野村万之丞(能楽師狂言方) ・〔にっぽんの音〕
案内役:能楽師狂言方 大藏基誠
野村家は元々石川県の金沢の出身です。 家の歴史は約300年ぐらいですが、150年間ぐらいは金沢に拠点を構えていました。 今も一門の一部が金沢にいます。
子ども達には、人間は誰でも失敗をしてしまうものだが、狂言ではそういった登場人物を笑って、そういったことは誰にでもあるよと、失敗を許容するわけではないが、観て明るく生きて行こうメッセージもあるような笑いの喜劇だという事を判りやすく説明しています。 人間の弱さも昔も変わらないというようなニュアンスですね。 650年続く芸能です。 現存するお芝居としては世界最古と言われています。
大藏:狂言には現在流派が二つあります。 大蔵流(大藏基誠がこの流派)、和泉流(野村万之丞がこの流派)。 鷺流があったが、明治維新の時に途絶えて、今は保存会の方が守っています。 野村万之丞(27歳)さんは狂言界のプリンスと呼ばれています。 1996年生まれ、東京都出身。 祖父は野村萬さん(人間国宝、日本芸術院院長)、父は九世野村万蔵さん、伯父は五世野村万之丞さん(贈八世万蔵)。 本名は野村虎之助で。 大蔵家ではミドルネームに代々虎の字を使う。 織田信長から「虎」の字を拝領して、今父が大蔵弥右衛門虎久、いずれ僕も虎の字を付けます。 野村万之丞さんの初舞台は3歳。 野村:「靱猿(うつぼざる)」に基本的には決まっています。
大藏:大蔵流は「伊呂波いろは」で初舞台を踏む事が多いです。 2017年(20歳)に6世万之丞を襲名、「三番叟」を開く。 大蔵流では「三番三」と書きます。
野村:翁の舞が、天下泰平を祈るのに対し、三番叟の舞は五穀豊穣を寿ぐといわれる。 神事に近い。
大藏:翁、三番叟を舞う時には一か月前ぐらいに、「別日(べっか)」という精進潔斎(しょうじんけっさい)をして、舞台に挑んでいます。
野村:「別日(べっか)」は現代では3日前とかもっと前へと簡略化されています。 僕が父から子供の時に言われたのは、女の人と口を利かない、煮炊きを別にする、ぐらいでした。
大藏:当日は女性は楽屋には入ってはいけないことになっている。 女性蔑視などと言われてしまうが。 そもそも神様は女性の神様であって、神様に対して男性が身を清めて舞台に立っている、ところからだと思います。 女性を蔑視しているわけではない。
2020年野村万之丞さんは狂言の節目の演目「釣狐」を開く。(コロナ直前) 僕は「釣狐」は二度とやりたくはなかった。 体力面も辛いし、いろいろ辛いです。 心技体が揃っていないとできない。 24歳までにやらないと体力が持たない。
野村:今度は弟(野村拳之介)がやります。 「釣狐」の毛皮は先人の汗が沁み込んでいて、舞台に立つと暑くて、息苦しくて、途中で記憶が飛んでしまうような状態でした。 パーカーのフードを被って走り回っていました。 ダンベルで家で鍛えています。 筋肉が付き過ぎるとしなやかには踊れないのでバランスが難しいです。
大藏:はじめ舞台に出てきて「名のり」(私はどこどこの誰誰ですと、これから何々をしますという事を必ず名のる。)を行います。 武士が相手と戦う時に自分は名のるわけですが、こういう文化が舞台にも来てるのかなと思います。 能、歌舞伎、文楽なども名のります。 流派、家によってイントネーションが違う。 場面の変る言葉による演出もあります。 向きを変えるだけで場面が変るという事もあります。 いろいろなキャラクターが登場します。 お能は面(おもて)を付けますが、狂言は基本は付けません。
野村:「梟山伏(ふくろやまぶし)」などは幼稚園でも笑ってもらえます。 鳴き声だけでも受けます。 弟が物の怪(妖怪)に取り憑かれたに違いないと考えた兄は、山伏(修行者・祈祷師)のもとを訪ねて、弟を診てもらいます。 或る意味伝染病を描いています。 好きな演目は子供のころは「二人袴」が好きでした。 最近は「萩大名」がいいかなあと思います。
大藏:太郎冠者は大名などに使えている召使いですが、いろんな太郎冠者がいます。 だいたいは間抜けが多い。
野村:悪の役がなかなかできなくて、一番の課題かなあと思っています。 「萩大名」は萩が盛りの庭見物があり、即興の和歌を詠むことを見物客に所望する。 太郎冠者は一計を案じて和歌(「七重八重九重とこそ思ひしに十重咲き出ずる萩の花かな」)のカンニング法を伝授するのですが、無教養な大名を風刺しつつも無邪気で稚気あふれる姿を描き、従順な召使いとのやりとりが滑稽に展開される作品です。
「六地蔵」もいいですね。 在所で六地蔵堂を建立した田舎者は、中に安置する六体の地蔵を買い求めに京の都へやってきます。都の賑やかさになかなか仏師を探し出せない田舎者の元へ、都の詐欺師(素っ破)が近づいて自ら仏師であると偽り、金を騙し取ろうとあれこれ企てますが・・・。
大藏:「お茶の水」の演目でも流派によって随分違います。 見比べてみると面白いと思います。 日本の音とは?
野村:「三番叟」の「もみだし」(「三番叟」の最初の前奏の音)を聞くと正月だなあと思います。 「ふらっと狂言会」で若者が来やすくなるような会を設けて活動しています。
大藏:来月立ち合い狂言会が行われます。 狂言の10家の次世代を担う若手が中心となった会です。(10周年記念)