平田オリザ(劇作家・演出家) ・"演劇"の力でまちを作り直す
平田さんは56歳、東京駒場にある劇団青年団を主宰し戯曲と演出を担当されています。
青年団の劇場は海外の劇団との交流の場ともなっており平田さんの作品はフランスなど世界各地で上演され高い評価を得ています。
国内では平田さんの演劇論は小中学校の国語の教科書の教材にも採用され子どもたちが教室で演劇を創作しています。
大阪大学、東京芸術大学など大学教育にまで広がりを見せています。
6年前には兵庫県豊岡市のアートセンターの芸術監督に就任するなど演劇を通して街づくりにも取り組んでいます。
大阪大学が本部校ですが、東京芸術大学など全国の客員教授をさせてもらっています。
東京芸術大学では演劇学部はありません、普通外国の先進国では国立大学、州立大学には演劇学部はありますが、唯一日本だけはありません。
兵庫県豊岡市に徐々に拠点を移すという事でまず私が先月末に引っ越しました。
2021年に開校を目指して日本で初めて演劇、ダンスを本格的に学ぶ大学ができます。
仮称で兵庫県立の国際観光芸術専門職大学という事になっています。
演劇を学問として学びたいという学生が結構います。
世界に通用するオンリーワンの大学をつくりたいと思っています。
地方は人口減少が激しいが大学がきちんと運営されれば相当人口減に歯止めができることが期待されます。
高度経済成長はもう無理だと思っていて、日本は最も早く超高齢化社会を迎えるし人口減少は歯止めはかからないと思います。
移民という選択指もありますが、日本では急速に入れると混乱することがありますし、ゆっくり確実に入れてゆく方がいいと思います。
東京は圧倒的に出生率が低く1.2ぐらいになっていますが、豊岡市は1.8ぐらいになっています。
若者は東京に集中してしまう。
若者が地方に戻ってこない理由は3つあると思います。
①教育
②医療
③広い意味での文化
教育、医療は大分よくなってきているが、田舎はつまらないといいます。
面白い街づくりをしないといけないと提言してきました。
私は演劇なので演劇を核にして街の再生のお手伝いをしてきました。
仕事があれば男は就職口があって戻ってくる、奥さんは付いてくるという発想ですが、奥さんが反対する移住は考えられないと思います。
奥さんの一番の関心は子育て、教育だと思います。
住みやすい、住んで楽しい街を選んで若者は帰ってきます。
北海道東川は写真の街東川という事で一時6000人にまで減少しましたが、8000人ぐらいに増えてきています。
香川県の陶(すえ)小学校で先生方が演劇を核に取り入れてみようと考え、週に1,2時間演劇の授業を取り入れました。
国語の授業と連動させました。
演劇的手法を使った授業で成果を上げた小学校も出てきています。
私は先生方の指導などをしてきました。
班ごとに発表してそのどこが良かった、どこがおもしろかったなどをほかの子たちが言いますが、全員が手を挙げて褒めて活発にできていました。
演劇教育の利点は居場所が作りやすい、役割分担がしやすい。
これからの多文化共生型の社会にとっては非常にいい教育効果があるのではないかと思っています。
日本では一般的に自己肯定観が低い。
自己肯定観を高めていくと学力テストの成績も上がってゆく。
非認知スキル、数字では表せない機能、集中力、忍耐力、やり遂げる力などいろいろあります。
その中でも自分を大事にする気持ち、友達と一緒にやる事が楽しい、そういう能力が最終的には学力テストに関係してくる。
世界の先進国では、高校では音楽、美術、演劇ですが、日本では音楽、美術、書道です。
演劇をやっていない国は非常に珍しい、演劇はやってこなかったので試してみるのもいいんじゃないかと勧めています。
四国学院大学に演劇コースをつくりました。
今は青森、沖縄からもわざわざ来て入学してくれます。
週末を集中講義の時間にあてて東京からトップクラスの若い演出家を呼んで東京と遜色のない授業をしています。
4年間演劇に打ち込んだことがその人の人生を豊かにすることが一番大事だと思っています。
コミュニケーション能力の必要な職業が今後どんどん増えてゆくと思います。
幼稚園で音響や照明に詳しい先生がいれば格段に良くなります。
大学でやってきたことを生かして少しずつ周りを幸せにしてくれる人が育ってくれればいいと思います。
兵庫県の豊岡市、1000人収容の会議場がほとんど使われていなかった。
県から市に払い下げることになったが、市長が劇団とかダンスの集団に貸したらどうかといいだして、たまたま担当の方から相談を受けました。
上演をしない稽古場だけの施設をつくりました。
交通事情の難しい所でしたが蓋をあけたら世界中の地域から応募があり、来年度も23か国から80件ほどの応募が来て、そこから15団体選んで1~2か月滞在してもらうという事です。
滞在するアーティストは無料で使えますが、最後の成果発表してもらう事になっています。
世界最高レベルのダンス演劇を市民が無料で見られるという環境になっています。
東京文化会館などで見る演劇が豊岡が今生産地になっています。
城之崎 文人などが多く滞在しています。
「21世紀の城之崎にて「」ができるかもれない、小説ではなくてどんな芸術になるのかはわからないが、今度は世界に発信できる。
いい作品ができればできるほど豊岡、城之崎が世界に広まってゆくという事です。
地方都市の風景が画一化してきて、失ってしまったものが多い。
インターネットの通販によって、郊外型のショッピングセンターも危なくなって来るかもしれない。
人と人の出会う場所をつくれば地方にもチャンスはあると思います。
地方はまだ豊かな文化、人的資源を持っていると思うが、生かされていないのは、自己決定能力に欠けているのではないかと思います。
リスクをとって自分の判断で街を作ってゆく。
そういった自治体だけが生き残っていくんだと思います。
そうではないところは広告代理店、コンサルタントにみんな相談しますから。
そこでは何百という自治体から相談を受けていて当然同じことになります。
それぞれの伝統とか強みを生かすという事なんだと思います、足りない人材は外から引っ張ってくる、広告代理店、コンサルタントに丸投げしている自治体は生き伸びてはいけない。
市民全体の自己決定能力(文化の自己決定能力)を高めてゆくしかないと考えています。
自分で考える力を教育に入れてゆくしかないと思っています。
宮沢賢治は昼は農作業、夜は演劇、音楽を楽しんだり、エスペラント語を勉強したり哲学の議論をしたりする協同組合みたいなものをつくりました。
自分たちでなにを作りどう売ってゆくかを自分たちで考え実践できる能力がないといくら農業の技術だけ発展させても自立できないと、そのためにはセンスが必要でそのセンスを磨くのは音楽、演劇、絵画、アートなんだと。
井上久さんは宗教だけでは熱すぎる、科学だけでは冷たすぎる、その中間に宮沢賢治は芸術を置いたんじゃないかと言っています。