佐藤香(現代美術家) ・【私のアート交遊録】故郷への思いを土に込めて
1987年福島県田村市出身、東京芸術大学大学院壁画専攻終了制作展で発表した実家の土で描いた「私の故郷福島」をきっかけに、故郷福島や滞在したところの土で絵を描いています。 実家が原発からおよそ40kmのところにあるという佐藤さんの作品「私の故郷 福島」は和紙に実家の周辺で採取したおよそ9種類の土で、土本来の色だけで表現しています。 佐藤さんは汚染された土を使う事は鑑賞する人を怖がらせたり、原発問題に物申したいわけではなく、ただ故郷自慢のようなもの、私の故郷は視覚的には美しいままだという事を絵で表現したいと考えていると話します。 東日本大震災から10年、美術家佐藤さんの故郷やアートにこめる思いを伺いました。
その土地を勉強しながら制作することをポリシーに、主に土などを素材に描く活動をしています。 土は皆さんが想像する以上にいろんな色があります。 表現で重要なのは土の豊かさだけではなくて、その土そのものの存在を実現させて、見てくださる人がその土地のことを知ってもらうきっかけになるということが大事です。 最初に土で描いたのが大学院の卒業制作展のために描きました。 コンセプトは私の故郷は眼に見えない汚染にあっても変わらずに美しいままだという事で、どう感じるんだろうという事を知りたかった。 怖いと言うよりも土の美しさ、色の多様性に驚いているのが印象的でした。
フレスコ画を東北芸術工科大学で学んでいて、それを本格的に勉強したくて大学院では東京芸術大学の壁画専攻を選びました。 生きているような感じで、乾いてしまうと描けなくなって、自然現象を感じながら描くのが面白いと思いました。 ラスコーの有名な壁画がありますが、芸大の日比野克彦さんがみて、もうここから人類の美術は進歩していないのではないかとおしゃっていましたが、私もそう思います。
小さいころから絵が好きでした。 父も美術大学を目指してもいましたし、美術館にもよく行きました。 震災があった時には茨木にいました。 5月にボランティアで参加しました。 瓦礫の山が渦のように見えて、若葉,胎児などこれから生まれるであろうものも渦に見えて、生まれるものもと終わりの形は共通していると思った時に、目の前の風景に絶望しました。 自然は循環しているものだから、人間も又作り直して始まればいいのかなあと思いました。 そこから渦が絵のモチーフになりました。 石巻のいろんな経験を経て卒業制作展に取りかかる時期になり、自分の土地に向かい合いたいと思って、題材にして見ようと思いました。
「私の故郷 福島」は縦10m×横3mの大きさです。 当時は放射線のことが騒がれていましたが、東京の人が見たときに福島の人と同じく向き合ってもらいたいと思って選んだのもあります。 福島の土を茨木のアトリエに持ち込んだので、先生と喧嘩をしたことがあります。 先生自ら放射線量を測って安全証明書を書いてもらって展示できますという証明をしました。 自分の故郷も安全だという思いもありました。
土の色見票を作っていろいろ土を集めていきました。 故郷自慢の様なものでそれを絵にしたものです。 怖がるか心配なところもありましたが、土ってこんなに綺麗な色がいっぱいあるねという感想のほうが多かったです。 自分自身も土に魅力を感じました。
進みゆく復興の中で、そこで生きる人がどのように考えて生きているのかと言う、リアルタイムな動きに寄り添ってゆくことが必要だと思いました。 そのためには福島の人が生活環境が変わって抱く説明できない喪失感を描き出す、例えば土着の神様を見ると心から安心するというインスピレーションを頂いて、遠い祖先との繋がりを連想する祠とか、祭りとか、土着的なものをモチーフに具現化しようかなと思っています。 汚染されて価値が見いだせなくなった土地、自然素材を別の価値を見出してゆく事はできないかなと考えています。 自分の住む土地の魅力や土地を再発見するきっかけになってくれればいいと思っています。
現地のものを使っているところ大きいと思います、素材の力は大きいと思います。
お薦めの一点ですが、岡本太郎さんが書いた「今日の芸術」という本です。 爆発の意味が本を読むと判ります。 芸術の本質を教えてくれるような本です。