沢田敏子(声優) ・〔時代を創った声〕
沢田さん(86歳)は『アルプスの少女ハイジ』のナレーション、『眠れる森の美女』のマレフィセント、『アダムス・ファミリー』のモーティシア・アダムスの女優アンジェリカ・ヒューストンの吹き替えなど、数多くの作品を担当してきました。 現在も活躍中。 活動を開始して来年で60年。 アンジェリカ・ヒューストン、『007』シリーズではMを演じてきたジュディー・デンチ、フェイ・ダナウェイ、ダイアン・ウィーストなどを担当してきました。
2年前に終了した『グレイス&フランキー』というリリー・トムリン、ジェーン・フォンダ、マーティン・シーン、サム・ウォーターストンなどアカデミー賞受賞俳優4人、大人のコメディーです。 人生の喜怒哀楽をデフォルメして、毎週上機嫌でお仕事をしていました。 リリー・トムリンさんはまだ私の身体から抜けていない感じです。
福岡県出身で5人兄弟の長女で、幼いころから しっかりしなさいとしつけられました。 いつも身構えて生きているというところがあったかもしれません。 好奇心は人一倍強かったです。 中学1年のころには母が定期購入していた雑誌(女の人の暮らし方、センス、ファッション、知恵等々)を、秘密の時間に吸収して、鼻高な気持ちになっていました。 高校ではテニス、コーラス部などで楽しんでいました。 哲学部にもいました。父の仕事の関係で転勤が多くて、出会った友達とは別れなければならないという思いが沁みついて仕舞って、なんでだろうと深堀りする性格でした。 高校3年になって東京に来ました。(友達が出来ない。)
製糖会社に入社し秘書課に配属しました。(18歳) お茶くみをやっていました。 別の世界をと思って辞めました。 友達からいい声をしていると言われたこともあり、東京アナウンスアカデミーに行くことにしました。 民放で生コマーシャルと言うジャンルがあり、レギュラーになりこれで行こうと思いました。 或る時、「沢田君そういう仕事をしていたら使い捨てになるよ。」と言われました。 そこで演技を勉強しようと思いました。 文学座演劇研究所の3期生として入りました。
東京芸術大学の宮川睦子先生が開発した「こんにゃく体操」を先生が直に来て教えてくれました。 身体を全部脱力する、その後で自分の意識するところにポッと力を入れてゆく。 意識の伝わり方を身体で学習する。 それが衝撃的でした。 先生から「美しく見せようと意識しているでしょう。」と言われて、「まずその意識を捨てなさい。」と言われました。 「まずニュートラルにしなさい、そうするとファーストギアにもセカンドギア、サードギアにも入る。」と言われて凄く納得しました。 今も私のなかで生きています。
声の仕事がしたくて卒業した時に劇団には残りませんでした。 最初の仕事は吹き替えでした。 当時アニメをやるという事は何故か軽蔑されました。 声優も今みたいに認知されていませんでした。 ナレーションの仕事としては1973年に放送された『アルプスの少女ハイジ』を担当。 演技というのは喜怒哀楽などの感情をデフォルメして、自分の音域をブレークするときもありましが、ナレーションは或る音域を守りながら、感情表現をしてゆく。 大平透さんが、「ナレーションなどは限られたなかで最大限の内容を凝縮して表現する、吹き替えは日本の俳句と同じだ、決められた形のなかで奥の深い無限な情景、心情とかを歌い上げる。 それと同じだ。」と言ってこんな明言はないと思いました。
1985年ごろから長野県松本市のJR松本駅、長野駅の自動音声を担当。 2004年までは東京の上野駅でも流れました。 制作側から「今までにない雰囲気を出してください。」と言われました。 温かい雰囲気を出そうと思って、「焼き芋」というのを思いだして、「上野」とやって見たら「それで行きましょう。」と言う事になりました。 私は「上野おばさん」になっています。 松本も旅情を感じるようにしてもらいたいという要望がありました。 いろいろやりましたが、やまびこの感じがするように「上野」」よりも少し伸ばし気味にやりました。
『ワンス・アポン・ア・タイム』(原題:Once Upon a Time)のなかでロバート・デニーロにレイプされるという女優さんがいましたが、その方の役をやって、チューズデイ・ウエルドという女優さんですが、「あなた」と言うんですが、「あなた」を9回撮り直しされました。 奥の深い「あなた」でした。 流れの中で言葉になる。
今、240名ぐらいの生徒がいます。 週一で6時間の授業をやっています。