穂村弘(歌人) ・【ほむほむのふむふむ】
ゲストは歌人 山田航さん。 北海道出身、在住。 2012年「世界中が夕焼け」という本を一緒に出しています。 1983年生まれ、立命館大学を卒業、北海学園大学大学院を終了。 2008年同人誌「かばん」に入会、2009年「夏の曲馬団」で第55回角川短歌賞、「樹木を詠むという思想」で第27回現代短歌評論賞を受賞。 2012年に刊行した第1歌集『さよならバグ・チルドレン』で第27回北海道新聞短歌賞、第57回現代歌人協会賞を受賞、翌年、第4回早稲田大学坪内逍遙大賞奨励賞を受賞。 2015年には現代短歌のアンソロジー「桜前線開花宣言」2016年第2歌集「水に沈む羊」と「ことばおてだまジャグリング エッセイ」などを出版しました。
穂村:インターネットで自分のことを検索していて、僕の短歌を「百首鑑賞」と名打って読んでくれている人がいる。 僕の知らない人がいたりして凄いなと思いました。
山田:2000年代の半ばぐらいに短歌を作り始めたんですが、その前に読者専門だった時期があり、現代短歌は面白いと思ってインターネットで検索して読んでいたら、「今週の短歌」が終わってしまって替わりに自分が書けないかと思って始めたのが「現代・・・」(聞き取れず)ですね。 毎週一人を取り上げることをしないと、読まなくなってしまうような気がしました。 最初は寺山修司がきっかけでしたが、決定的にはまったきっかけは「世界音痴」(穂村氏38歳ごろの出版)を読んだ時でした。
穂村:公開対談をした時に、会場の人が「お二人が短歌と出会わなかったら、どうしていたと思いますか」という質問があり、僕が一瞬考え込んだら山田君が即答して、「自殺していました。」と言って衝撃を受けて、一人で毎週図書館に通って何百人の歌人の歌を分析して書くというように孤独な営為みたいなものが、自分のイメージに結びついた。 その後とんとん拍子でたくさんの賞を取って、人生が短歌で逆転した例がここにあるなと思いました。
山田:会社に入って首同然で1年で辞める事になり、地元の札幌に帰ってきて、自分に何か目標を課さないと死んでしまうのではないかと自分でそう思っちゃいました。 札幌中央図書館の短歌を「あ」から順番に読んでいきました。 自分と近い世代の人を読むようにしようと思いました。
穂村:「たぶん親の収入超せない僕たちがペットボトルを補充してゆく」が山田君の第一歌集の『さよならバグ・チルドレン』の中に入ってますが、青春を詠う時、ちょっと甘くて傷があるけれども、それすらも素敵みたいな、青春というとこういう感じというイメージがあるが、こんな身もふたもない青春ってあるのかという、文体も素っ気ない。 異議申し立てもしている世代の特徴だと思います。
山田:第一歌集「シンジケート」に入っている「ワイパーをグニュグニュに折り曲げたればグニュグニュのまま動くワイパー」 歌集全体のなかで異彩を放っている。 グニュグニュという擬態語の言葉。
穂村:「僕らには未だ見えざる五つ目の季節が窓の向こうに揺れる」 素敵な青春の歌で教室をイメージ、外には四季のほかにもう一つあるような気がするという、その五つ目が未来が何時か自分の目の前に現れる、それが遠くで揺れている感じがしている。
山田:組み合わせの母音が面白いなと思って先に決めたりします。 「オール5の転校生がやってきて弁当がサンドイッチって噂」 『水中翼船炎上中』 昭和のSF的ドラマに出てきそうな漫画的キャラクターとしての転校生。 異質的存在への驚きの歌。
穂村:山田君の世代がギリギリ判る世代かと思います。 サンドイッチはもうごく当たり前だし。 第2歌集「水に沈む羊」から2首選びます。
*「母に手を引かれ歩いた記憶あり地元に多いお店テナント」 我々の時代ではあり得ない時代の或る場所で育った人の歌。 或る都市が寂しくなって行くそんな時代の歌ですね。
*「電灯を付けよう参加することがきっと夜景の意義なんだから」 ボロボロに生きてゆくが、希望をぎりぎりの生きる意志みたいなものを表明した歌の様です。
山田:当たり前に思っていたものがどんどんなくなって行っているというのが自分としても 不思議なところだった。 小学校2年の時に引っ越してきた時に最寄り駅の名前がアイヌ語地名に由来した名前だったが、ある日突然変わってしまって、歴史の残り香が消えてしまうような感じで寂しかった。 寂しい街だと思ってずーと育ってきた。
第二歌集 『ドライ ドライ アイス』に入っている歌。 「隕石!」 めちゃくちゃ面白いと思いました。 短歌として詠んでいいのか?
穂村:隕石!と大きな文字で書かれている。
山田:第三歌集を出したいですね。
穂村:歌集を出したいところです。
リスナーの作品
*「カセットをかけてみるのはカセットが遠い昔の宝石だから」 白井義彦
*「つわの花あまたさきたり日の暮れにそこのみぼーっと明るみており」 あやめ
*印はかな文字、漢字などが違ってる可能性があります。