栁澤哲(シドニーオリンピック競歩日本代表・解説者) ・【スポーツ明日への伝言】競歩の魅力~歩くことこそスポーツだ~
この夏のオリンピックの陸上の競技で日本選手が唯一メダルを取った種目は歩く速さを競う競歩でした。 競歩では2019年の世界選手権で日本は二つの金メダルを獲得していて、今や世界をリードする立場になっています。 競歩の魅力を維持するのが難しいと言われる歩く形、フォーム、日常のウオーキングへのヒントなどシドニーオリンピック競歩日本代表で競歩解説者の栁澤哲さんに伺います。
解説者として皆さんに判るように言語変換するという事です。 皆さんが普段使う判り易い言葉にしてしゃべろうと思っています。 札幌で男女20km、男子50kmの競歩が行われ男子20kmでは池田 向希選手が銀メダル、山西 利和選手が銅メダル 50kmでは川野 将虎選手が6位入賞という好成績を残しました。 20kmではメダル獲得は日本選手では初めて。 金メダルを取ってほしいという思いはありました。 メダルを取ることは競歩としては至上命題だったと思います。 2019年の世界選手権では20km競歩で山西 利和選手が金メダル、50km競歩では鈴木雄介選手が金メダルを取ったので、2020年には東京オロンピックが開催される予定でしたので、この二つの種目が金メダルというのが理想として描いていた目標でした。 ドーハの時には暑さ対策はある程度確立されていました。 暑さ対策は2016年から細かくやっていました。
走ると歩くを明確に区別するために、両足が離れてはいけないという事と、膝のバネを使って前に進んではいけないという事です。 重要なことは人の目で判断するという事です。早く歩くとわずかに足が浮いてしまう。 それを判断するのが人(審判)の目です。 20kmでは一周1km、50kmでは一周2kmで、そこに6人の審判がいます。 選手が違反をしていないかどうかを必ずチェックをしている。 違反をしていそうだと注意という事で黄色いペダルを出します。 直し切れなかった場合は警告という事で赤いカードをだし、スタート、ゴールのところに失格掲示板があり、膝が曲がっていた場合は「く」のマーク、両足が浮いてしまっている場合は「W」のマークが出るようになっている。 これが3つ付いた時にペナルティーエリアに入らなければいけない。 20km競歩だったらそこに2分待機しなければいけない、50km競歩だったら5分間待機しなければいけない。 そこから戻っても4枚目が出て仕舞ったら、失格となる。 失格になりやすい選手は集団の内側に入って審判の目から見えないようにする。 レースの駆け引きになる。 3人で先頭争いをしていて一人が2枚のレッドカードを貰っている場合に、3枚目を貰うとペナルティーエリアに入らなければいけないので、他の二人はわざとペースを上げるとついてゆくしかないのでフォームが乱れてきて、3枚目を貰ってしまう可能性がある。 競歩の場合にはゴール後に失格もあります。 ゴールするときには3枚目のカードは集計所に集まってこない。 ゴールをした後に失格してしまうという事はあまり珍しい話ではありません。 私も優勝したんですが、失格したことがあります。
競歩は高校1年生の秋ぐらいから始めました。 走るよりも歩く方が成績がよかった。 山崎勇喜選手はマネージャーをやるか競歩をやるかどっちかにしろと言われて競歩を選んだそうです。 競歩に憧れてという選手はほとんどいなかったですね。 山梨学院大学に進み、厳しい合宿から中途でかえってしまって、母親、先輩からの想いを胸にしっかりやらないといけないと思って覚悟を決めました。 1994,5年に社会人になって日本記録をどんどん作る。 アトランタオリンピックを目指したが、代表にはなれなかった。 一つ目の選考会では勝つことが出来たが、二つ目の選考会(日本選手権)では失格してしまった。 三つ目の選考会では失格をした選手としては優勝が最低の条件になってしまった。 最後の二周目で中国の招待選手がパッと飛び出した。 無理して中国の選手についたが、最後の一周で失格のカードを見せられてしまって、30分ぐらい泣いていました。
2000年のシドニーオリンピックに出場することになる。(22位) 高地トレーニング後の東京でトレーニングが酷暑で調整がうまくいかなかった。 2001年の世界陸上の大会では7位入賞。 20kmでは日本人としては初めて世界選手権での入賞となる。 競歩は技術的な部分に趣きがあるという事ですね。 無理と無駄を極限まで省いてゆくというのが競歩のおおきな特徴の一つだと思います。
人間が走らない日はあるかもしれないが、歩かない日はないと思います。 これほど身近なスポーツはないと思います。 変形性膝関節症の方であれば痛くなく歩くことが可能になるし、片足麻痺の人でも骨盤を上手く使ってあげることによって、体幹を使って麻痺の足をスムーズに出るようになったりするので、スポーツの持っている技術的な部分というものを社会に還元するという事はとても意義のあることだと思います。
正しい骨盤の使い方としては、骨盤はお尻の足だと思ってくださいと言っています。 お尻が前後に動くような感覚で歩いていただくと、自然と骨盤を使うような結果としてなるので、骨盤はお尻の足だと思って歩いていただきたい。 歩行と認知症は因果関係があると言われていますし、歩けなくなるほど生活習慣病のリスクは高くなってきます。 スポーツとして歩くことを楽しんでいったら、健康が手に入ったというのが一番続くやり方だと思います。