロブスカイト太陽電池の研究・開発を牽引してきました。 民間企業出身の異色の研究者宮坂さんにペロブスカイト太陽電池とその遅咲きの研究者人生について伺います。
従来のシリコン型と比べると革命的ともいわれるペロブスカイト太陽電池。 非常に薄くて、軽い、プラスチック基板にも作れるので曲げられる。 曇った日、雨の日、屋内の照明の元でも発電できる。 作った一番薄いもので26ミクロンです。 コストは1平方メートルで200~300円です。 電極基板はちょっと高い。(透明導電膜を付けなければいけない) シリコン型に比べると工場の生産にかかる費用、設備とか人件費を入れてもおそらく半額以下になると思います。 海外でも日本でも生産に向けた技術の開発が始まっていますし、海外では一部ビーツービー(個人へではなく会社に対して売っている)で売っているところもあります。 海外勢の方がちょっと先行しています。
2023年に開業するJR西日本の梅北駅で使われることになっています。 屋根とか、窓、駅の壁などに貼るかもしれません。 ペロブスカイトは鉱石の名前で、金属の酸化物で何千度という温度で出来たと思われますが、これは発電能力はなくてペロブスカイトは酸素をハロゲンというものに置き換えたもの、そうすると発電機能が出てきます。 これは人工的に作ります。 ハロゲン化物は研究としては発光素子に使われていて、光を与えると電気が出ますが、逆に電気を入れると光るんです。 鉱石の酸化物は強誘電材料と言って蓄電するコンデンサーの材料にも使われているし、インクジェットプリンターのインクジェットを吐出するヘッドも金属酸化物のペロブスカイトが使われています。 病院の超音波診断の超音波を発生する素子にもペロブスカイトが使われています。
私が指導していた学生さんが持ち込んできたものなんです。 2004年にベンチャー企業を立ち上げて、教員がスタッフだったんですが、一般公募したら大学の若い先生が入って来ました。 その先生は光るペロブスカイトの国のプロジェクトにかかわっていました。 その先生のもとで大学院の小島陽広さんが光らせるだけではなくて、発電が出来ないかという事を考えました。 当時私たちは色素増感太陽電池、色素を吸収して発電する太陽電池を作っていました。 彼が太陽光発電に使えないかと、ペロブスカイトを持ってきました。 わずかに光応答が出てきて、それがきっかけになりました。 性能効率も低く不安定でした。 講演、学会で話をしましたが、ほとんど注目されませんでした。
小島君が博士課程に行って、博士論文を書いてアメリカの化学雑誌に論文が出ましたが、世の中はまだ動きませんでした。 これを見た英国の研究者(うちの研究室から送った研究者)が個体の材料を使ってペロブスカイトに応用して見ようという事で、研究していて、部下を日本に送って来ました。 3か月実験を重ねていたが成果が上がらなかったが、オックスフォード大学に持ち帰って1年ぐらい実験を重ねているうちに性能が上がって、エネルギーの変換効率が10%を越えました。 太陽光のエネルギーは1平方メートルで1000Wです。 100Wですから、そうしたら世界が注目しました。 世界の研究者が追試をして性能が上がって行った。 25%を超える性能になってしまった。(現在の結晶シリコンのチャンピオンデータに近い。) ペロブスカイト太陽電池の論文が4万件近く出ています。 推定3万人の研究者がやっていると思います。 世界に散らばっている中国の研究者が一番多いです。
小学校時代はよく遊んでしました。 プラモデル作りが大好きでした。 早稲田大学理工学部応用化学科に進学しました。 植物の光合成に近い、空気中の炭酸ガスを使ったプラスチックの合成をやっていましたが、光のパワーを形にしてみたいと思いました。 東京大学で光電気化学というところで光と電気と化学の領界を扱うところにいこうとおもって受験をして受かりました。 合成化学博士課程に進み、天然の葉緑素を薄い膜にして、これに光を当てて電流を取り出すという事をやっていました。 1978年のネーチャーに掲載されました。(人工光合成) 日立製作所から人工光合成のチームを作りたいという話があり、本当に出来るのかどうか疑問があり最終的に断りました。
大先輩が富士写真フイルムにいて、同社に就職する事になりました。 人工網膜、目のなかに入っている光に感じるものをバクテリアが作ります。 紫色の色素を取り出して光を当てると反応します。 紫膜と言いますが、これを超薄膜にして電極にコーティングして光を当てる。 これはバクテリオロドプキシンと言いますが、タンパク質なんです。 タンパク質は電力変換が出来ないことは分かっていた。 でも光を当てたらぴくっと応答した。 この応答は動物の目から光を感じて脳にシグナルを送る信号に似ていた。 光が当たった瞬間だけ脳に反応が行くという事で、動物は動いているものに非常に敏感です。 人間にも同じ機能があることが分かった。
それをセンサーにして人工網膜素子を作りました。 注目されたが、会社としては稼がなければいけないので、これでいくら稼げるのかと言われ苦しかったです。 リチウム二次電池開発を始めましたが、工場を作ったり、人を集めたりしましたが、中途で止まってしまいました。 色素増感太陽電池をやり始めました。大学でやっていた研究に一番近いものでした。 売り上げが100億円以上ないと事業化はスタートを切れない。 なかなか事業化するようなものがなくて20年いた会社を出ることになりました。
もう一度大学に戻ることを考えて、2001年に桐蔭横浜大学に移りました。 一つのことに7,8年ぐらい深めていきたいという希望はありますが、企業の研究は学術基礎研究には合わないと思いました。 自由度も増えます。 2004年に横浜市の中田宏市長(当時)のベンチャー企業創業政策推進に呼応する形で太陽電池研究のためにペクセル・テクノロジーズを設立しました。
大学では学生さんたちとの交流の機会をいろいろ行いました。 学生さんによる国内、海外の学会での発表も推進しました。 実験の遣り甲斐を経験してほしいと思いました。ヴァイオリンが趣味で40年以上やっています。 年に2回舞台で一人でやることもあります。 毎日最低30分は練習をします。 ヴァイオリンそのものの楽器の研究もしています。 作り方、音響効果、楽器の形の関係とかを調べています。 英国のヴァイオリンの専門誌に論文を出しました。 (創刊 1890年) 3回投稿しました。
ペロブスカイト太陽電池の材料は全部国内で調達出来るものなんです。 シリコンは全部輸入していますので、大きな国際問題が起きた時には輸入が止まってしまう事も考えられる。 鉛,ヨウ素は国内調達が出来る。 中小企業のような小さなところでも小さな設備で作ることができる。 ぜひ日本でも何とか始めたい。 作る工程はノウハウがいっぱい詰まった化学なので、作ったものを見せても中が判らないというような技術なので、日本は強みを発揮できると思います。
耐久性についてはシュミレーションでは15年となっていますが、実装していないのでまだわかりません。 常に向上しているのでクリアすると思います。 凄く微量ですが、環境に良くない鉛が入っています。 太陽電池を安全に回収してゆくインフラを整えないといけない。 日本のエネルギー自給率は12%程度ですが、ある電機メーカーの試算では、発電効率が15%のペロブスカイト太陽電池を東京都23区内の建物に設置すると、原子力発電所2基分ぐらいのエネルギーを獲得できる、と言われている。 23区の家庭が年間消費する電力量の2/3に相当すると言われている。 全国に展開すればエネルギー自給率は5割以上にはいくと思っています。 夢としては8割台に持っていきたい。