2019年10月3日木曜日

豊田泰久(音響設計家)          ・豊かな響きを追い求めて

豊田泰久(音響設計家)          ・豊かな響きを追い求めて
66歳、大学を卒業した後1977年に東京の音響設計事務所に入社して音響設計家としてスタートしました。
これまでに東京のサントリーホールや札幌コンサートホールを始めアメリカ、フランス、中国など50以上のコンサートホールの音響の設計に携わってきました。
豊田さんが目指すコンサートホールの音は各楽器の音が明瞭に聞こえること、豊かな響きを持つことだそうです。
豊田さんが40年以上かけて築いてきた音響設計とはどのような世界なのか、そこにかけてきた意味合いは何か伺いました。

仕事の本拠地はロサンゼルス、とパリ。
およそ20年前にアメリカに引っ越して今は海外のプロジェクトを担当しています。
かばいきれなくなって2008年にパリにオフィスをオープンしました。
外国では人種の違い、文化、宗教、考え方が全然違うので、うまくいかないことの原因になったりします。
1952年広島県福山生まれ、父親が音楽好きで、レコードが家にたくさんありよく聞いていました。
シューベルトの未完成交響曲をたまたま選んで聞いた時に、私にとっては衝撃的でしばらくの間は毎日聞いていました。
中学校ではブラスバンドがありサックスホーンをやる事になり、面白かったです。
高校は弦楽合奏、管楽アンサンブルの部があって、先生がせっかくあるのだから時々オーケストラをやろうという事になって、オーボエを買おうという事でそれを担当したいと申し出ました。
ハードルの高い楽器でした。
大学は理工系で、九州芸術工科大学で音響の設計学科があり、そこに入りました。
クラブ活動でオーケストラがあり、そこで楽しく過ごしました。

音楽に関係した仕事ができればという事で、ホールの音響設計の仕事があるという事で東京の音響設計事務所に入社しました。
70年代後半の入社でしたが、公害問題が出てきているころで、騒音測定の仕事でした。
音の理屈、音の計算、収録、分析など音の基本的なところを学ぶことができました。
30代でサントリーホールを手掛けることになりました。
コンサートホールはクラシック音楽の楽器がどういう風にホールの中でうまく響くか、それをコントロールするわけですが、マイクロホン、スピーカーは使わない生の音なのでホールの中でどういう風に響くか、それを設計するわけです。
究極的にはホールの形、材料になるわけです。
それをどういう風に選んで調整してゆくのかという事になります。
音は感性の世界で話をするので、「いい音にしてください」という事になってしまう。
残響時間、量 残響の質 をコントロールしてゆく。
物理的な数字がはっきりしてくると計算に乗ってくる。
サントリーホールの場合は残響時間が2.1秒だったと思います。
残響時間よりも重要なものもあり、結局はいい音かどうかという事になってしまいます。
サントリーホールの場合は「世界的なホールを作ってください」、それしか言われませんでした。

サントリーホールの場合の音響とはどういうものか我々が組み立てなければいけないわけです。
我々の勉強にはなりました。
1981年から始めてオープニングが1986年でした。
その半年前に工事が終了して完成しました。
最初のリハーサルは混乱の極みでした。
リハーサルはマーラーの交響曲8番 1000人の交響曲といわれるオーケストラといわれるように、オーケストラも普通の2倍、200人ぐらい、第一オーケストラ、第二オーケストラとまた合唱団も複数いて、アマチュアのオーケストラで、本番の前に全体練習をする会場を探していて、たまたまサントリーホールのプログラミングの人の耳に入って、実現しました。
誰も音響を知らないところでやったわけで、バランスも何もあったものではなくて混乱の極みでした。
普段演奏をしないようなものはやってはいけないと後で判りました。

サントリーホールが完成していろんなオーケストラがどんどん来て、いろんな曲目を演奏することが始まるわけで、どんどんオーケストラがサントリーホールに本拠地を移してきました。
サントリーホールができる前は東京文化会館で、音響的にはいい悪いではなくステージの構造が違っていました。
最初はアンサンブルがきれいではなかった。
海外からもオーケストラが来て結果が良かった。
3,4年経つうちに東京のオーケストラもよくなってきて、新しいホールに慣れるという事はいかに時間が掛かる事なのか、という事だと思います。
コンピューターが発達することによって変わったことはたくさんあります。
音響設計もコンピューターの発達によって変わってきて、いままでできなかったことができるようになりました。
反射音なども計算してゆくわけですが、膨大な量でできないが理屈はわかっている。
コンピューターはあらゆる状況を計算することは得意で、結果がどういう風に見えるか、音がどういう風に分布するのかという事をビジュアル化できる。
画期的なものだと思います。

いい音とはクリアな音だと思います。
デジタルオーディオが発達してオーケストラの細部のレコーディングがクリアに聞こえるようにレコーディングができるようになってきた。
ホールの空間に音が漂っているようなリッチ(豊かな)な感覚、3次限的な感覚。
クリアな音、リッチな音は言葉の上では相反するように感じるが、実際にワールドクラスのコンサートホールに行くとコンサートホール全体が鳴り響いているような感じがするがクリアなんです。
どうやって実現するのかは我々が考えていかないことだと思います。
後から思うと、コンピューターに関しても、音響に対するとっかかり、音楽へのとっかかりもラッキーな面があったと思います。
時期的なタイミングもラッキーなところもあったと思います。
ビジュラルなこと、客席のレイアウト、いろんなファクターが以前とは比較にはならないビジュアルなファクターが含まれてきているので、コンサートホールの在り方がどんどん変わってきていると思います。
ハンブルグのコンサートホール(2100人ぐらい)、ベルリンのピエール・ブーレーズ・ザールホール、この二つはこれから先どういう事が起こりうるのか示唆してくれるのではないかと思います。